人力で走ることを是とするスポーツバイク雑誌の編集長がeバイク(電動アシスト自転車)を日常使いしてみた。結論から言ってしまうと、eバイクは、人力バイクと同じ走り方をするのではなく、eバイクらしい走り方があるということ。それは、大人の余裕を楽しむような振舞いだった。
スペシャライズド・VADO SL 5.0が相棒
ということで、この企画の相棒になったのは、eバイクジャパン編集部に新たに加わったeバイク「スペシャライズドのVADO SL 5.0」
https://www.specialized-onlinestore.jp/shop/g/g93922-3202/
スペシャライズドのeクロスバイクラインナップのなかで一番装備が充実しているモデルだ。自社設計の小型モーターに、バッテリーはフレーム内蔵で見た目がすっきり。そして同社自慢の快適装備であるフューチャーショック2.0がハンドルの直下に装備されているので、街中の細かい段差を吸収してくれて、掌にストレスがない。
東京の下町にある自宅から編集部まで、片道7kmの通勤に使ってみた。1回の充電で100km以上走ることができるVADOなので、1週間通勤しても余裕だ。
バッテリーがフレームに内蔵されているので、どこで充電するかというのがネックになる人もいるだろう。筆者は多くのスポーツバイクユーザーがそうするように、自転車を室内で保管している。なので、電源確保は問題ないが、室内に入れたくないという人は、職場に充電器を置かせてもらうなど、ちょっと対策が必要だ。
通勤経路でストレスになるのは2つ。信号スタートと、橋の上り坂だ。0m地帯に住んでいるので、橋を渡るときにけっこうな勾配を上る必要がある。普段ロードバイクで走る身軽な装備で走っている分にはいいが、通勤となると運動強度を上げすぎて汗だくになりたくない(編集部にはシャワーなんてないので、ボディタオルで体を拭いてから業務にあたっている)。
“楽”というより”余裕”
何よりもまず楽なのは言うまでもない。そして、これまで気づかなかった景色や店を見つける余裕がでてくる。スポーツバイク歴は20年になる私、公道を走ることには慣れているつもりであったが、eバイクのもつ余裕は人力のそれとは明らかに異なるものである。
楽というのは、一般車ユーザーが感じるような、単にペダルを踏む力が少なくて済むので楽、というのとはちょっと違う。人力バイクの時には、信号発進がストレスに感じていたので、なるべく信号に引っかからないように、走っていた。「この区間は全力で走れば青信号で次の交差点をぬけられるんだよな」とかそういうことを意識しながら。それがVADOのアシストがあると、「まあ信号で捕まっても発進が楽だからいいか」と、気持ちに余裕が出る。車の運転も、若いころはむやみにアクセルを踏みたくなるものだが、大人になればそんな無駄なことはしない、スマートな運転を身に着けられる。力の出しどころをわきまえる。それに似ている。
困りごとは?
不満がないわけではない。フェンダーがちょっと長い。自宅はマンションの7階で、編集部はビルの4階なので、エレベーターを使ってバイクを運んでいるのだが、編集部のエレベーターは奥行きが短いので、バイクを立てて積む。そうすると、フェンダーを床にこすってしまうのだ。幸いフェンダーはネジを緩めれば、先端を外すことができる。
小雨ならいいが、しっかり雨が降っている日は、やっぱり長さが足りないので、多少泥はねがあった……。メーカー担当者に確認すると、外した先端部分は筆者のように立てて移動させるユーザーのことを考えて、プラスチック製になっており、こすってもフェンダー本体が壊れるリスクを軽減しているということだった。とはいえ、個人的にはエレベーターでガリガリやるのは精神衛生上よろしくない&雨の日はあまり走らないので、日々のエレベーターでの利便性を優先して、このままにする。
前後のライトも、アシストユニットと同じバッテリーから給電される。スポーツバイクユーザーはだいたいバッテリー内蔵ライトを使っているので、いちいち個別に充電する必要があるが、それがないのは楽。しっかりと照度があるので、走っていても車に認識されている実感があり、安心して道路を走ることができた。
注意したいのはタイヤの空気圧管理だ。人力バイクで走っていると、空気圧が減れば明らかに走りが重くなって、そのことに気づくけれど、eバイクはアシストのパワーで走れてしまうのでその認識が後れる。タイヤのヨコに書いてある空気圧を守ろう。
アリやナシや
脱炭素社会、SDGsがもてはやされる昨今だし、通勤電車に乗って会社へ向かうのは、コロナ禍を経てなるべく避けたいという思いを強くした人も多いと思うし、自分もその一人だ。自転車通勤は電車やバスの時間や混雑を気にしないで移動できるというメリットをもたらしてくれる。
しかし、ひとつ白状すると、1か月ほど、eバイクで通勤した後に、また人力のバイクで通勤してみたら、やっぱり自分の力でガンガン走るのが気持ちよかった。VADO SLが教えてくれたのは、大人になり切れていない己の未熟さであった。