eバイク旅ノート Vol.74 eバイク日本一周14「出会いと人の優しさに触れ走る猛暑の東北」

60歳オーバーの夫婦がeバイクで日本一周の旅に出た。今年6月に神奈川県の自宅をスタート、関東、新潟、東北と走り秋田からフェリーで北海道へ渡った。北海道は時計回りで最北端(宗谷岬)、最西端(納沙布岬)など各地をめぐり函館までやってきた。フェリーに乗れば青森、いよいよ東北の旅が始まる。

DAY75

約2か月間走り回った北海道とも今日でお別れ。昨日は函館の友人の家でお世話になり、久しぶりに旅を忘れて、まったりのんびり過ごした。これからフェリーで青森へ渡り本州を南下して行くのだが、一つだけ心配があった。

それは今年の異常な暑さだ。涼しいといわれる北海道でさえ30℃になる日があり、エアコンが欲しい~っと思ったことが何度かあった。しかし本州の暑さはその比ではなく天気予報では36℃、37℃など、とんでもない数字が躍っている。熱中症の恐れがあるので外出を控えるようにと言われているようだが、僕たちは自転車旅。走らないわけにはいかない。37℃の中を自転車で走ったら? ヒロコは大丈夫か? 不安を抱えながらターミナルへ向かった。

友人に見送られ、函館12時発の津軽海峡フェリーに乗船した。「さよなら北海道。また来るからなー」函館山に手を振った。お昼ごはんは節約、コンビニで買っておいた菓子パンで済ませる。船内は乗客が少なくとても静か。シートに余裕がありゆっくり体を休めることができた。

15時40分。フェリーは青森港に着岸した。青森ベイブリッジを渡って市内に入る。ホテルにチェックインまで少し時間があるので“青森ねぶた祭”の歴史や魅力を紹介する施設『ねぶたの家ワ・ラッセ』へ行ってみる。いつかと思いながら結局今年も行けなかった“青森ねぶた祭”。せっかく青森にいるのでその一端だけでも感じてみたい。

入場料620円を払い巨大な建物の奥へ進んで行くと広い空間、ねぶたホールに出た。今年実際に使われた大型ねぶたがいくつか展示されている。近くで見るとその大きさ、鮮やかな色使い、造形の美しさに圧倒される。これぞまさに日本の芸術だ。この大きなねぶたが通りを移動したり、ハネコたちが激しく踊る姿を想像すると興奮した。やっぱり、いつか本当の祭りを体験してみたい。

宿泊地:青森県青森市
走行距離:9.2km
総走行距離:3513.3km

古谷さんと
函館でお世話になった30年来の友人、古谷さんがフェリーターミナルまで見送りに来てくれた。次に会えるのはいつだろう、その時までお元気で!
フェリーの船内
函館港から津軽海峡フェリーに乗り込んだ。青森まで約3時間40分。どんな荒波がきてもバイクが転倒しないよう、しっかりお願いします(笑)
大型ねぶた
“青森ねぶた祭”の歴史や魅力を紹介する施設『ねぶたの家ワ・ラッセ』に展示されている大型ねぶた。今年、各賞に輝いたねぶたが並んでいる

DAY76

青森市内中心にあるホテルを出ると、国道4号で南へ向かった。車も民家もお店も多い、そしてコンビニが次から次に現れる。北海道の時のような食べ物の不安はもうない。関東に入ればさらに、人も店も増えるだろう。便利になる嬉しさと同時に、北海道の大らかさがなくなってゆく寂しさを感じる。

温度計は35℃の表示。北海道では考えられない気温だ。朝10時でこの気温、いったい何度まで上がるんだろう。市内を出るとさすがに車も少なくなり、のんびりした景色になる。左手に陸奥湾が見えてきた。今日は快晴、海が青い。走っているだけで汗がダラダラ流れてくる。熱中症にならないようこまめに休憩を繰り返し、水分補給する。

野辺地から県道8号に入り、今日泊まる予定のキャンプ場がある小川原湖方面へ向かった。森の道を進んで行く。旅をしていると山奥やへき地など、どんなところでも人が住んでいることに感心する。「ここの人たちはどんな生活しているんだろうね?」「もし僕たちがここに住むことになったらどんな仕事をする?」「えー私はちょっとここは無理だな~」「半年だけなら住めるかも」「でもさぁ……」夫婦の妄想トークのネタは尽きない。

道の駅おがわら湖に到着。ここからキャンプ場はすぐなので焼きそば、いなり寿司など夕食を買っておく。準備を整え丘を登ると『小川原湖ふれあい村キャンプ場』が見えてくる。整備されたキャンプ場で大型のケビンハウス、さらにファイアーサークル、パターゴルフ場まである。僕たちが泊まるのはオートキャンプ場、サイトごとに電源があるのでバッテリー充電も安心だ。

日陰のあるサイトを選んでテントを張ったが、まだまだ気温が高いので、しばらくはベンチでスマホをいじったり、ごはんを食べたりして日が傾くのを待った。シャワーを浴びるころには、いくぶん気温が下がってきたのでテントに入った。もちろんテントの窓は全開。この暑さの中、眠れるか心配したが、疲れていたらしくあっという間に夢の中だった。

宿泊地:青森県東北町
走行距離:72.6km
総走行距離:3585.9km

陸奥湾
青森市を出発すると、東北地方を南下する旅が本格的に始まった。国道4号を走っていると左手に見えてきた陸奥湾。バイクを降りると美しい海を眺めた
青森県道
国道4号を離れてマイナーな県道に入ると車が減り、景色も豊かな自然になる。雄大な景色がどこまでも続く北海道に比べると本州は景色の変化に富んでいる
田園風景
狭い山道を抜けると、大きく視界が開け田園景色が広がった。こういう景色を見ていると気持ちまで開放的になる。今日の目的地、小川原湖まであと10km
小川原湖ふるさと村キャンプ場
『小川原湖ふれあい村』キャンプ場にテントを張る。北海道ではほとんどバンガロー宿泊。テントは久しぶり、この暑さで眠れるか……ちょっと不安
キャンプ場の電源
充電がポイントとなるeバイク。今回は電源付きのサイトだったが、他のキャンプ場でも受付で相談をすれば充電場所を提供してくれる
小川原湖
小川原湖は淡水と海水が混じる汽水湖で青森県で一番の面積を誇る。シラウオやワカサギなどが豊富に獲れる。冬は渡り鳥の飛来地として知られる

DAY77

朝6時。少しでも涼しい午前中に距離を稼ごうと、早めに起きてテントを畳み走り出した。県道を繋いで十和田市へ向かう。途中で青森県のローカルコンビニ『オレンジハート』があったので立ち寄った。品揃えは普通だが、お弁当の充実度が半端ない。それも手作りでどれもおいしそう。「お昼ごはんの時間に見つけたら買おうね」とヒロコが嬉しそうに笑った。

十和田市に入り国道4号に合流。これからしばらくは国道4号の旅となる。9時過ぎ、道の駅『とわだ』で休憩にする。売店の果物野菜の棚を見ると「なつしずく」という、初めて聞く名前の梨があった。4つで200円と安いので買ってみる。休憩所で食べてみるとこれが意外と甘く、みずみずしさもあっておいしかった。

休憩所にいた子連れの女性が「自転車で旅しているんですか?」と声をかけてきた。話をすると京都からの移住者で、学生時代に日本とニュージーランドを自転車旅行したことがあり、僕たちを見て懐かしくなり声をかけたという。旅のことや東北での生活など、いろんな話をした。短い時間だったが、こういう出会いが旅、なんだかとても嬉しかった。

灼熱の太陽を浴びながらトコトコと進んで行く。一桁国道だが、田舎なので交通量はそれほど多くない。12時ちょっと前、産直の店兼食堂を見つけたのでここで昼にする。食後は地元で採れた果物や野菜が豊富に並んだ売り場をふたりでウロウロ、大好きな桃があったので買うことにした。

レジで支払いを済ませ自転車に戻るとハンドルの上にリンゴが置いてあった。差し入れかな? 誰だろう? 周りをキョロキョロしていると、青果のおじさんが「ハネ品(規格に合わないもの)だから、持っていきな」と笑った。厚意に感謝する。ここ南部町はさくらんぼから始まって、桃、梨、リンゴなど……季節の果物が採れる、いいところなんだと教えてくれた。

次に立ち寄ったのが道の駅『さんのへ』。ここでは2か月前、稚内のライダーハウスみどり湯で一緒だった日本一周中のチャリダーあっくんと、まさかの再会があった。彼は北海道の旅を終えて一度千葉に帰宅。数日前から旅を再開したという。この暑さで自転車は大変だけど、お互い頑張ろうと励まし合った。

今日の最高気温は36℃。熱中症が怖いのでこまめに水分補給。さらにコンビニで涼んだり、自分たちなりに対策をしながら進んで行った。しばらくすると二戸市の標識、いよいよ岩手県入りだ。午後3時、二戸のビジネスホテルに到着した。部屋のドアをかけると涼しい、天国だ、エアコンがありがたい。夕食の後、冷蔵庫で冷やしていた桃を食べると最高に幸せだった。

宿泊地:岩手県二戸町
走行距離:66.6km
総走行距離:3652.5km

イギリストースト
発売から56年愛され続けている青森のご当地パン『イギリストースト』。食パンにマーガリンとグラニュー糖を塗っただけなのに、なぜかおいしいんです
リンゴをくれた人と
青森県三戸郡南部町。立ち寄ったお店でリンゴの差し入れをいただいた。こういう優しさや親切に触れると嬉しいし、ペダルを踏む力も湧いてくる
あっくんと
2か月前の稚内のライダーハウスで会ったあっくんとまさかの再会。日本は狭い。暑い日はまだまだ続くけど頑張って旅を続けてください♪
単管バリケード
二戸で見つけた道路工事用の単管バリケード。これまでいろんな種類の動物を見てきたが、岩手のわんこそばがキャラクターになったものは初めて見た

DAY78

今日の目的地は盛岡。走り始めると、今日は意外と涼しいことに気が付く。青森に入ってから35~36℃の暑さが続いていたが、今日は31℃前後。5℃低いとずいぶん違う。いつもはドライヤーの熱風だが、今日は扇風機の風に感じる。

昼過ぎ、岩手町にある道の駅『石神の丘』に到着した。隣接する石神の丘美術館のディレクター、純さんにご挨拶。実は5年前に、この美術館で世界旅の写真展を開催。大変お世話になった人なのだ。石神の丘からはゆるい下り坂が多くなり、いいペースで進んだ。5時過ぎビジネスホテルにチェックイン。夜は盛岡市内にある有名焼肉レストラン『食道園』で純さんと焼肉と冷麺を堪能。幸せいっぱいの夜となった。

宿泊地:岩手県盛岡市
走行距離:84.7km
総走行距離:3737.2km

十三本木峠
岩手県一戸町。気が付くと国道4号の最高地点『十三本木峠』標高458mに来ていた。坂を上っている感じがしなかったので、標高458mの数字にビックリ
わんこきょうだい
道の駅『石神の丘』ではさらに、わんこそばが自転車に乗ったり、空気を入れたり、トイレに入ったり(笑)。わんこきょうだいというキャラクターらしい
食道園の冷麺
盛岡グルメのひとつが冷麺。1954年創業の食道園は盛岡冷麺発祥の店。自家製キムチ、コシのある透明な麺、厳選された牛肉をふんだんに使ったスープが絶妙

DAY79

eバイクの旅は自分の足で少しずつ、地道に距離を重ねて進んで行く旅。観光バス旅行みたいに居眠りはできないし、ゲームのようにワープもできない、もちろん突然2倍のスピードが出ることもない。ペダルをこいで進むのみ。そんなハードな旅に、運動やスポーツもしていない、インドアな61歳女性が実践していることに感動する。出発前は途中で根を上げるんじゃないか? 持病のヘルニアが悪化して動けなくならないか? 不安があったが78日間リタイヤすることなく3700km以上、走ってきた。我が妻ながら感心する。

純さんが時間を作ってくれ、車で市内の歴史ある建物や町屋をめぐり、お昼ごはんは盛岡グルメの『じゃじゃ麺』。盛岡の街並みや山々が一望できる『鹿島精一記念展望台』で大パノラマを堪能。さらに「北海道の後じゃ感動しないだろうな」と笑いながら『小岩井農場』までドライブ。eバイクではできない盛岡観光を楽しんだ。純さんありがとうございます。

宿泊地:岩手県盛岡市
走行距離:0.0km
総走行距離:3737.2km

純さんとじゃじゃ麺を食べる
『石神の丘美術館』の純さんに盛岡名物『じゃじゃ麺』をご馳走になった。もちもち麵に特製肉味噌、きゅうりとネギを絡めて食べる。これもまた盛岡の味
岩山公園の展望台からの眺め
盛岡市の東にある岩山公園の展望台に登ると、目が覚めるような絶景が広がった。市街はもちろんのこと岩手山やその周りの山並み、北上川などが一望できる

取材協力:
ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/ypj/
セナブルートゥースジャパン
https://senabluetooth.jp/
ステムデザイン
https://www.stem-design.net
武田レッグウェアー
https://www.rxl.jp

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