60歳オーバーの夫婦がチャレンジと好奇心から始めたeバイクで行く日本一周。昨年は約3か月かけて東日本をぐるっと一周。今年4月6日から、いよいよ西日本を一周する旅が始まった。果たしてどんな旅になるのか?
DAY95
出発の前日だというのに片づけておくべき仕事や旅の準備作業が終わらず、何とか形になったときには既に深夜2時。そんなバタバタ状態は出発の直前まで続き、家を出たときには昼の12時を回っていた。
今日の目的地は小田原。ご近所のいつものお散歩コースを走って相模川へ出る。市街地を通って南下、まずは旅の安全祈願を兼ねて『寒川神社』へ立ち寄って。ここで近くに住んでいる友人のインチャリが会いにきてくれた。一緒に参拝、最後に旅行安全を思ってお守りをプレゼントしてくれた。感謝感謝だ。
インチャリと別れるとそのまま県道を南下、国道134号に出ると西へハンドルを向けた。どんどん陽が傾いてきて二宮の辺までくるとかなり暗くなる。ヘッドライト点灯。まさか初日から夜間走行とは、トホホ……だが、出発が遅かったので自業自得、仕方がない。夜8時過ぎ、小田原に到着した。今日はネットカフェに泊る予定、チェックインする前に、近くの中華屋に入り夕ごはんにする。70歳代のご夫婦が切り盛りする店で、僕たちが自転車で日本一周をしていることを知ると、とても驚き、奥さんは「私はお金をもらってもやらない!」と笑った。その後も45年続けているお店のことや、夫婦のこと、いろんなことをお喋りした。これも旅ならではの出会い。「気をつけて! また来てねー」元気に送り出してくれた。
宿泊地:神奈川県小田原市
走行距離:53.7km
総走行距離:4663.8km





DAY96
昨日は久しぶりのネットカフェ宿泊だった。滞在が8時間と短かったこと、延々に流れるBGM、明るい照明などからヒロコはほとんど眠れなかったという。今日の目的地は静岡県の網代に住む友人宅。普通の家なので今夜はぐっすり眠れるはず、頑張って走ろう。
朝イチで小田原城へ。自宅からそう遠くないのだがふたりで来たのは今回が初めて。お堀の周りは桜が満開、最高の時に来た。自転車を降りて園内を散策、常盤木門や銅門など、歩きながらゆっくり眺めた。
小田原の町を抜けると太平洋が見えてきた。海を左手に眺めながら国道135号を進んでゆく。4月上旬、朝の風はまだ冷たい。真鶴、湯河原と順調に進んでゆく。
今日のお昼は熱海に住むヒロコの友人に招待されているので、住所を頼りに進んでゆくと、かなり山の上のようで斜面がどんどんきつくなってくる。別荘地エリアに入ってゆくとさらに急傾斜になる。
休み休み進んでいたがそれも限界になり、残り1kmあたりから自走では上れず押すことに、とにかく荷物が重い(合計50kg以上)。さらに進むととんでもない傾斜になり、ついに押すこともできなくなった。全身汗だく。友人に携帯でSOS。車にピックアップしてもらうことに。家に着くと友人たちと「やっと着いたー!」「良かったー」と大笑い。一時は諦めかけたが、とにかくたどり着けて良かった。
腹ぺこだったこともあり手作りシーフードスパゲティとサラダは気絶しそうなほど美味しかった。しかし西日本旅、二日目にして自転車を押すことになるとは夢にも思わなかった。おかげでいいネタができた笑(ちなみに荷物を下ろしたら自力で登ることができた)。
苦労した道も下りだと一瞬だ。再び国道135号を走り、網代へ。マンションを訪ねると80歳の友人、松尾さんが出迎えてくれた。松尾さんは早期退職した57歳からオートバイで世界の旅を始め、100カ国以上を旅した凄い人。20年以上の付き合いがあり、バイク旅でオーストラリで会ったこともあった。
マンションの温泉で汗を流し、夜はビール片手に世界旅の話をつまみにして大宴会。共通の旅先、旅仲間が多いので話題は尽きない。いつも明るくみんなを元気にしてくれる松尾さん。僕たちが尊敬する、そして大好きな松尾さん、これからも長く元気でいてください。
宿泊地:静岡県網代町
走行距離:44.6km
総走行距離:4708.4km





DAY97
松尾さん宅を出て、網代港をウロウロしていると雨が降ってきた。すぐに止みそうな感じだったので、レインジャケットだけ着て走り出す。今日の目的地は山を越えた反対側にある函南町。地図を見るとルートがいくつかあったが、昨日の経験から、できるだけ勾配のキツくない熱函ルート選んだ。
再び熱海。『来宮神社』の近くを通るルートだったので、立ち寄り参拝することにした。ここにはクスの御神木があり、一周すると寿命が1年伸びると言われている。僕たちは控えめに2周した。
参拝を済ませると僕たちの自転車に興味深そうに見ている人たちがいた。声をかけると「日本一周すごいですね」と明るい声が返ってきた。姫路からきたファミリーで「どこから来たの」「関西も来るの?」「1日何キロくらい走るの?」質問が飛び交う。お父さんは姫路に来たら遊びにおいでと優しい言葉と名刺までいただいた。これも来宮神社のお導き? とてもいい出会いとなった。
神社を出ると本格的な峠道が始まった。ヒロコは前日の件があるので、いつとんでもない傾斜の道が目の前に現れるのか、身構えている。ところが予想に反して勾配は緩やかで、普通に上っていける。そしてあれよという間に峠のトンネルに到着してしまった。えっ、もう峠? 完全に肩透かし。どうやら取り越し苦労のようだった。
函南ではバイク旅仲間の奥平さんにお世話になることになった。奥平さんと出会ったのは1994年のトルコ・イスタンブール。今から30年前のこと。ふたりともバイクで世界旅行をしていて、偶然同じホテルに宿泊。考え方が似ていることからすぐに仲良くなった。その後は、危険地帯を一緒に越えたり、病気で入院し看病をしたり、苦楽を共にした。
その後は自転車でユーラシア横断した奥平さん、僕たちのeバイクにも興味津々。いつかeバイクで一緒に旅ができたら面白いだろうな、そんなことをふと考えた。
宿泊地:静岡県函南町
走行距離:32.1km
総走行距離:4740.5km




DAY98
昨晩から降り始めた大雨は、朝になっても続いていた。とてもeバイクで走れる天気じゃないから、もう一晩泊っていきなと言ってくれた。友の存在はありがたい。厚意に甘えることにした。
コインランドリーで洗濯を終えると、奥平さんの車で静岡の名物、炭焼きレストラン『さわやか』へと向かった。いろんな人から噂を聞き、いつか行きたいと思っていた『さわやか』。
人気のげんこつハンバーグを注文すると、鉄板の上に丸くて大きなハンバーグがドンと載ったプレートが運ばれてきた。店員さんが目の前で半分に切り、中側を鉄板に押し付け火を通す。その上にソースをかけると完成だ。食べてみると肉肉しい食感で、ボリュームも満点。人気になることも頷ける美味しさだった。
宿泊地:静岡県函南町
走行距離:0km
総走行距離:4740.5km


DAY99
朝、目が覚めると昨日の雨が嘘のような青空が広がっていた。2晩お世話になった奥平さんにお礼を告げて、出発。まずはヒロコのリクエスト『柿田川湧水群』へ向かった。柿田川湧水群は富士山からの伏流水が1日100万tも湧き出る場所で『日本の名水百選』にも選ばれている。
訪れると朝の柿田川公園にはほとんど人もいなくて、とても静か。コンコンと湧き出す水は太陽の光を浴び、青く透明に輝き、とても神秘的。心が洗われるような時間を過ごした。
沼津市内を抜けて『千本松海岸』に出る。ここから堤防に沿って遊歩道&自転車道が続いている、と奥平さんが教えてくれたのだ。おすすめのコースで富士へ向かう。右手は松林、その向こうに富士山が見える。左手には太平洋がどこまでも広がっている。気持ちのいい道を進んで行く。
富士市からしばらくは『太平洋岸自転車道』のルートに沿って進んでいった。ところが、由比の辺りで道が途切れてしまった。どちらへ行けばいいのか? 困っていると、近くにいたおばちゃんが「自転車はあの歩道橋を渡っていくと細い道があるから、それを行くといいよ」と親切に教えてくれた。
言われた通りにいってみると、高速道と国道1号の間に狭い空き地のような舗装路が続いていた。これなら車も通らないし安全、いい道を教えてくれた。
午後4時半、静岡駅近くのビジネスホテルに到着。荷物を下ろすとネットで探した『静岡おでん』が食べられる居酒屋のドアを開いた。カウンターと小上がりテーブルが2つだけの小さなお店で、お客さんは先客の女性が一人だけ。
黒はんぺん、フワ、しのだ巻き、しら焼きなど、静岡ならではおでんを色々食べてみる。継ぎ足しで作られた秘伝の汁に浸かったおでんはどれも美味だった。店主さんから子供時代のおでん話を聞いたり、静岡おでん文化の話も面白かった。そしてゆっくりと静岡の夜は更けていった。
宿泊地:静岡県静岡市
走行距離:69.8km
総走行距離:4810.3km





取材協力:
ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/ypj/
セナブルートゥースジャパン
https://senabluetooth.jp/
ステムデザイン
https://www.stem-design.net
武田レッグウェアー
https://www.rxl.jp