eバイク旅ノート Vol.102 eバイク日本一周42「世界遺産白川郷と飛騨高山を訪ねて」

スポーツも運動も嫌いな超インドアな妻ヒロコ、還暦からeバイクに乗り始めた夫かんいち。eバイクによる夫婦日本一周の旅。昨年は東日本一周。今年4月からはじまった西日本一周も北陸地方、石川県金沢までやってきた。残る都道府県は富山県、岐阜県、長野県、山梨県。いよいよゴールが見えてきた。

DAY228「それぞれの生き方」

ホテルが朝食バイキング付きだったので朝からたっぷり栄養を付けておく。出発の準備が整う頃、お盆休みを使って能登ツーリングに来ていた友人がホテルに来てくれた。聞けば偶然にも同じ通りのホテルに泊まっていたというではないか。昨日、能登地方を走ってきたが、まだ復興には程遠く、崩壊したままの家屋もたくさん残っていたという。今回は日程の問題で能登行きは断念した、時期を変えていつか行ってみたいと思う。

今日の目的地は富山県南砺市にあるゲストハウス。もう少し白川郷に近い場所まで進んでおきたかったのだが、残念ながら予算に合う宿がなかった。金沢から40km弱なので今日はかなり余裕がある。国道359号で市内を抜け、国道304号に入ると、徐々に緑豊かなローカル道になって行く。ゆるやかな上り坂をマイペースで進んで行くと前方に富山県の標識が現れた。そこからは緩やかな下り坂が続いていて、一気に南砺市の市街地へ入っていった。

国道沿いに道の駅『福光なんといっぷく茶屋』があったのでここで休憩にする。瓦屋根の建物に入って行くと売り場には野菜がズラッと並んでいて、地元の人がたくさん買い物に来ていた。しばらくすると激しい雨が落ちてきたので、慌てて自転車を軒下へ移動させた。しばらく止みそうにないので、隣の『中国紹興友好物産館』に入ってみる。中国の美術品・書画・工芸品・物産品などがたくさん展示されている。

店員さんがいたのでおしゃべり。僕たちが夫婦で日本一周中と知ると「自転車で!?」「すごい、すごい!」を連発した。僕たちはやりたいことをやっているだけ。特にすごいことではないと思うんだけど…… 話を聞くとその女性は同世代で、自宅と近所の職場を往復する毎日。他府県にもほとんど行ったことがないのよーと笑った。様々な人生、色んな生き方がある。人それぞれ。どちらにしても本人が幸せと思えるなら、その生き方が一番なのだと思う。女性はとても明るく話しているだけで楽しい気持ちになった。

着いたゲストハウスは見晴らしの良い高台にあった。合掌造りの建物をリノベーションした宿で、木の温もりを感じる優しいゲストハウスだった。1階は畳の広間&カフェキッチン、2階はドミトリーと自由スペース、3階は屋根裏部屋ドミトリー。建物の中は想像以上に広く、とてもユニークな作りになっていた。

夕方、落ち着いたところで買い物に出ようとしたらザーッと雨が降り出した。気持ちがダウンしたので夕食は手持ちのレトルト食品で済ませることにした。夜になると宿で働いている女性や、ヒッチハイク旅をしている大学一年生の男子とおしゃべり。楽しい時間を過ごした。エアコンがないので暑くて眠れるか心配だったが、雨で降ったことで少し気温が下がり、意外と快適だった。

宿泊地:富山県南砺市
走行距離:38.7km
総走行距離:9791.0km

メタボンさんと
金沢を出る朝。能登ツーリングで金沢まで来ていた友人メタボンが連絡をくれホテルまで会いに来てくれた。こんな出会いも旅の醍醐味
うな蒲ちゃん自販機
カニカマ発祥の地で新たに作られた、うなぎ風かまぼこ『うな蒲ちゃん』が何と、金沢市内の自動販売機で売られていた。う~っ気になる~
富山県南栃市方面へ向かう
今日の目的地、富山県南栃市方面へ向かう。金沢市内は賑やかだったが、国道359号から国道304号に入ると山道になり自然が多くなる
心細い山道
ゲストハウスまで残り数百メートルのところから、突然車も通らない心細い山道になったので、この先に本当に宿があるのか不安になった
合掌ゲストハウスかずら
砺波平野を一望できる場所にある『合掌ゲストハウスかずら』。築340年の合掌造りの建物をリノベーション、近くにダム湖の桜ヶ池がある
屋根裏部屋
屋根裏部屋はこんな感じ。外から見ると大きく見えないが、実際に中に入ると想像以上に広い。外国人旅行者からの人気も高いという

DAY229「ヒロコ念願の白川郷へ」

今日はいよいよ白川郷。ヒロコはこれまで2回チャンスがあったのだが、天候やルート変更などで結局行くことができなかった。それだけに数日前から白川郷へ行けるぞ~と張り切っていた。ところが今日は朝から雨。それもかなり本格的なヤツ、それでも「山を越えたら、もしかしたら晴れているかも……」そんな想像をしながら宿を出発する。

国道304号、木々に囲まれた山道をゆっくり上って行く。顔に当たる雨が冷たい。しばらくは走ると五箇山トンネルが現れた。長さ3kmの長いトンネル。何かの物語の「トンネルを抜けたら雪国だった」みたいに「トンネルを抜けたら青空だった」にならないかなぁ、淡い期待を抱えながら暗いトンネルを走る。ようやくトンネルを抜けて外に出ると、おーっ、雨が降ってない。さらに小さな青空もある。「青空だーっ!」「やったー!」ふたりで子供のように喜びながら、坂道を下って行った。

相倉合掌造り集落の標識があったので国道を離れ行ってみる。数百メートル進むと駐車場が現れ、その先は車両は進入禁止になっていた。駐車場に自転車を置き、歩いて集落を散策。合掌造りの家々、周辺には畑が点在している。風情のある景色をのんびり眺めながら歩いた。

その後は菅沼の合掌造り集落や国道沿いにある国指定重要文化財「岩瀬家」などを見学した。「岩瀬家」では実際に住みながら管理している人がいて、直接いろんな話をを聞くことができた。この町や家の歴史、建物の特徴や住民の暮らしなど、どれも興味深い内容だった。

そろそろ昼ごはんかなぁと思いながら走るが、国道156号は山の中で食堂が見当たらない。結局、岐阜の県境を越えて道の駅『白川郷』まで来てしまった。ここでようやくランチタイム。駅の名物、白川郷コシヒカリの米粉を使った“昇竜らーめん”と汁なしの“白山周遊満喫らーめん”を満喫。ようやく落ち着いた。道の駅には『合掌ミュージアム』が併設されていて、半分解体して移築した本物の合掌造りを見ることができた。内部の構造なども詳しくわかるのでとても面白かった。

白川郷へ行く前に、集落全体が見える萩城跡展望台へ行ってみる。展望台への道は一般車両は通行止のようだが、自転車はOKらしい。自転車で良かった~と思いながらズンズン上って行くと、展望台に到着した。眼下に白川郷がドーンと広がる。点在する合掌造りの家々と田畑、その間を縫うように人が歩いている。

山を下りて集落へ入ると道は人人人…… 観光客で埋め尽くされていた。僕は3回目だが、こんなにたくさん人がいる白川郷は初めて。インバウンドで外国人が増えていると聞いていたが、ここまでとは思わなかった。まさにオーバーツーリズム。あまりに賑やかすぎて、情緒の微塵も何もない。集落は素晴らしいんだけどなぁ……

予約していた民宿古志山へ行くと、相部屋を予約していたのに夫婦旅ということで個室を提供してくれた。めちゃくちゃありがたい。部屋でしばらく休憩、夕方になり涼しくなったところで再び白川郷へ行ってみる。すると別世界、観光客がほとんどいない。僅か1時間半でこんなに違うのか。やや興ざめしていたヒロコも「この時間なら人もいなくて、いい感じだね」と嬉しそう。暮れ行く白川郷をゆっくり散策した。

宿泊地:岐阜県白川村
走行距離:63.0km
総走行距離:9854.0km

五箇山トンネル
朝から雨続きだったが五箇山トンネルを抜けると雨は上がっていた。雨具を脱ごうと思ったが、濡れているので走りながら乾かすことに
菅沼合掌造り集落
菅沼合掌造り集落が眺められるいい場所を発見。そこで小休憩にする。天気も良くなり暑くなってきたので冷えたコーラがおいしい
菅沼集落
日本有数の豪雪地帯で大きな茅葺屋根を持つ合掌造りが多く残る五箇山。訪れた『菅沼集落』は重要伝統的建造物群保存地区に指定されている
白川郷
『荻町城跡展望台』から見た白川郷。まさに絶景。合掌造りの家は雪風を避けるため、同じ方向を向いて建てられているのがわかる
人気のない白川郷
昼間は観光客がいっぱいでeバイクで走っている写真が撮れなかったが、夕方に行ってみるとほとんど人気のない静かな白川郷になっていた

DAY230「再びトラブル発生」

パッキングを済ませ、ペダルを踏み出すと「パキン!」と音がしてフロントのサイドバッグが大きく傾いた。まさか!? 確認するとキャリヤを留めているボルトが折れている。北海道のトラブル再現。このキャリヤの弱点なのだろうか。自転車屋もホームセンターもない、ここでの修理は不可能。困ったことになった。

よく見ると、紐か針金があればなんとか応急処置ができそうだ。テント用の紐があったことを思い出し、フォークにキャリアに巻き付ける。さらに民宿の奥さんが心配して持ってきてくれた針金をさらに巻き付ける。これでかなり頑丈になった。色々お世話になった民宿古志山のオーナー夫婦にお礼を告げ、走り出す。

今日の目的地は飛騨高山。難関は標高1290mの『天生峠』。今回の旅で一番高い峠になる。軽めのギヤにセットして、アシストを使ってゆっくり上って行く。道は狭い1車線、対向車も皆無の深い山の中。九十九折れのカーブが続く、良い景色の場所で写真を撮ったり、休憩を取ったりしながら少しずつ進んで行く。

白川郷から上り続けること1時間半。やった! ついに天生峠に到着した。峠は天生湿原ハイキングコースの入口になっているので大きな駐車場と公衆トイレがあった。峠の記念写真を撮ると次は念願のダウンヒル。この時間は頑張って上った自分へのご褒美。後ろへ飛んで行く景色、最高に気持ちがいい。

あっという間に飛騨古川に到着。お昼食を食べようと思い鉄道駅の近くへ行ってみたが、お盆の影響でどの店もお休み。仕方なく道の駅『アルプ飛騨古川』へ行ってみると、こちらもお休み。まさかの展開だ。周囲を探すと隣にそば屋があった、行ってみると営業中。良かった!

メニューを開くと「ころうどん(そば)」なるものがあった、お店の人に聞くと冷たいつゆをかけたうどん、いわゆるぶっかけだという。この辺りの名物だというので天ぷら入りころそばと天ぷらうどんを注文した。ころそばを食べたヒロコはかなり美味しかったようで、満面の笑顔になっていた。

飛騨高山も白川郷と同じように観光客でいっぱいだった。まあ、夏休み期間なので仕方がない。古い町並みとeバイクの写真を撮ろうかと思ったが、人波がなかなか途切れない。飛騨高山には3泊する予定なので、適当なところで切り上げ宿へ向かった。

今夜の宿はゲストハウス。共同キッチンがあるので自炊にしようと思い買い出しへ。スーパーへ行くとヒロコの表情がさえない、体調が悪く食欲がないという。食いしん坊のヒロコが、これは普通じゃない。峠越えでたくさん体力を使ったからか。それとも風邪でもひいたのか? 宿に戻るとそのままごはんも食べずにベッドにゴロン、そのまま眠ってしまった。心配だな、大丈夫かな? 明日には良くなっているといいんだけど……

宿泊地:岐阜県高山市
走行距離:65.7km
総走行距離:9919.7km

ボルトが折れた
荷物を積み込んで「さあ出発」と走り出した瞬間、ボルトが折れた! 民宿のオーナーさんのお陰で何とか応急処置ができました。本当に感謝です
滝
白川郷から国道360号で天生峠を目指す。道幅は一気に細くなり緑の深い山道になった。カーブの途中、崖から流れ落ちる滝を見つけた
天生峠
坂道を上り続けること1時間半『天生峠』にたどり着いた。ヒロコは最初の頃、峠は嫌だと避けていたがいまは1000m級の峠も楽勝になった?
昼ごはん
今日はなぜか食堂はどこもお休み。腹ペコ状態でようやくありついたお昼ごはんなので美味しかった。満腹になった、さあ、飛騨高山を目指そう!
飛騨高山
目的の飛騨高山に到着した。宿にチェックインするのには早い時間だったのでeバイクで屋敷等が軒を連ねる古い町並みを少しだけ散策した
横になるヒロコさん
体調が悪くなりベッドで横になるヒロコ。珍しく食欲もないという。長旅の疲れが出たのだろうか?心配だ。明日には良くなっているといいが……

DAY231「フランさんと嬉しい再会」

白川郷で同じ民宿に泊まっていたオーストラリア人サイクリストのフランさんと高山のゲストハウスで再会。同じルートを走ったと聞き、盛り上がった。ちなみにフランさんは3週間の予定で日本をツーリング。日本の後は自転車と共に留学先となるカナダ・バンクーバーへ渡るという。今日高山を出たあとは上高地に行きトレッキング、その後は安房峠を越えて松本へ行くという。この後のルートが近いので、またどこかで会うかもしれない。宿を出るフランさんを、旅立つ娘を見るような気分で見送った。

昨晩、体調を崩していたヒロコ。一晩寝てだいぶ良くなったというが、念のため今日は休養日にする。昼食はなか卯ですき焼き丼、ヒロコはペロッと完食。その姿を見て安心する。かなり回復したようだ。それでも無理は禁物なので、今日はあまり動き回らないことにする。僕はディスクブレーキのパッドを交換したり、旅ノートの原稿を書いたり、ほぼ一日ゲストハウスで過ごした。

夜は共同キッチンで息子さんが競輪選手という同年代の旅行者とおしゃべり。後からやってきたヒロコを見て「すごいね! 車か何かでサポートしているのかと思ったら、一緒に自転車で日本一周しているんだね!」興奮気味に言った。確かに60歳を越えた女性の自転車日本一周はかなりレア、それもスポーツは全くしない、普段は家から一歩も出ずに生活しようとしているヒロコがここまで来たんだから、すごいと思う。結局“できない”と決めつけているのは自分。やる前から自分で勝手に限界を決めているのかもしれない、人は想像以上に可能性を秘めていることをヒロコは教えてくれた。

宿泊地:岐阜県高山市
走行距離:0km
総走行距離:9919.7km

フランさん
白川郷の宿で出会い、飛騨高山の宿で再会したオーストラリアのフランさん。3週間の予定で日本をツーリング。明るい笑顔が素敵だった
ブレーキをチェック
ヒロコの体調を考えて今日は移動せず、飛騨高山に連泊とする。滞在時間を使ってディスクブレーキをチェック、減っていたパッドを交換する

DAY232「高山観光」

今日は改めて高山を観光。とりあえずeバイクで市内観光の中心地、三町筋へ。江戸時代の家屋が残る三町伝統的建造物群保存地区をブラブラ散策、その後は高山陣屋を見学。仕事場や住居、蔵など見て回る。入口がたくさんあって使える人が細かく別れていたり、畳のヘリが3種類あって身分によって使える場所が違ったり、当時の様子を想像すると楽しかった。

その後は櫻山八幡宮へ移動。境内には風鈴がたくさんあり涼しげな音を響かせていた。高山はあちこちに古い町並みが残っているので、走っているだけでいろんな発見があった。

夕方、宿に戻り今後の予定を確認した。最後の難関となりそうなのは、明日の高山から平湯キャンプ場までの道程と明後日の標高1780mの安房峠越えの2日間。松本まで行けば自宅(相模原)まで3〜4日で行けるはず。大きな峠もない。はるか先だと思っていた日本一周のゴールがついに見えてきた。

宿泊地:岐阜県高山市
走行距離:8.7km
総走行距離:9928.4km

高山の町を観光
ヒロコの体調が良くなったので高山の町を観光。古い町並みには造り酒屋や伝統的工芸品店、土産物店、カフェなどがあり見るだけでも楽しかった
高山陣屋
幕末には全国60数カ所あった郡代・代官所だが、当時の建物が残っているのは高山陣屋だけ。この日は陣屋前で朝市が開かれていた
桜山風鈴まつり
訪れた櫻山八幡宮は風鈴の音色に包まれていた。風鈴が夏の彩を演出する「桜山風鈴まつり」。飛騨高山の新しい風物詩になっている

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