eバイク旅ノート Vol.29 中年男。傾斜23度42%の激坂に挑む!

eバイクの大きな利点は『上り坂』に強いこと。ギヤチェンジと電動アシストを使えば大抵の急坂は上ることができる。自転車で目の前に現れたら「いやだ、上りたくない」「この急勾配はさすがにムリムリ!」と顔をしかめる急坂でも、eバイクなら笑顔にしてくれる。逆に「よし、上れるか挑戦してみよう!」とテンションが高まることさえある。とにかく坂道では電動アシスト恩義にあずかってきた。

これまでいくつもの急坂を上ってきたが、印象に残っているのは峠道ではなく、神奈川県厚木市の県道を走っている時に見つけた住宅地の坂道。傾斜27%の坂道で、急斜面に建つ住宅の間を縫うように延びていた。興味本位でその道へ入って行き、上ってみることにした。坂の入口で最も軽いギアに落とし、最も強いアシスト『HIGHモード』に切り替え、いざっ。軽いペダルをクルクル回転させながら坂に突入。いけーっ! 上り始めると急勾配にも関わらず、スルスル進んで行く。途中で停まることもなく、一気に上り切った。すごい! eバイクの底力を知った瞬間だった。

今回改めて、僕が住んでいる神奈川県相模原市の周辺でどこかスゴイ激坂はないか!? 調べてみる。神奈川県の横浜市内にはたくさんあるようだが、市内では見つからなかった。そんなとき「おおっ、ここは近いぞ!」と川崎市麻生区にある坂の噂を見つけた。小田急線鶴川駅に近い、岡上という地区の住宅地にある激坂で、かなり凄そう。自宅から15kmの距離。早速ヤマハのYPJ-TCで行ってみることにした。

県道57号を東へ走る。鶴川駅の少し手前でストップ、スマホで場所を最終チェック。住宅地へ入り、鶴見川を渡り、さらに線路を渡った。線路に並行して南へ延びる平坦な道を進んで行くと、和光大学が見えてくる。平坦な道の左側は高い丘になっていて、急斜面にへばりつくように住宅がビッシリ並んでいる。山を切り開いて開発された住宅地であることがわかる。丘へ向かって上って行く坂道は手前から順に『一番坂』、『二番坂』……と名前が付いている。見るからにどれもかなりの急坂、それも数字が増えるほど傾斜がきつくなっている気がする。

動物注意の標識
町田市を経由して目的の川崎市を目指す。途中で見つけた坂をいくつか上りウォーミングアップ。この辺りはタヌキが出るらしい
町田市の小さな鳥居と祠
東京都の端、町田市は田舎道が残っている。細い脇道へ入って行くと自然の色が濃くなり、斜面の上に立つ小さな鳥居と祠を見つけた

坂道の入口の壁に“8”と記された『八番坂』があったので、上ってみることにする。その前に、歩いて坂を上りスマホを路面に当てアプリで斜度を測ってみる。場所によって多少差があるが18度(32%)、19度(34%)辺りを表示している。厚木の坂が27%だったので、それよりも傾斜がきついことになる。ピリッと背中に緊張が走る。

平坦な道で助走、ギアを落とし、HIGHモードにセット。よし、ゴーッ! 軽いペダルをグングン回しているのに、速度がメチャクチャ遅いのでバランスが取りにくい。何度かバランスを崩しながらもなんとか踏ん張り、坂の上まで上り切った。「ハァハァ……」息が上がる。厚木の時と比べて、全く余裕がなかった。18度(32%)のきつさを実感する。さあ、下ろうか……と思い振り返ると顔面蒼白。道が『坂』ではなく『崖』に見える。「こここを下るの……」と尻込み。先を見ると道が続いているようなのでそのまま進み、緩やかな坂道をゆっくり下っていった。ああよかった。

eバイク旅ノート29
いつもとひとつ違う通りを選ぶだけで新しい景色に出会える。体力の消耗を気にしなくていいeバイクのおかげですっかり寄り道の達人になった
八番坂
ここが『八番坂』。傾斜のきつい土地によく住宅を作ったな~と感心する。しかしこの急坂、普通の自転車じゃ絶対に上れないよなぁ

さあ次は激坂のメインイベント『十番坂』だ。ネット検索で見つけたのが『十番坂』で、この坂の傾斜は凄いとネットで噂になっていた。入口に『十番坂』の表示はないが、順番的にここに間違いないはず。まずは歩いて上り、スマホで坂の勾配をチェックする。ネットでは21度(38%)と書かれていたが、場所によっては22度(40%)、23度(42%)のところもある。これは正真正銘の激坂だ。上から見ると、さらにとんでもない急勾配であることがわかる。これは上るのも大変だけど、下るのも大変そう。それにしても坂の途中に住んでいる人たち、雪が降ったらどうするんだろう? そんな心配までしたくなる。

最も軽いギヤにセット、HIGHモードで坂道突入! 後ろへひっくり返らないように超前傾姿勢で、ハンドルをガッチリ握る。脚はとにかく回転を止めず、ペダルを回しまくる。とにかくバランスを崩さない事を意識して進んで行く。上れ、上れ、上れ~っ! 坂を上りきったところで足を降ろし、バイクを止める。よしっ、やった、上ったぞ! 

まだ、終わっていない、次は問題の下りだ。下手なブレーキでタイヤをロックさせたり、バランスを大きく崩したら、そのまま坂の下まで転がり落ちて大怪我…… そうなりたくないので前後ブレーキを駆使しながら、ゆっくりゆっくり、ひたすら慎重に下って行く。平坦な道に着いたときは、心底ホッとした。

やったー! と喜ぼうとしたら「あっ、痛たたたたっ……」全身が痛い。どうやらあちこちに思い切り力が入っていたようで、肩や腕、腰、腿、全身の筋肉が痛い。「うそだろ~っ10mちょっとの坂で、こんなことってあるの?」背中をさすりながら苦笑い。体を丸めながら自動販売機まで数十m、老人のようにゆっくり移動。この様子を知らない人が見たらどう思うだろう。しばらくその場で体を休めたが、痛みは収まらず。普通に動けるようになるまで30分以上かかった。激坂の後にまさかこんな結末が待っているとは、想像もしていなかった。

十番坂を上から見たところ
激坂『十番坂』を上から見たところ。写真ではわかりにくいが、実際にこの急坂を見ると足がすくむ。自転車で下るのはかなり勇気が必要
十番坂に挑む直前
『十番坂』に挑む直前の写真。eバイクじゃなかったら、こんな坂を上ろうと思わなかった。この数分後、意外な結末が待っていた……

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