eバイク旅ノート Vol.67 eバイク日本一周07「湖、原生花園、峠道、食……道東で北海道の大自然を堪能する」

ふたり合わせて123歳の夫婦がeバイクで日本一周の旅に出た。神奈川県をスタート、関東を縦断して日本海へ、秋田まで北上するとフェリーで北海道へ渡った。苫小牧から時計回りで北海道一周を目指す。日本最北端の宗谷岬、礼文島、旭川、紋別、網走などを経て、道東の弟子屈町の川湯温泉までやって来た。

DAY43

川湯温泉では『ゲストハウスNOMY』に荷物を置いて、身軽な状態で美幌峠や屈斜路湖、摩周湖などのスポットをeバイクで走ろうと思っている。朝9時、弟子屈町で『地域おこし協力隊』として活動をしている、友人の“もえちゃん”がジムニーで迎えに来てくれた。数日前に連絡をすると、今日の午前中がフリーということで、車で周辺を案内してくれることになった。

バイクで日本一周をしたり、登山をしたり、アウトドア派のもえちゃん。自転車ではなかなか行けない、ダート林道を走った森の奥にある『第二硫黄山』へ連れて行ってくれるという。数キロ走った後、車を降りて歩いてゆく。森の中を進むと突然、木が生えてないエリアが現れる。どうやらここが『第二硫黄山』らしい。さらに歩を進める、ゴーッと音を立てながら噴気が出ている噴気孔があった。すごい迫力。地球が生きていることを実感する。スケールは大きくないが、身近に見られるのはとても貴重な体験だった。次に向かったのが『キンムトー』という沼。深い森の中にある自然の沼で、周りに人工物がひとつもない、これぞまさに“秘境”。もえちゃんのお陰でとてもいい時間になった。

森を出ると川湯温泉駅の近くにあるカフェ『森のホール』へ行き、一緒にランチを楽しんだ。ここでもえちゃんとはお別れとなる。ゲストハウスに戻るとeバイクで出かけた。『硫黄山』が近づくと、森からゴツゴツと荒々しい山の風景に変わる。灰色の山肌から硫黄分を含む白煙がモクモクと上がっている。噴気孔の近くまで行くと「ゴゴッーッ!」と激しい蒸気音が耳に響く。

摩周湖第三展望台へ向かう道は、ひたすら上り坂だった。摩周湖を見にへ行くとしか聞いていなかったヒロコは「ちょっと、ちょっとー、峠だなんて、聞いてないぞー!」と怒っている。スマホで調べてみると、なんと! 摩周湖第三展望台の標高が670mと書いてある。これはもう、ほとんど峠越えみたいなものだ。eバイクでもさすがに2日連続峠越えはきつい。しかしここまで来て摩周湖を見ずに戻ることはできない。結局上り坂は1時間近続いた。それだけに展望台から摩周湖が見えたときは嬉しかった。真上から湖面を見ると水は青く透明で吸い込まれそうなほど美しかった。

宿泊地:北海道弟子屈町
走行距離:50.5km

キンムトー
車に乗って森の奥へ、さらに歩いて密林を抜けると目の前に神秘的な沼が現れた。『キンムトー』の周りは深い森で人工物は一切ないまさに“秘境”
もえちゃんと藤原さん夫婦
弟子屈町に住み始めて1年のもえちゃんに車で案内してもらった。若いのにアウトドアの知識が豊富。ドライブの後は森のホールで一緒にランチ
硫黄山
ゴーッと音を立てながら噴煙を上げる『硫黄山』は、ごつごつとした山肌が特徴で木が生えていない。その周辺にはつつじヶ原など独特な景色が広がっている
摩周湖
第三展望台から『摩周湖』を眺める。世界有数の高い透明度を誇る湖で、最大水深は212m。深い青色の湖水は「摩周ブルー」と呼ばれている

DAY44

ヒロコには申し訳ないのですが、今日も峠へ行きます(笑)。北海道で屈指の展望を誇る『美幌峠』を目指す。屈斜路湖沿いに延びる道道52号を走り、国道243号へ出てしばらく行くと、小さなエゾリスが猛スピードで道を横断して行った。北海道は野生動物の宝庫だ。緩やかな上り坂が続く。美幌峠はライダーに人気があるので、次々とバイクが追い越してゆく。ピースサインをしてくれるライダーも多い。

昼少し前に美幌峠(標高525m)に到着した。北海道で一番好きな峠なので、ヒロコにはここからの絶景をぜひ見てもらいたいと思っていた。さらに歩いて展望台まで来ると、眼下に屈斜路湖がドーンと広がった。手前には走ってきた道、遠くには知床連峰が見える。まさに絶景、ヒロコはどんな反応をするかと思ったら、3日前に登った『ハイランド小清水725』の方が好きかも……とつぶやいた。予想外の反応にガックリ、これは好みだから仕方がないよね。そうだ、そうだ。無理やり自分を納得させた(笑)

美幌峠には『道の駅・ぐるっとパノラマ美幌峠』という施設がある。以前はどこにでもある普通の売店&食堂だったが、2022年にリニューアル。人気のパン屋、美幌町の食材を使った料理が食べられるレストラン。オホーツクエリアのセレクトショップなど、おしゃれな施設に大変身。

名物の『美幌峠の揚げいも』やパン屋の『ザックザクカレーパン』など買い、2階の展望休憩室でランチタイムにする。大きな窓に広いスペースが広がっていて、テーブルもたくさん並んでいる。今日は人が少ないので座れる場所もたくさんある。窓際の席に座り、景色を眺めながらゆったりランチを楽しんだ。

峠を一気に下ると、屈斜路湖の和琴半島へ向かった。しばらく行くと、昔よく入った『和琴温泉露天風呂』が見えてきた。ここは大昔、全裸で入るのが普通だったが、時代は変わり、今は水着着用が当たり前になった。それなのに、何も知らないおじいさんが全裸で登場、水着の外国人女性が浸かっているところにズンズン入って行くではないか。確かにここは混浴露天風呂なんだけど、うまく言葉にできない、なんだかシュールな光景だった。

温泉ホテル『欣喜湯』でさっぱりした後、気になっていた昭和の空気が漂う『お多福食堂』へ行ってみることにした。ガラガラと引き戸を開けると、結構お客さんが入っている。年配のご夫婦が経営する食堂で、お母さんが注文を取りに来た。かつ丼と小ラーメンのセットを注文。食べるとどちらも濃いめの味付けで、懐かしい昭和の味がした。

宿泊地:北海道弟子屈町
走行距離:73.0km

川湯ビジターセンター
川湯温泉にある『川湯ビジターセンター』では阿寒摩周国立公園と周辺の自然や動植物を紹介。2階にはカフェコーナーがありゆったり過ごせる
美幌峠
この旅で、ヒロコに見てもらいたかった北海道絶景のひとつが『美幌峠』。屈斜路湖から峠へ至る道からの眺めも素晴らしく、ここまでの疲れも吹き飛んだ
和琴半島の付け根にある混浴露天風呂
ここは屈斜路湖の和琴半島の付け根にある、混浴露天風呂。底からお湯が沸き出している超ワイルドな温泉。入浴するにはちょっと勇気がいるかも
屈斜路湖の湖畔
屈斜路湖の湖畔のベンチで休憩。近くの和琴半島には『和琴自然探勝路』があり、日本では北限となるミンミンゼミが生息することでも知られている
お多福食堂
散歩中に見つけた『お多福食堂』。川湯温泉は居酒屋がおおいので庶民的な食堂は貴重な存在。店内は昭和の雰囲気、蝦夷鹿定食も食べられる
川湯温泉の町
ノスタルジー漂う川湯温泉の町。民芸品店がいくつもあり、木彫りの動物の置物やコロポックルの彫刻など、北海道らしい土産品がたくさん売られている

DAY45

今日の目的地は斜里町。川湯温泉の町を出ると国道391号を北上する、緩やかな上り坂が続く。野上峠は標高320mと低いのであっという間に上り切った。峠越えにも慣れてきたのか、ヒロコも楽勝だった。

今日は時間的に余裕があるので、オホーツク沿いにある『小清水原生花園』へ寄り道することにした。オホーツク海と濤沸湖に挟まれた細長い砂丘にある『小清水原生花園』は天然の花畑と呼ばれていて、特に夏はたくさんの植物を見ることができる。

歩いて原生花園を散策した後、ビジターセンターで小休憩。そこで見つけた売店の“ソフト&ジェラート”の文字に、ヒロコの目がキラリ光った。数種類ある中から『アスパラのジェラート』選んだ。確かに、アスパラのジェラートは珍しい。「あっ! おいしい」食べた瞬間、ヒロコは笑顔になった。食べてみると甘いミルクと爽やかなアスパラの風味がバランスよく融合。想像以上においしく、あっという間に食べてしまった。

釧網本線と並行して延びる国道244号を東へ。『道の駅しゃり』に到着すると『しれとこ斜里ねぷた』なるイベントが開催されていた。青森県弘前市との文化交流の中から始まったものらしく、ねぷたが町内を練り歩く光景は斜里の夏の風物詩となっているという。北海道でもねぷた祭りがあるとは知らなかった

次に予約していた宿へ向かう。『温泉付きコテージ』ということで、楽しみにしていたが、案内されたのは古い平屋の一軒家。昭和のキッチン、寝室は2段ベッドで、想像していたリゾートとはかなり違っていた。だがそれ以上に困ったことが起きた。ヒロコがリモートで仕事をする予定だったのに、設備の故障でWi-Fiが繋がらないというではないか。Wi-Fiがあるからここを選んだのに、それでは意味がない。それから宿のスタッフさんが試行錯誤。最終的にWi-Fiの繋がる住宅の部屋を借りることで一件落着となったが、一時はどうなるか? 胃が痛くなった。

宿泊地:北海道斜里市
走行距離:75.9km

茶畑
麦畑が広がる景色も、北海道を象徴する風景のひとつ。走るスピードが遅いeバイクの旅だからこそ感じられる景色の変化、新しい発見がある
小清水原生花園インフォメーションセンターHANA
『小清水原生花園インフォメーションセンターHANA』。円形ホールには、天然の花畑『小清水原生花園』で見られる花々の写真が壁一面に並んでいる
原生花園駅
かわいいログハウスの『原生花園駅』は夏季限定でオープンする釧網本線の臨時駅。ホームに降り立った瞬間から小清水原生花園の景色が楽しめる
アスパラのジェラート
小清水原生花園で食べたアスパラのジェラート。興味半分で買ってみたが、ミルクの甘さがアスパラのおいしさをうまく包み込んでいて、とてもおいしかった
宿泊場所
北海道では友人宅、ビジネスホテル、ユースホステル、ゲストハウス、ライダーハウス、キャンプ場、バンガローなど色々なところに泊まった

DAY46

今日の目的地は羅臼。知床半島方面は斜里を出るとウトロまで約40km近くコンビニもないので、念のため菓子パンや飲み物などを買っておく。今日は天気がいいので斜里岳がよく見える。しばらく走ると海沿いを走る道になった。手を伸ばせば届きそうなところにオホーツク。潮風が気持ちいい。

11時半に『オシンコシンの滝』に到着した。知床八景のひとつで、落差約30m、途中から2つに分かれている事から「双美の滝」とも呼ばれることもある。オシンコシンという名が個性的なのでは、どういう意味なのか気になっていたが「エゾマツが群生するところ」と普通の意味だったので、ちょっとがっかりした(笑)

ウトロに着くと旅仲間が教えてくれた、夏の土日だけオープンして“ウニ丼”を提供している店『GVO』に立ち寄ることにした。食堂というよりも、おしゃれなカフェという感じのお店。マスターはウニ漁師でありながらミュージシャンということで、店内にはたくさんのCDが並び、ギターなども飾られている。

ここのウニ丼は、生ウニの旨味と甘みを出すために熟成させているのが特徴。出てきたウニはきれいなオレンジ色をしている。食べてみると納得。濃厚でクリーミー、口の中でとろけていく、これぞ熟成の味。ほかとはひと味違う、おいしいウニ丼だった。ヒロコも満足そうだ。

ウトロを出ると知床峠へ向かって、緩やかな上り坂が延々と続いた。山深く、車が走り去ると静寂に包まれる。聞こえるのはペダルが回る音とかすかなモーター音。突然森からガサガサと何か動く音がした。「まさか、熊?」と身構えたがエゾジカだった。

ペダルをこぎ続けること1時間半。ようやく知床峠に到着した。これで5日間連続の峠越え。ヒロコ曰く、軽めのギヤでゆっくり上った方が、息が上がらず体力の消耗も少ないことがわかってきたという。どうやら体力アップと同時にeバイクの使い方もマスターしたようだ。

知床峠を越えると根室海峡に浮かぶ国後島がドーンと見えるはずだったが、今日はあいにく薄雲がかかって見えない。ヒロコに感動的な景色を見せたかったのに……残念。

午後6時、羅臼のライダーハウスに到着。部屋に荷物を降ろし買い物に出かける。羅臼の町を歩いていると河原を歩くキタキツネの姿を見つけた。どこへ行くのか見守っていると、そのまま土手を上り、建物が並ぶ中心地へ向かって行った。見るとその先に野良猫が4匹いる。どうするのか興味津々で見ていると、キタキツネが猫の群れを警戒しながら、遠回りして逃げて行った。やはり数が多い方が強い? 弱肉強食? 初めて見る光景は新鮮だった。

宿泊地:北海道羅臼町
走行距離:74.2km

オホーツク海
斜里を出るとウトロまで約40km間、コンビニは一軒もない。オホーツク海を眺めながら、頭ではお昼ごはんをイメージ、後はひたすらペダルをこぐだけだ
熟成生ウニ丼
ウトロのウニ漁師さんが営業するカフェバーGVOで食べた『熟成生ウニ丼』。濃厚でクリーミーなウニは美味の一言! ひとり3500円奮発した甲斐があった
ヒグマ注意の看板
港町ウトロから、国道334号で知床峠を目指していると路肩に大きな『ヒグマ生息地、近づかない! 食べ物を与えない!』の看板。緊張感が高まる
羅臼岳
上り坂の先に天高くそびえる羅臼岳がハッキリ見える。eバイクのアシストを使って長い長い峠道を、ゆっくりゆっくり自分のペースで上って行く
知床峠
知床横断道路の最頂部、標高738mのビュースポット『知床峠』に到着。天候が良い日は北方領土国後島を望めるのだが、この日は雲がかかって見えなかった
エゾジカ
羅臼の町を歩いていると、町の信号近くに大きなエゾジカがいた。人間に慣れているのだろう、僕たちの姿に驚く気配もなく、のんびり草を食べていた

取材協力:
ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/ypj/
セナブルートゥースジャパン
https://senabluetooth.jp/
ステムデザイン
https://www.stem-design.net
武田レッグウェアー
https://www.rxl.jp

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