60歳オーバーの夫婦がeバイクで日本一周の旅を始めた。23年6月に神奈川県の自宅をスタート、関東、新潟、東北とめぐり秋田からフェリーで北海道苫小牧へ。約2か月かけて時計回りで北海道を一周。函館から青森へ渡り、東北地方を南下、岩手県盛岡市までやってきた。
DAY80
今日は花巻までの45km、時間に余裕がありそうなので盛岡市内をeバイクで散策。まずは、盛岡のランドマーク『岩手銀行赤レンガ館』へ。ここは1911年(明治44年)に盛岡銀行の本店行舎として落成、赤レンガの洋風建築が特徴で国の重要文化財に指定されている。美しい建物にeバイクを入れてパシャリ、いい映え写真が撮れた。その後、盛岡城跡公園やもりおか町屋などをめぐり、盛岡を後にした。
国道4号を南へ。路肩がない上に車が多いので安全を考え歩道に入って行く。ただ歩道はあまり管理されていないようで、どこも雑草だらけ。自転車よりも背の高い雑草の間を描き分け、ジャングル探検気分で進んで行く。最初はそんな状況に困惑していたヒロコだが、いまではそんな道をものともせずグイグイ走っていく。我が妻ながら逞しくなった。
花巻では友人の直さんと久しぶりの再会となった。友達の友達という感じで知り合い10年以上になる。Tシャツのプリント屋さんをしているので時々オリジナルTシャツを作ってもらったり、ネットでのやり取りはしているが、直接会うのは5年ぶり。近況報告やら昔話やら、あっという間に時間が過ぎて行く。お腹が空いたところで、花巻屈指の人気スポット『マルカンビル大食堂』へ向かった。
昔懐かしいデパートの大食堂の雰囲気を残す『マルカンビル大食堂』、入口のショーケースには食品サンプルがズラッと並んでいる。テーブルの上にはレトロな割りばし入れ。一気に昭和時代へとタイムスリップする。僕はナポリカツ(ナポリタン&とんかつ)、ヒロコはマルカンラーメンを堪能、シメはもちろんマルカン名物、10段巻きの巨大ソフトクリームだ。高くそびえるソフトを箸でつまんで食べる、うーん、うまい。全ておいしくいただきました♪ ちなみに今夜の宿はネットカフェとなりました。
宿泊地:岩手県花巻市
走行距離:47.1km
総走行距離:3784.3km
DAY81
花巻のマックで朝マックしていると隣のテーブルにいた青年から「藤原さんですか?」と声をかけられた。えっ?こんなところで?と驚いたが、ツイッターで僕たちの旅を見ていたという。なるほど、ネットの繋がりは距離も年齢も関係ないからね。それにしてもこういう出会いは嬉しい。青年は20歳で、花巻に移住して農業の仕事をしているという。何でもできる年齢、これからさらにいろんなことにチャレンジして欲しい。
遠野に向かって走り始めると、突然、前輪がズルッ。この感覚、まさか!? くそーっ、パンクだ。前方にコンビニが見えたので駐車場まで押して行く。タイヤを外してチューブを確認。そこでびっくり。前回修理して貼ったパッチに、新たに針金の破片が刺さっているではないか。前回とほぼ同じ場所、これってすごい確率じゃない!? ひとり興奮しながらパンク修理をした。
修理を終えて再び走り出す。30分くらい走ったところで岩手の友人、高橋さんがオートバイで現れた。同じ歳の高橋さんとは20年来の付き合い、義足の体でバイクを操り世界一周をしたすごい人なのだ。近くに道の駅があったので休憩することにした。名物『みそソフトクリーム』をご馳走になりながら、共通の友人や旅の話題で盛り上がる。ちなみにみそソフトは味噌の塩味とミルクの甘さが融合していて、想像以上においしかった。旧友とのおしゃべりで元気をもらって再び走り出した。
釜石線と並行して延びる国道283号で遠野へ向かう。景色は山と森、時々民家、のんびりした田舎道が続く。しばらく走ると、国道にかかる大きな『めがね橋』が見えてきた。宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」出てきそうな5連アーチの鉄道橋だ。eバイクを入れて写真を撮っていると、突然の激しい雨が落ちてきた。慌てて近くの道の駅へ逃げ込む。しばらく雨宿りしたが止みそうにないので、そのままランチタイムにした。ヒロコは天丼、僕は十割そば。食べ終えるころには運よく雨は上がっていた。
遠野は僕の両親の生まれ故郷でもある。線香と花を買って父親のお墓を訪ねた。父親が亡くなったのは、いまの僕と同じ年齢、62歳の時だった。当時30代だった僕は62歳という年齢の感覚は正直よくわからなかったが、自分がその歳になってみると父親の無念な思いが、少しわかるような気がした。
3時過ぎ、遠野市内にある民宿に到着すると、荷物を預けその足で『伝承園』へ向かった。『伝承園』は遠野地方の農家の生活様式などを再現した施設。国の重要文化財となっている『南部曲り家』や千体のオシラサマを展示する『御蚕神堂』などを見学した。その後は昔カッパが住んでいたといわれる『カッパ淵』へ足を延ばした。寺の裏を静かに流れる小川、まさかカッパは出ないと思うが、夜ここへ来るには勇気がいりそうな場所だった。
宿泊地:岩手県遠野市
走行距離:62.6km
総走行距離:3846.9km
DAY82
遠野の民宿『りんどう』は母親と息子さんで切り盛りするアットホームな宿。素泊まりだったが、何と厚意で朝ごはんをプレゼントしてくれた。おにぎり、みそ汁、玉子焼き、切り干し大根……どれもおいしく、優しい心遣いと家庭の味に気持ちがほっこりした。ぜひまた、遊びに来ます。お礼を告げ、宿を後にする。
国道340号で赤羽根トンネルを抜けて東へ。山に囲まれた穏やかな景色を走り続けると、沿岸の町、陸前高田に出た。東日本大震災の津波によって大きな被害を受けた陸前高田。高台には多くの住宅が建ち並んでいるが、津波被害を受けた低い土地はほとんど更地の状態。規則正しく立ち並ぶ電柱だけが目立っている。
東日本大震災の時、流されずに残った木が『奇跡の一本松』と呼ばれ大きなニュースになった。現在、その場所は巨大な防波堤が作られ、4万本の松が植林。さらに『東日本大震災津波伝承館』と道の駅『高田松原』なども建てられ、大きな公園になっている。
『東日本大震災津波伝承館』で展示や映像を見終えると、歩いて奇跡の一本松(現在はレプリカ)へ向かった。一本松を眺めていると、大津波の映像が頭に浮かんでくる。後ろの建物は“希望の象徴の遺構”として残される『陸前高田ユースホステル』。どちらも胸が痛くなる存在だが、過去をしっかりと受け止めて、前を向いて進もうと改めて思った。
国道45号で宮城県に入る。国道から見える港はどこも過剰と思えるくらい巨大な防波堤で囲われている。1時間半ほどで走るとり気仙沼に着いた。ここも被災地なのだが、復興が進んでいて中心地へ行くと市場があったり、オシャレな観光施設ができていたり、活気にあふれている。陸前高田との違いに驚いた。
今日の宿は若者が運営するゲストハウス『スローライフ』。民家を改築したオシャレな宿で、宿ができるまでのエピソードなど楽しく話してくれた。夕食にトレーラーハウスの店舗が集まる『みしおね横丁』へ行くと、珍しくインドネシア料理の店があった。気仙沼にはインドネシアの船が多く入っていて働く人がたくさんいるらしい。食べているとインドネシアの若者が続々と入ってきた。飛び交う異国の言葉。ここは日本だよね?(笑) どこか海外へ来ているような不思議な気分になった。
宿泊地:宮城県気仙沼市
走行距離:71.1km
総走行距離:3918.0km
DAY83
昼前に国道45号沿いにある『南三陸さんさん商店街』に到着した。ここには『南三陸311メモリアル』という震災伝承施設があり、震災の体験談を話す動画を視聴した。どれも現実とは思いたくない壮絶な話ばかりで胸が痛くなる。その後、職員が最後まで避難を呼びかけた『南三陸町防災対策庁舎跡』なども見て歩いた。
『南三陸さんさん商店街』には海鮮の店が何軒も並んでいた。同じような店なのでどこにするか悩む。どんな違いがあるのかもわからないので、ここはお客さんの多い店を選び入ってみる。豊富なメニューからヒロコは『鮭いくら丼』僕は『漁師の丼』を注文した。メニューの写真を見て期待していたのに、出てきた料理を見て、えっ?全然違うぞ~と思うことが時々あるが、この店は写真に偽りなし。ボリュームも満点で味も最高だった。
そこから東松島まではひたすら移動。リアス式海岸を走る道なのでアップダウンが多い。電動アシストがあるとはいえ、距離が長いとさすがに疲れる。それでもペースを崩さず一定の速度で走り続けるヒロコ。もう完全にeバイクサイクリストの顔になっている。
道の駅『津山』の駐車場で、キャンピングカーで北海道一周してきた夫婦に声をかけられた。僕たちより少し年上のご夫婦で向こうはeバイク旅に興味津々、ヒロコはキャンピングカーに興味津々、自然と話が弾んだ。僕は体が動くうちは自転車で旅がしたいと思っているのであまり興味がないんだけど、70歳を越えたら、キャンピングカーの旅を考えてもいいかな(笑)
宿泊地:宮城県東松島市
走行距離:85.9km
総走行距離:4003.9km
DAY84
東松島のホテルに連泊。今日は、以前から気になっていた田代島へ行きます。宮城県石巻沖に浮かぶ田代島は、島民よりも猫が多く住んでいることから別名『猫島』と呼ばれている。猫好きの僕はその存在を知ってから、ずっと行きたいと思っていた憧れの離島なのだ。
節約のためホテルから船着き場まで約12kmはeバイクで移動。高速船で揺られること40分、田代島の仁斗田港に到着。港をウロウロしていると休憩所のベンチ、民家の軒下に猫、猫、猫。警戒心はないようで人間が近づいても逃げない、といってすり寄って来る感じでもない。猫同士、そして人間との距離を適度に保っているようだ。
山の上にある猫神社へ向かう。しかし、今日も暑い。日差しが焼けるように強い。木陰を選んで歩いていると、猫たちも同じらしく木陰にゴロンと寝転がり涼んでいる。30分ほどで『島の駅』という施設に着いたが、ガーン! 残念ながらお休み。オリジナルグッズの販売、軽食や冷たいドリンクが飲めると思い楽しみにしていたのに……ガッカリ。しかしここにも猫がたくさんいて、遊んでくれた。
さらに数分歩くと『猫神社』に到着した。森の中に朱色の柵があり、その真ん中に小さな祠があった。島の漁師たちにとって猫は縁起の良い存在だったようで、昔から大切に扱われてきたらしい。この神社を建てたのも猫の安全と大漁の祈願のため。なんて心温まる神社だろう。
田代島の約4時間はあっという間だった。出会った島民は数人なのに、出会った猫は数十匹。まさに猫の島だった。猫も大人しい猫、積極的な猫、クールな猫、いたずら猫… 顔や毛色だけでなくそれぞれに個性があるのが面白かった。怪我をしている猫も多く、島で生きるのも大変なことも伝わってきた。
再び高速船で石巻へ。船着き場の近くに大きなドームがあったので行ってみると宮城県出身の漫画家、石ノ森章太郎の記念館『石ノ森萬画館』だった。入口の周りには仮面ライダーやロボコン、サイボーグ007など知っているキャラクターがたくさん展示されている。館内も気になるが、今回は時間が遅いので入場はパスする。
石巻駅へ向かう通りは『マンガロード』と呼ばれていて、様々な場所に石ノ森先生が生んだキャラクター像(モニュメント)立っていた。知っている漫画も多く、僕たちの目を楽しませてくれた。自転車旅はどうしても移動が中心になってしまうが、今日はひと味違う時間を過ごすことができた。
宿泊地:宮城県東松島市
走行距離:25.8km
総走行距離:4029.7km
取材協力:
ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/ypj/
セナブルートゥースジャパン
https://senabluetooth.jp/
ステムデザイン
https://www.stem-design.net
武田レッグウェアー
https://www.rxl.jp