革新的なフードデリバリーサービスを展開するUber Eats(ウーバーイーツ)だが、一方で自転車利用の「配達パートナー」の運転の悪さが主にネット上で批判されることもしばしば。そんな中、Uber EatsはJCA(日本サイクリング協会)と業務提携し、交通安全指導への取り組みを開始。同社は配達パートナーの運転に集まる批判をどう捉えているのか? Uber Eats担当者及び提携するJCA担当者へインタビューした。
Uber Eatsは実はきちんと対応策を取っている
今回話を聞いたのは、Uber Eats Japanのコンプライアンス部長を務め、主に交通安全にかかわる業務を担当する田中知美さんだ。行動経済学の研究に携わってきた経歴も持っている。JCAの担当者としては、評議員を務める加地邦彦さんに話を聞いた。加地さんは自転車ロードレースの選手だったこともある。
まず、Uber Eatsには具体的にどんな意見や指摘が集まっているのか?
「特にSNS上では、自転車を利用する配達パートナーが信号無視している、歩道を危険な速度で走行している、車道を逆走している、という批判・指摘が多く挙げられています」と田中さん。
それをUber Eatsとしてはどう捉えているのか? また、自転車を利用する配達パートナーの運転について、どのように責任を負うべきと考えているのか?
「配達パートナーはUber Eatsが雇用しているわけではなく、個人事業主に当たります。Uber Eatsは注文者からレストランパートナーへの出前注文をマッチングさせるのと同様に、レストランパートナーから配達パートナーへの配達業務委託をマッチングさせるプラットフォームであり、配達パートナーはそのプラットフォームの利用者様です。いわば、当社にとっては、当社サービスを使っているお客様にも当たるわけです。ただし、Uber Eatsのプラットフォームを使ってもらっている立場としては、そのプラットフォーム上で何かがあったら、それに対応すべきと考えています。
具体的には、配達パートナーで社会的に問題ある行動をしている人については、当社としてきちんと注意をお伝えしています。また、配達パートナーが配達中に起こした/遭った対物・対人事故についても、当社が契約している保険が適用される仕組みがあります」と田中さん。
具体的なことがらを指摘できる「お客様相談室」
「2020年11月には「お客様相談室」を立ち上げました。ここには、Uber Eatsの利用者さま以外の方も、具体的に配達パートナーがいつ・どこで・どんな問題行動をしていたか、を通報することができます。配達パートナーは配達中であれば、GPSによって位置情報を記録されています。いつ、どこを、どんなスピードで通過したかまで特定できるのです。交通ルール違反に当たる運転をしている人を見つけた場合には、直接警告を与えています。特に信号無視・車道の逆走・歩道の危険走行で歩行者にけがを負わせてしまったりしたケースなど、ご連絡をいただければ、Uber Eatsとして対処を必ず行います」。
対人・対物賠償責任保険を100パーセントUber Eatsが負担している
「また、事故を起こした/事故に遭ったときの対人・対物賠償責任の保険も配達パートナー全員に適応しており、保険料は当社が全て負担しています。これは2017年から運用しています。ちなみに、Uber Eatsには配達パートナーになるための登録料や保険料というものはありません」。
ここまでしっかりとした対応をしていたのだ。とかく批判の対象となるUber Eatsだが、こうした対策を取っていること自体、まだあまり世の中に知られていないのだろう。
“Uber Eatsというバッグを背負うこと”で批判されているだけ
そんな中、Uber Eatsという社会的にも影響力のある企業が配達パートナーへの自転車交通安全指導を行う取り組みを始める、というのは非常にすばらしいニュースだと思う。これについて、業務提携するJCAとしてはどう考えているのか? 加地さんに聞いた。
「まず最初に整理しておかないといけないのは、Uber Eatsの自転車を使用した配達パートナーの運転だけが悪いわけじゃない、ということです。
日本では自転車の交通ルールを教わる場がないという根本的な問題があり、そもそも一般の自転車利用者の中にもひどい運転をしている人がいますよね? でも、一般の自転車利用者はSNSで批判したり、具体的に通報しづらい。一方、Uber Eatsのバッグを背負っている配達パートナーはどうでしょう? 分かりやすいロゴの入ったバッグを背負って、有名なサービスでもありますから、批判しやすい・叩きやすいわけです。
Uber Eatsの配達パートナーは、もともとは“一般の普通の自転車利用者”です。特別な人ではありません。彼らは急いでたくさん配達しようとするから交通ルールを無視したり、危険な走行をするわけじゃないんです。“今までどおりの常識で普通に運転しているだけ”なんです。そして、それがUber Eatsというロゴマークが入ったバッグを背負っているから、批判されているというだけなんです」と加地さん。
Uber Eatsをきっかけに日本の自転車交通の問題点に気づいてほしい
「自転車利用者全体として、運転の仕方にそもそも問題があります。それが、Uber Eatsによって顕在化しただけなんです。そして、それがUber Eatsによって顕在化したことは良いことだとも捉えています。良くも悪くも注目されるので、これをきっかけに自転車交通を改善させたいと考えています。だから我々はUber Eatsと業務提携したのです」と加地さん。
具体的にどんな取り組みをするのか?
「自転車の交通安全講習会を毎月実施していくことを検討しています。これは主として配達パートナー向けですが、他社の配達パートナーの方や一般の自転車利用者の方も参加することができる仕組みにしたいと考えています。一般の自転車利用者ならびに、フードデリバリー産業全体への貢献ということも考えているからです。
また、オンラインの学校も開始します。基本的に配達パートナー全員が受けるようにしたいと考えています。基本的な交通ルールだけではなく、道路交通にひそむ危険性を認識させ、事故を防ぐための行動を教えていきます。そこには、JCAの培った知識が生かされます」と田中さん。
いかがだろうか。筆者自信、正直Uber Eatsの配達パートナーに対してはいい印象がなかったが、今回の話を聞いてだいぶ認識が変わった。これはUber Eatsだけの問題ではなく、日本の自転車交通全体の問題なのだ。
コロナ禍で飲食店が厳しい経営を強いられる中、Uber Eatsは飲食店と顧客を結びつける画期的サービスと言える。そして同じくコロナ禍で収入が減ってしまった人にとっても、柔軟に働き収入を得ることができるという点でも有意義だ。今後その動向が注目されるとともに、これを機に日本の自転車交通全体の問題点に利用者全体が目を向けるきっかけになってほしい。