eバイク旅ノート Vol.69 eバイク日本一周09 「初120km越え走行、鉄道の旅、ボルト折れトラブル……激動の2日間」

ふたり合わせて123歳の夫婦がeバイクで日本一周の旅に出た。神奈川県をスタート、関東を縦断して日本海、秋田からフェリーで北海道へ渡った。苫小牧に上陸すると時計回りで北海道一周を目指す。最北端の宗谷岬に続いて、最東端の納沙布岬をクリア、根室から西へと向かう

DAY51

日本一周のような長い旅を成し遂げるためには、たくさん走ることや節約も大切だけど、おいしいものを食べたり、清潔なホテルで睡眠を十分に取ったり、天気によってルートや日程を変更するなど……メリハリや順応性も大切。今日は数少ない休養日なので、根室にいる間にもう一度行こう! と話していた、回転寿司『花まる』へ行くことにする。

今回は前回は食べなかった“汁物”から行く。僕は『稚内産 ほっけのすり身汁(味噌味)』、ヒロコは『根室産 氷下魚の三平汁(塩味)』を注文する。出てきた汁はどちらも具だくさんで上品な味わいがあった。この内容で308円は絶対に安い。もちろん握りもネタが大きくて新鮮。もし『花まる』が近所にあったら、週一で通っているのなと言って笑った。

午後はコインランドリー。ふたりともきれい好きなので4日に一回くらいのペースで洗濯している。ちなみに下着とソックスの数が5枚なので、それに合わせている感じ。コインランドリーは大きな町なら必ずあるし、ビジネスホテル、キャンプ場にもあるので困ることはない。

夕方はゲストハウスのオーナーオススメのスーパー『マルシェデキッチン』へ行き、根室名物『花咲ガニ』を買った。花咲ガニはタラバガニの一種で生息域が根室を中心にオホーツク海、釧路などと狭いため、北海道以外では目にすることはほとんどない。普通に買うと確実に2、3千円するもののだが、スーパーではなんと1500円(税込)で売っていた。

ゲストハウスのキッチンで甲羅をハサミでバリバリ切りながら、モリモリ食べる。こんな風にかにを食べることはほとんどないのだが、初めて食べた花咲ガニは、カニの味が濃くとてもおいしかった。さらに食後にほかの旅行者からもらったメロンを堪能。身も心も大満足の根室滞在となった。

宿泊地:北海道根室市
走行距離:5.0km
総走行距離:2638.4km

花まる
根室で2度目の回転寿司『花まる』。握りはもちろん汁物もおいしかった。お客さんが少ないと板前さんがすぐ近くで握って出してくれるのも嬉しい
根室の漁港
eバイクを離れてサンマ日本一と言われる、根室の漁港を散歩する。北海道の海岸線は大小様々な漁港が点在している、それぞれ特徴があるのが面白い
花咲がに
せっかくなので今日は贅沢しよう(1500円だけど(笑))ということで根室名物『花咲がに』を購入。丸々1杯食べるのは初めてだが、身がギッシリ詰まっておいしかった
返せ!北方領土の看板
根室市は北方領土が近いためか、市内のあちこちで『返せ!北方領土』の看板を見かける。道東を旅していると北方領土の存在が距離以上に近く感じる

DAY52

根室を出ると国道44号をひたすら西へと向かった。1時間ほど走ると最初の休憩ポイント、風連湖が見える『道の駅スワン44ねむろ』に到着した。冷たいジュースを飲み、トイレも済ませ、そろそろ出ようかとバイクに跨ると前輪に違和感。まさか……。確認するとタイヤが凹んでいる。あちゃーっ! パンクだ。

前輪を外してパンク修理を始めると、近くにいたカップルが「良かったらこれ使ってください」と言って空気入れを差し出した。話をするとニセコに住む日本人&イギリス人のカップルで、車に自転車を積んで道東を旅行中。今日はここから自転車で納沙布岬まで往復する予定だと教えてくれた。お互い旅が好きなことから話が盛り上がり、最後にはおいしいスイカまでいただいた。なんともハッピーなパンク修理となった。

今日の目的地は75km先の厚岸。ひたすらペダルをこぐ。それにしても暑い。午前中に30℃に達した。北海道の人たちは「こんなの初めて、普通じゃない、この暑さは異常!」と口を揃えた。しばらく走ると、前方で手を振る人がいた。僕たちに振っているのかな? 不思議に思いながら足を止めると、車から歩いてきて「ここからしばらく何もないから、これどうぞ」と言って2本の缶ジュースを渡された。この暑さの中では一番嬉しい差し入れだ。お礼を言うと、何事もなかったように車に乗り込み、走り去っていった。「優しい人がいるね」「何か、かっこよかったわ♪」笑顔で車を見送った。

暑さ以上に悩まされているのが“虫刺され”。道東に入ってから各地でブヨと蚊に刺されまくっている。昨日、改めて数えてみたらヒロコは両脚で43か所も刺されていた。今ではかゆみ止めを塗るのが毎晩のルーティーンになっている。厄介なのがブヨで、ペダルを止めるとどこからか集まってきて刺してくる、ヤバイと思って急いで走り出すが、悲しいことに自転車の速度では逃げ切れず、ずっとついてくる。虫よけスプレーを塗っているのだが効き目ナシ。ふたりとも虫刺されにはかなりナーバスになっていた。

道の駅で会ったカップルが、偶然にも今日泊まる予定の厚岸のキャンプ場に泊まっていることがわかったのだが「あのキャンプ場、蚊が多いんだよねー」と彼女が話していたことを思い出す。そんなこともあり厚岸のキャンプ場に泊まるのは気が進まなかった。しかし、その先となると釧路になり。120km走らなければならない。さすがにヒロコがそこまで走るのはムリだろう。そんなことを考えながら『道の駅厚岸グルメパーク』に着いた。

丘の上にある道の駅で、展望台から厚岸の町並みや厚岸大橋、雄大に広がる厚岸湖が見える。絶景の道の駅。時計を見るとまだ2時半、予定より早く進んでいることがわかった。頑張れば釧路まで行けるかもしれない。そう思いヒロコに相談すると、やはりキャンプ場の蚊の話がずっと気になっていたようで「そうだね、蚊に刺されるくらいなら、頑張って120km走っちゃおうかな!」まさかの応えが返ってきた。おい、マジか。慌てて調べると釧路にネットカフェがあることがわかった。よし、決めた。釧路まで走ろう。

そこからひたすらペダルをこいで、こいで、こぎまくった。ヒロコの頑張りは半端なく、何と午後6時半に釧路に到着した。走った距離122km。日本一周を始める前はまさか、運動もスポーツもしていないヒロコがeバイクで1日122kmも走れるとは、夢にも思わなかった。その人が持っている可能性や限界を、年齢や勝手なイメージで決めつけていたことを反省した。本人もできないと思い込んでいいたらしいが、実際に頑張ってチャレンジしたらできることが、たくさんあるのかもしれない。そんなことを感じた1日だった。

宿泊地:北海道釧路市
走行距離:122.3km
総走行距離:2760.7km

パンク修理
日本一周初のパンク。この時は運よく気が付いたのが道の駅だったので、スペースも広く、水道もあるのでじっくり時間をかけて修理することができた
日本人&イギリス人カップルと
空気入れを貸してくれた親切な日本人&イギリス人カップル。どちらも『カップル』でさらに『自転車』と共通点が多いこともあり北海道旅の話に花が咲いた
りんごジュース
暑い中、荷物満載でペダルをこいでいる僕たちを見つけ、わざわざ車を止めてジュース差し入れしてくれた。甘いりんごジュースと優しさが体にしみ渡る
道の駅・厚岸グルメパーク
『道の駅・厚岸グルメパーク』。厚岸の名物と言えば『牡蠣』。レストランでは『あっけし牡蠣ステーキ丼』のほか、カキフライ、生ガキ、焼ガキなども食べられる
走行距離122.3kmを表示するメーター
根室から釧路まで、約122kmを一日で走り切ったヒロコ。これまでの最長記録となった。もちろんeバイクというのもあるけど、運動が苦手なのによく頑張った

DAY53

予定より一日早く釧路に着いたので、一日自由時間ができた。そこでヒロコが「いつか北海道の鉄道旅行もしてみたいなぁ♪」と言っていたことを思い出した。ネットで調べてみると、釧路駅から塘路駅まで、釧路湿原の中を走る観光列車『ノロッコ号』なるものがあることがわかった。これは面白そう。ヒロコに話をすると「乗ってみたい!」と目を輝かせた。よし、決定だ。

釧路駅に行くと運良く空席があった。チケットをすぐに買い、列車に乗り込んだ。ノロッコ号は窓が大きな展望車3両と普通客車1両の4両編成の観光列車。動き出すと大きな窓から大自然の風景が飛び込んでくる。湿原地帯を悠々と流れる釧路川が見える。景色のいいところでは速度を落としてくれたり、沼にエゾジカがいることをアナウンスで教えてくれたり、サービス満点だ。

ノロッコ号は約50分で終点塘路駅に到着した。駅の周辺は公園になっていて小さな店が2、3軒あるだけでのんびりした景色が広がっていた。お土産屋を覗いたり、記念写真を撮ったり、気が付くと発車5分前になっていた。慌ててノロッコ号に乗り釧路へ向かう。eバイクから見る風景とは違い、列車から見る景色はどれも新鮮で、2時間半はあっという間に過ぎた。

釧路駅に戻ると、釧路名物『勝手丼』を食べるため和商市場へ向かった。入口に着くと、ガーン! 閉まっている。まさかの定休日。ガックリ肩を落として駅へUターン、売店で駅弁『釧路のかに飯』を買って、駅前のベンチで食べる。再びeバイクに跨り、釧路市内観光へ。ヨーロッパ風のデザイン、「北海道三大名橋」のひとつ『幣舞橋(ぬさまいばし)』や釧路のウォーターフロント『釧路フィッシャーマンズワーフMOO(ムー)』、レンガ倉庫などをポタリング。日曜日だが人が少なく、のんびり過ごすことができた。

3時過ぎ。宿に向かって走っていると、段差を越えた瞬間、ガシャンと音がしてフロントのサイドバックが大きく傾いた。なんだ、なんだ!? 降りて確認すると、フロントフォークとキャリヤを留めていたボルトが折れているではないか。自転車とキャリヤは大丈夫そうだが、折れたネジの芯がフレームの穴に残ったまま、これでは新しいボルトを取り付けることができない。これはまいった……。

途方に暮れていると、メカに詳しい友人から携帯に嬉しいメッセージが飛び込んできた。僕のSNSでいまの事情を知り、オートバイのカスタムショップを営む釧路の友人を紹介してくれたのだ。送られてきた住所へ行ってみると『NIHIL CUSTOM CYCLE(ニヒルカスタムサイクル)』と書かれた店があり、マッチョボディのニヒルさんが出迎えてくれた。

フロントフォークを見ながら頭を抱えるニヒルさん。穴に残ったボルトをいかにして取り出すか、様々な方法を思案する。オートバイよりサイズが小さいので、一筋縄でいかないようだ。あれこれ考えた末、いい方法が閃いたらしく、ワバッシュと共にガレージの中へ。

かなりの技術が必要な作業らしいが、ニヒルさんならできるはず。そう思いながら外で待っていると「できたよ!」ニヒルさんがニヒルが笑顔で出てきた。おーっ。きれいにボルトの残骸がなくなっている。すごい。さらに、サイズの合うボルトを買ってきてくれ、完璧な状態に復活。一時はどうなるかと思ったが、まさに地獄から天国。紹介してくれた友人とニヒルさんに心から感謝した。

宿泊地:北海道釧路市
走行距離:16.8km
総走行距離:2777.5km

ノロッコ号
釧路駅から『ノロッコ号』に乗り込むところ。前日の時点では鉄道に乗ることなんて想像もしていなかった。自ら急展開を作り、新体験を楽しむのが僕たちのスタイル
ノロッコ号の乗車記念書
車掌さんからもらった『ノロッコ号』の乗車記念書。釧路はこれまで何度も来ているが、鉄道に乗るのは初めて。これから始まる鉄道の旅への期待が高まる
車窓から景色を眺めるヒロコさん
車窓から楽しそうに景色を眺めているヒロコ。いつもとは違う速度、床から伝わるレールの振動、道路から見えない風景。未知の体験はワクワクがいっぱい
ノロッコ号車内のタンチョウヅルとエゾシカ
ノロッコ号は遊び心があふれている。ふたりで車内を探検していると床に野生動物の足跡、4号車の入口では大きなタンチョウヅルとエゾシカがお出迎え
釧路のかに飯
釧路駅で買った駅弁『釧路のかに飯』。ほぐしたかにの身とタケノコ、かに味のごはんが全面に敷き詰められている。北海道のかにの素朴な味わいが楽しめる
クール釧路モニュメント
釧路のウォーターフロントにある、記念撮影スポットのひとつ『Cool KUSHIRO モニュメント』。後ろを流れる釧路川、右には有名な『幣舞橋』が架かっている
浪花町十六番倉庫
釧路市内を走っているとレンガ倉庫を見つけた。『浪花町十六番倉庫』という名前で昔は商業倉庫だったが、いまは芸術文化の交流の場として活用されている
折れたフロントキャリヤのボルト
フロントキャリヤのボルトが折れるトラブル発生! 穴に残っているボルトの芯を取り除かないと、新しいボルトを使うことができない、最悪の状況に陥った
バイクカスタムビルダーのニヒルさんと
まさかのトラブルを救ってくれたのが、バイクカスタムビルダーのニヒルさん。持っている技術を駆使してボルトの芯を取り除いてくれた、旅の恩人!

取材協力:
ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/ypj/
セナブルートゥースジャパン
https://senabluetooth.jp/
ステムデザイン
https://www.stem-design.net
武田レッグウェアー
https://www.rxl.jp

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