
この間、ペンネームをつけようとAIに「eMTB乗りでライターの中村浩一郎のペンネームを考えて」と聞いたら「『電筆山輪』はいかがですか? 彼の趣味と職業を巧みに組み合わせ、ユニークなキャラクターを表現しています」と返ってきた。俺の趣味ではぜんぜんないが、どうだろう?

自分だけがフルサスeMTBで楽々してる状況は切ない
フルサスeMTBに乗って楽しんでいるMTBライダーは、まだまだ少ない。確かにMTBパークなどでは、少しずつ目にする機会が増えてきてはいる。だが仲間うちはどうかというと、まだ自分だけがeMTBという状況だ。
自分だけが違うという状況は寂しい。他のライダーが苦労して上る中で自分だけが楽なのは、優越感よりも罪悪感が残る。先行っちゃうね、と、ついペダルバイクの皆を置き去りにしそうな心の揺れが起こる自分を許しきれない。

しかもフルサスeMTBで乗っていちばん楽しい場所は、これまでのペダルMTBで乗って楽しい場所とは違うのも問題だ。今どきのMTBパークの主流である、フロー系のスムーズなトレイルじゃない。というのも、フルサスeMTBは戦車だからだ。
戦車のようにバリバリと、上りだろうが走りにくい路面だろうが踏破しちゃえるのが、その走りの一番楽しいところなのだ。

フルサスeMTBならフジヤマだ。日本人ならフジヤマだ。
じゃあどこがいいのか。簡単にいうとワイルド系だ。上りも下りも全部含んださまざまな地形を乗り越えていく走りをするのがとても楽しい。これまで走ってきたパークの中では、フルサスeMTBに最高なのは「フジヤマパワーライントレイル」である。

なめらかな路面ではないワイルドなコースが、戦車のようにバリバリと走るのにいい。下り基調で上り返しを含むプロフィールは、『ダウンカントリー』というダウンヒル+クロスカントリーという昨今流行りのコースを体感できる。しかも日本の象徴・富士山の麓を走れるので海外ウケもばっちりだ。電力会社の富士山にある電線鉄塔下をつなぐトレイルを走るというストーリー性も十分で、ラッキーなら富士山丸見えだ。

ということで、僕が今、一番eMTB乗りに薦めたいパークを、MTBの走行技術を心配することなく乗れる連中ばかりで走ってみたいと思った。その対象となったのがMTBプロショップの店長たちだ。売る側だからこそ、買う側よりも先にeMTBを持っていて、楽しんでいてほしいのだ。ということで集まってくれたのが、次の7名だ。

サイクルハウスMIKAMIの三上和志さん
サローネ・デル・モンテの鎌苅ゆうみさん
BIKE SHOP FORZAの東寛之さん
同じくBIKE SHOP FORZAの風間智晴さん
オガワサイクルの小川雅広さん
輪工房の田口信博さん
そして写真を撮ってくれた自転車専門ウェブサイト『シクロワイアード』・綾野真 編集長。
聞いたところ、綾野さん以外はこのフジヤマパワーライントレイルを走ったことがないそうだ。日本の象徴、フジヤマをeMTBで走ったことがないなんて! 日本のライダーこそ日本の魅力を知らない、その極みとも言える。日本MTB界をリードする店長たちだからこそ、ぜひ走って欲しいと考えた。

フジヤマで感じて欲しかった、フルサスeMTBだけの上りの快感
フジヤマのトレイルは、標高差250mを8kmほどで下り、上り返しの11kmほどを戻ってくる。途中にいくつも上り返しがあり、この上り返しこそが、eMTBで超絶楽しい。

ペダルバイクの場合、上り方はこれまで上り好きたちによって色々と言われてきた。サドルの前に座って、グリップを失わないようにペダルに優しく力を入れていく、とかなんとか。
だがフルサスeMTBだと上り方が圧倒的に違う。フルサスによるしなやかで力強い路面へのグリップ力と、電動アシストによる低速からの爆発的な推進力を活かして上るのだ。

特にこのフジヤマによくある急な激坂では、リヤタイヤをリヤサスのストロークを使って路面に押し付けながら、アシストの加速を使って前に進み、上っていくという感じである。サドルになんか座っている場合ではないが、これまでの立ち漕ぎとも体の使い方が違う。
体をバイクの車体から遠くに離す、とイメージするのがコツだ。自身の体重をペダル→リヤタイヤ→上りの路面に押しつける。リヤサスペンションが縮みながらこれを受け止めてくれるので、その安定感の中でペダルを漕いで上り方向に加速していく。

慣れていないと前輪が上がりがちだが、重心移動でコントロールできる。アシストがあれば、上りで前輪が路面に付いている必要なんてない。このフルサスでのリアタイヤのグリップ力と、前輪なんて必要ない感覚が、フルサスeMTBで一番面白い体験だ。ペダルMTBでは感じられない上りの快感である。
これをぜひフジヤマで店長の皆さんに味わってもらいたかった。みんなさん、その快感を感じてもらえただろうか。

みんながフルサスeMTBなら、全行程時間が想定通りに進む
乗れる連中だけで乗ったことで気がついたことがあった。乗れる技術を乗ったみんながフルサスeMTBに乗っていれば、みんなが同じペースで走れるということだ。

乗り物には自分に合ったスピード/ペースというものがある。MTBでもそれは同じだ。その自分なりの速度感を超えると転けてしまう。
7人もいるので、速いのが好きなライダーもいれば、遅いのが好きなライダーもいる。ペダルバイクでそれぞれが違うライドスピードでトレイルを走ると、繰り返す上り返しなどで、その差は大きくなる。

だがフルサスeMTBなら走りの時間差はほとんど出ない。特に体力差が大きく出るトレイルで顕著だ。それぞれが熟練した技術あるライダーなので、コースの荒れ具合を心配することもない。しかも皆がマウンテンバイカーなので、それぞれの危機管理は自分で行える。これが乗れる連中とだけ乗る最も大きな安心感だ。

遅れていたとしても、それは体力差ではなく、ゆっくり走りたいからゆっくり走っているというだけのこと。あるいは何かトラブルがあったとしても、躊躇なく仲間を助けに向かえる。上り返すなんてeアシストがあれば下りみたいなものだ。

今回、トラブルらしいトラブルは起きなかった。前回の走りで僕がここでバッテリー切れを起こしたので、その経験を活かし「バッテリーは切れる前に充電せよ」を徹底したからだ。バイクに表示される残りの充電数値なんて信用してはならない。あれはただの目安だ。

結局、MTBとして上り下りを含めてしっかり走らせると、500Whフル充電で50km、350Whで35km程度走れる感じだ。つまり、バッテリー10Whで1kmの距離、これがマウンテンバイカーとして電動アシストを走らせるときに考えたい距離感である。
ただ、距離より時間だ。普通は2時間も走れば体力と集中力という自分のバッテリーが切れる。機材のバッテリー切れは体力で補えるが、集中力が切れるとモチベーションや安全管理への意識が薄くなって転けがちになる。ライダーは機材のバッテリーより自分のバッテリーを意識せよ。

eMTBのeはイコールのe、みんなが平等に乗れるようになる
体力に自信がある人もない人もアシストでカバーされ、技術に自信がある人もない人もフルサスの走破性でカバーされる。MTBライダーとしての基本と情熱さえあれば一緒に走れる、楽しめる。

さらにトータルの走行時間差がほとんどなくなるので、全行程の走行時間が想定通りに進んでいく。山の中を走るMTBでのツーリングには、これが何よりもありがたい。

eMTBのeとはイコールのe、みんなを平等に乗れるようにできるマシンという意味だと信じている。MTBという特殊な自転車遊びでは、みんなをイコールコンディションにできるというのは素晴らしいことである。これで遊びの可能性はさらに広がる。
何度も言うが、フルサスeMTBは、お達者クラブのお助けマシンではない。MTBライダーの可能性を広げて夢を実現し、ライダーのポテンシャルをも平等にする、今ここにある未来の自転車なのである。
