eバイク旅ノート Vol.72 eバイク日本一周12「体調不良でダウン、夫婦共倒れの危機!」

60歳を越える夫婦がeバイクで日本一周する旅に出た。今年6月8日、神奈川県の自宅をスタート、関東と東北を走り秋田からフェリーで北海道へ。苫小牧から最北端(宗谷岬)、最西端(納沙布岬)などを時計回りでぐるっと一周、苫小牧へ戻ってくると、そこにはまさかの事態が待ち受けていた……

DAY62

苫小牧のネットカフェ、朝起きるとヒロコの様子がどうもおかしい。声をかけると「だるくて、熱っぽい……」というではないか。確かに生気がない。おでこに手を当てると熱い。風邪でもひいたのか? そういえば数日前、雨の中を走ったからな。それから4日間連続で走っている疲れもあるだろう。とりあえずチェックアウトの時間を遅らせ、ソファで休むことにする。しかし、ここにずっといるわけにはいかない。

今日はアイヌ文化や歴史を伝える施設『ウポポイ』がある白老まで行く予定で、今日と明日の宿は予約済み。白老まで約25kmだが、今の体調で走れるだろうか? さらに今日は雨まで降っている。いまの状況を話すと「白老へ行けば泊まれ宿があるんでしょ。2時間くらい? 辛いけど、何とか走れるかも……」しっかりとした口調で応えた。ヒロコに無理させてしまうが、いまはそれしかない。昼までネットカフェで体を休ませ、午後1時、雨の中走り出した。

白老に続く国道235号は片側2車線、路肩が広くて走りやすいのは救いだった。後方を走るヒロコとヘルメットのインカムで確認し合いながら進んで行く。本人は大丈夫と言っているが、やはり熱があるからか、いつもより走るスピードが遅い。市街地を抜けると片側1車線になり路肩もなくなった。車にぶつからないか、フラフラしていないか、ミラーでヒロコの様子を見ながら進んで行く。

国道沿いのコンビニから出ると、車から降りてきた女性が興奮しながら「ヒロコさーん!!」と声をかけてきた。「よく見つけたね!」笑顔で応えるヒロコ。その女性はヒロコの友人で北海道に帰省中。LINEを通じて何度かやり取り、白老に向かって走っていることを知り、会いに来てくれたのだ。今日は体調がよくないことも知っていて、風邪薬や栄養食品、ビタミン食品など大量に差し入れしてくれた。感謝、感謝だ。しかし、広い北海道でよく会えたよね~とふたりで感動している。とても嬉しい時間になった。

午後3時。予約していた白老の宿に到着した。ヒロコはそのまま2段ベッドへ直行。いまはとにかく身体を休ませることが最優先。白老の宿『HAKU』は旅館をリノベーションしたホステルで、共同キッチンやリビング、シャワートイレ、コインランドリーなど設備が充実していた。ウッド調の内装や家具もおしゃれで、宿泊者もほとんどが若い旅行者か外国人だった。ミニベロで北海道を回っている台湾人旅行者が宿泊していておしゃべりが弾んだ。

宿泊地:北海道白老町
走行距離:24.2km
総走行距離:3228.8km

ネットカフェのソファ
朝起きるとヒロコの体調がおかしく、おでこが熱い。ネットカフェのチェックアウトの時間をお昼に延ばし、しばらくソファで休むことにする
ヒロコさんの友人と
北海道へ里帰りをしていたヒロコの友人が、家族と一緒に会いに来てくれた。いつもとは違う土地で、それも長い旅の途中で再会は特別嬉しい
ホステルHAKU
白老ではドミトリーがある『ホステルHAKU』に宿泊した。到着した日は雨が降っていたので中庭の屋根付きバルコニーに駐輪させてもらった

DAY63

ドラックストアで買ってきた体温計で計ると38℃以上もあった。これはヤバイ、本格的だ。『ウポポイ』観光はもちろん中止。熱冷ましの薬を飲み1日宿で静養。フルーツやヨーグルト、サンドイッチなどを買ってきたが、食欲がなく、ほとんど手を付けない。栄養を付けないと病気と闘えないので心配だ。

ここで新しい問題が発生。熱が下がるまでここに連泊しようと思っていたが、運悪く明日以降は満室で、空きベッドがないという。まさかの状態に陥る。ネットで調べると次の大きな町、室蘭まで行けば泊まれるホテルはあることがわかった。室蘭まで約40kmいまのヒロコの体調で走れるか? 風邪を悪化するかも? しかし、他に良い方法は見つからなかった。

宿泊地:北海道白老町
走行距離:2.3km
総走行距離:3231.1km

ホステルハクのカフェバーの朝食
『ホステルHAKU』にあるカフェバー(&雑貨ショップ)でおいしい朝食をいただく。栄養があるものをいっぱい食べて、一日も早く体調がよくなって欲しい
ハクの館内
旅館だった建物をリノベーションしてホステルに生まれ変わったHAKU。和洋がうまく融合していてとてもオシャレな雰囲気。宿泊客の半分は外国人だった

DAY64

発熱から3日目。今朝のヒロコの体温は38℃前後を行ったり来たりしているが、何とか動けるという。宿のチェックアウト時間ギリギリ、10時まで滞在してから出発する。国道235号を南へ向かう。空を見上げる、雨は大丈夫そうだ。路肩は広く、歩道もあるので安心して走れる。まっすぐな道、左手には太平洋が広がっている。

無理せず、ヒロコの様子を見ながらゆっくり進んで行く。右折すると登別温泉の標識が現れる。体調が良かったら、寄り道していたが、今日は脇目もふらず、ひたすら室蘭を目指す。午後1時過ぎ、東室蘭の町に入った。食欲不振で2日間ほとんど何も食べていないのに、40kmもよく頑張った。

夜になると、ようやく熱も下がってきて、少しづつヒロコの体調も回復してきた。良かったと思っていたら、僕の方に突然倦怠感が襲ってきた。まさか?と思いながら熱を計ると38℃。「ヤバイ、今度はオレの番だ~」。ふたりでダウン!? うそだろ。薬を飲み早めにベッドに入った。

宿泊地:北海道室蘭市
走行距離:39.3km
総走行距離:3270.4km

巨大熊と鮭
白老から体調不良のヒロコと室蘭へ向かってペダルをこいでいると「なんだこれ!?」インパクト大、屋根の上の巨大熊と鮭が目に飛び込んできた
虎杖浜の海産物ロード
虎杖浜の海産物ロードへ入って行くと、色々な建物の壁に昔の生活や働く様子を映したモノクロ写真が貼られていた。初めて見る、屋外写真展示に興味津々
スイカ
室蘭でようやく個室になった。ここから本格的な静養生活がスタート。食欲が湧かないヒロコに好物のスイカを買うとあっという間に胃袋に消えた

DAY65~68

一晩高熱に浮かされたが、翌朝になると少しマシになっていた。ヒロコは相変わらず食欲がないようなので、とにかく無理はせず、静養に努めた。ふたり共一日中ホテルのベッドで過ごす。薬を飲み、栄養のあるものを食べ、ひたすら寝る。室蘭のホテル滞在3日目。ついに、ふたり共平熱まで下がった。「やった」「良かったね」。しかし油断は禁物、すぐに出発することは控え、体調を整えるためもう一泊することにした。最後の日は町を歩いて体を動かしたり、おいしいものを食べたり、ゆっくり過ごした。

宿泊地:北海道室蘭市
走行距離:0km
総走行距離:3270.4km

室蘭3日目
室蘭3日目。少しずつだが熱も下がり体調も良くなってきたので、気分転換を兼ねて外出。しかしまさか夫婦でダウンするとは想像もしていなかった
ブイサイン
「やったー!」ついに体温が平熱に戻りました。ふたりとも倦怠感もほとんどなくなりました。これならeバイク旅が再開できる。これほど嬉しいことはない
北京亭
体調が回復した翌日は栄養補給日にあてた。昼ごはんはずっと気になっていた『北京亭』へ行き。名物のチャーメン(焼きそば)を食べた
室蘭カレーラーメン
札幌のみそ、旭川のしょうゆ、函館のしおに続く北海道第4の味、室蘭カレーラーメンを食べたが、味が濃く病み上がりにはちょっときつかった(笑)

DAY69

ふたりの体はほぼ完ぺきに回復。ようやく旅に戻れる日がやってきた。まさかふたり一緒にダウンするとは夢にも思わなかった。それだけに5日振りにeバイクに跨り、走り出したときは嬉しかった。霧雨に濡れながら、ふたり旅ができる喜びをかみ締める。

今日の目的地は洞爺湖。約45kmなので、再出発の初日としてはちょうどいい距離。途中から霧雨は雨粒が大きくなり本格的な雨になった。陸橋の下に逃げ込みレインウエアを着込む。市街地を出ると上り坂になり、眼下に巨大な工業地帯が見えた。町を離れる日になってはじめて、室蘭が「鉄の町」として発展、北海道を代表する工業都市であることを実感した。

国道37号を約25km走り『道の駅だて歴史の杜』に着いた。駐車場も施設の中も人がいっぱい。今日は8月15日、夏休みのど真ん中なのだ。イートインにかけそばがあったので伊達名物の天ぷら(魚のすり身を)を付けてお昼にする。天ぷらはふっくら、そばはシンプルな優しい味で、病み上がりにはピッタリだった。

再び走り出すとすぐに雨は上がった。国道37号から内陸へ向かう453号に入って行く。徐々に民家が減り、緑が多くなる。木陰を抜ける風が気持ちいい。さらに進むと木々の間から日本有数のカルデラ湖、洞爺湖が見えてきた。ゴールは近いぞ。午後3時過ぎ、洞爺湖温泉にある『ゲストハウスポコタン』に到着。1週間近くeバイクに乗っていなかったので心配だったが、問題なく走れたのでホッとする。

受付をしてくれた女性のオーナーさんが、社員寮だった建物を素人ふたりでDIYしてゲストハウスにしたというのでビックリ。さらに昔はオートバイにテントを積んで北海道ツーリングしていたと聞き、親近感がわいた。居間や壁など、室内のあちこちにアートが点在、宿なのにまるでアートギャラリーのよう。アートが好きでイラストレーターでもある僕は、一瞬でお気に入りの宿になった。

今日の夕ごはんは、とうもろこし。ヒロコが10年位前、北海道の旅で食べたとうもろこしがおいしかったので、北海道に来てから食べたいとずっと言っていたのだ。ラップに包んで電子レンジでチンしただけだが、甘くてとてもおいしかった。ようやく食べられたヒロコも満足そう。

8時半過ぎ。洞爺湖ロングラン花火大会を見るため湖畔へ向かった。今年初めて生で見る打ち上げ花火に夏を実感する。漆黒の夜空にカラフルな大輪の花が咲く。それはまるで僕たちの明るい未来を照らす、快気を祝う花火のようでもあった。

宿泊地:北海道洞爺湖町
走行距離:46.9km
総走行距離:3317.3km

室蘭を出発する朝
室蘭を出発する朝。一時は気力と体力が落ちて、マイナス思考に陥ったが、体調の回復と並行して気力も上昇。「さあ、行くぞー」声をかけ合い走り出す
久しぶりの自転車、体力が回復していないので抑え目に進んで行く。体に大きな負担がかからない電動アシストのいいところ。eバイクでよかった♪
道の駅・だて歴史の杜
国道37号沿いにある『道の駅・だて歴史の杜』は人気の休憩スポット。駅には地元の新鮮野菜がいっぱい。多目的広場の入口には立派な大手門がある
とうもろこしをサイドバッグに
道の駅で買った新鮮なとうもろこしをサイドバッグに挿して、洞爺湖へ向かう。ヒロコも念願の北海道とうもろこしが食べられことでテンションUP!?
洞爺湖
約45km走って洞爺湖に到着した。湖畔の広場で小休憩。なにはともあれ大きなトラブルもなく最後まで走り切れて良かった。ヒロコも満足そう
洞爺湖のようこそ観光看板
洞爺湖で見つけた「ようこそ」観光看板。数えたら32種類もあった。気になるのは「イランカラプテ」、調べてみるとアイヌ語の「こんいちは」という意味だった
恵味ゴールドとピュアホワイト
黄色いのが『恵味ゴールド』粒が大きくて皮が薄いのが特徴。白い方は生でも食べられるという『ピュワホワイト』。どちらも極上のおいしさでした~
洞爺湖ロングラン花火大会
約6か月の期間中、毎日打ち上げられる『洞爺湖ロングラン花火大会』。短い時間だったが、ふたりで病気を乗り越えた後だったので特別感動した

取材協力:
ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/ypj/
セナブルートゥースジャパン
https://senabluetooth.jp/
ステムデザイン
https://www.stem-design.net
武田レッグウェアー
https://www.rxl.jp

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