ふたり合わせて123歳の夫婦がeバイクで日本一周の旅に出た。神奈川県をスタート、関東を縦断して日本海へ、秋田まで北上するとフェリーで北海道へ渡った。苫小牧から時計回りで北海道一周を目指す。日本最北端の宗谷岬、礼文島、旭川、紋別、網走などを経て、道東の弟子屈町の川湯温泉までやって来た。
DAY43
川湯温泉では『ゲストハウスNOMY』に荷物を置いて、身軽な状態で美幌峠や屈斜路湖、摩周湖などのスポットをeバイクで走ろうと思っている。朝9時、弟子屈町で『地域おこし協力隊』として活動をしている、友人の“もえちゃん”がジムニーで迎えに来てくれた。数日前に連絡をすると、今日の午前中がフリーということで、車で周辺を案内してくれることになった。
バイクで日本一周をしたり、登山をしたり、アウトドア派のもえちゃん。自転車ではなかなか行けない、ダート林道を走った森の奥にある『第二硫黄山』へ連れて行ってくれるという。数キロ走った後、車を降りて歩いてゆく。森の中を進むと突然、木が生えてないエリアが現れる。どうやらここが『第二硫黄山』らしい。さらに歩を進める、ゴーッと音を立てながら噴気が出ている噴気孔があった。すごい迫力。地球が生きていることを実感する。スケールは大きくないが、身近に見られるのはとても貴重な体験だった。次に向かったのが『キンムトー』という沼。深い森の中にある自然の沼で、周りに人工物がひとつもない、これぞまさに“秘境”。もえちゃんのお陰でとてもいい時間になった。
森を出ると川湯温泉駅の近くにあるカフェ『森のホール』へ行き、一緒にランチを楽しんだ。ここでもえちゃんとはお別れとなる。ゲストハウスに戻るとeバイクで出かけた。『硫黄山』が近づくと、森からゴツゴツと荒々しい山の風景に変わる。灰色の山肌から硫黄分を含む白煙がモクモクと上がっている。噴気孔の近くまで行くと「ゴゴッーッ!」と激しい蒸気音が耳に響く。
摩周湖第三展望台へ向かう道は、ひたすら上り坂だった。摩周湖を見にへ行くとしか聞いていなかったヒロコは「ちょっと、ちょっとー、峠だなんて、聞いてないぞー!」と怒っている。スマホで調べてみると、なんと! 摩周湖第三展望台の標高が670mと書いてある。これはもう、ほとんど峠越えみたいなものだ。eバイクでもさすがに2日連続峠越えはきつい。しかしここまで来て摩周湖を見ずに戻ることはできない。結局上り坂は1時間近続いた。それだけに展望台から摩周湖が見えたときは嬉しかった。真上から湖面を見ると水は青く透明で吸い込まれそうなほど美しかった。
宿泊地:北海道弟子屈町
走行距離:50.5km
DAY44
ヒロコには申し訳ないのですが、今日も峠へ行きます(笑)。北海道で屈指の展望を誇る『美幌峠』を目指す。屈斜路湖沿いに延びる道道52号を走り、国道243号へ出てしばらく行くと、小さなエゾリスが猛スピードで道を横断して行った。北海道は野生動物の宝庫だ。緩やかな上り坂が続く。美幌峠はライダーに人気があるので、次々とバイクが追い越してゆく。ピースサインをしてくれるライダーも多い。
昼少し前に美幌峠(標高525m)に到着した。北海道で一番好きな峠なので、ヒロコにはここからの絶景をぜひ見てもらいたいと思っていた。さらに歩いて展望台まで来ると、眼下に屈斜路湖がドーンと広がった。手前には走ってきた道、遠くには知床連峰が見える。まさに絶景、ヒロコはどんな反応をするかと思ったら、3日前に登った『ハイランド小清水725』の方が好きかも……とつぶやいた。予想外の反応にガックリ、これは好みだから仕方がないよね。そうだ、そうだ。無理やり自分を納得させた(笑)
美幌峠には『道の駅・ぐるっとパノラマ美幌峠』という施設がある。以前はどこにでもある普通の売店&食堂だったが、2022年にリニューアル。人気のパン屋、美幌町の食材を使った料理が食べられるレストラン。オホーツクエリアのセレクトショップなど、おしゃれな施設に大変身。
名物の『美幌峠の揚げいも』やパン屋の『ザックザクカレーパン』など買い、2階の展望休憩室でランチタイムにする。大きな窓に広いスペースが広がっていて、テーブルもたくさん並んでいる。今日は人が少ないので座れる場所もたくさんある。窓際の席に座り、景色を眺めながらゆったりランチを楽しんだ。
峠を一気に下ると、屈斜路湖の和琴半島へ向かった。しばらく行くと、昔よく入った『和琴温泉露天風呂』が見えてきた。ここは大昔、全裸で入るのが普通だったが、時代は変わり、今は水着着用が当たり前になった。それなのに、何も知らないおじいさんが全裸で登場、水着の外国人女性が浸かっているところにズンズン入って行くではないか。確かにここは混浴露天風呂なんだけど、うまく言葉にできない、なんだかシュールな光景だった。
温泉ホテル『欣喜湯』でさっぱりした後、気になっていた昭和の空気が漂う『お多福食堂』へ行ってみることにした。ガラガラと引き戸を開けると、結構お客さんが入っている。年配のご夫婦が経営する食堂で、お母さんが注文を取りに来た。かつ丼と小ラーメンのセットを注文。食べるとどちらも濃いめの味付けで、懐かしい昭和の味がした。
宿泊地:北海道弟子屈町
走行距離:73.0km
DAY45
今日の目的地は斜里町。川湯温泉の町を出ると国道391号を北上する、緩やかな上り坂が続く。野上峠は標高320mと低いのであっという間に上り切った。峠越えにも慣れてきたのか、ヒロコも楽勝だった。
今日は時間的に余裕があるので、オホーツク沿いにある『小清水原生花園』へ寄り道することにした。オホーツク海と濤沸湖に挟まれた細長い砂丘にある『小清水原生花園』は天然の花畑と呼ばれていて、特に夏はたくさんの植物を見ることができる。
歩いて原生花園を散策した後、ビジターセンターで小休憩。そこで見つけた売店の“ソフト&ジェラート”の文字に、ヒロコの目がキラリ光った。数種類ある中から『アスパラのジェラート』選んだ。確かに、アスパラのジェラートは珍しい。「あっ! おいしい」食べた瞬間、ヒロコは笑顔になった。食べてみると甘いミルクと爽やかなアスパラの風味がバランスよく融合。想像以上においしく、あっという間に食べてしまった。
釧網本線と並行して延びる国道244号を東へ。『道の駅しゃり』に到着すると『しれとこ斜里ねぷた』なるイベントが開催されていた。青森県弘前市との文化交流の中から始まったものらしく、ねぷたが町内を練り歩く光景は斜里の夏の風物詩となっているという。北海道でもねぷた祭りがあるとは知らなかった
次に予約していた宿へ向かう。『温泉付きコテージ』ということで、楽しみにしていたが、案内されたのは古い平屋の一軒家。昭和のキッチン、寝室は2段ベッドで、想像していたリゾートとはかなり違っていた。だがそれ以上に困ったことが起きた。ヒロコがリモートで仕事をする予定だったのに、設備の故障でWi-Fiが繋がらないというではないか。Wi-Fiがあるからここを選んだのに、それでは意味がない。それから宿のスタッフさんが試行錯誤。最終的にWi-Fiの繋がる住宅の部屋を借りることで一件落着となったが、一時はどうなるか? 胃が痛くなった。
宿泊地:北海道斜里市
走行距離:75.9km
DAY46
今日の目的地は羅臼。知床半島方面は斜里を出るとウトロまで約40km近くコンビニもないので、念のため菓子パンや飲み物などを買っておく。今日は天気がいいので斜里岳がよく見える。しばらく走ると海沿いを走る道になった。手を伸ばせば届きそうなところにオホーツク。潮風が気持ちいい。
11時半に『オシンコシンの滝』に到着した。知床八景のひとつで、落差約30m、途中から2つに分かれている事から「双美の滝」とも呼ばれることもある。オシンコシンという名が個性的なのでは、どういう意味なのか気になっていたが「エゾマツが群生するところ」と普通の意味だったので、ちょっとがっかりした(笑)
ウトロに着くと旅仲間が教えてくれた、夏の土日だけオープンして“ウニ丼”を提供している店『GVO』に立ち寄ることにした。食堂というよりも、おしゃれなカフェという感じのお店。マスターはウニ漁師でありながらミュージシャンということで、店内にはたくさんのCDが並び、ギターなども飾られている。
ここのウニ丼は、生ウニの旨味と甘みを出すために熟成させているのが特徴。出てきたウニはきれいなオレンジ色をしている。食べてみると納得。濃厚でクリーミー、口の中でとろけていく、これぞ熟成の味。ほかとはひと味違う、おいしいウニ丼だった。ヒロコも満足そうだ。
ウトロを出ると知床峠へ向かって、緩やかな上り坂が延々と続いた。山深く、車が走り去ると静寂に包まれる。聞こえるのはペダルが回る音とかすかなモーター音。突然森からガサガサと何か動く音がした。「まさか、熊?」と身構えたがエゾジカだった。
ペダルをこぎ続けること1時間半。ようやく知床峠に到着した。これで5日間連続の峠越え。ヒロコ曰く、軽めのギヤでゆっくり上った方が、息が上がらず体力の消耗も少ないことがわかってきたという。どうやら体力アップと同時にeバイクの使い方もマスターしたようだ。
知床峠を越えると根室海峡に浮かぶ国後島がドーンと見えるはずだったが、今日はあいにく薄雲がかかって見えない。ヒロコに感動的な景色を見せたかったのに……残念。
午後6時、羅臼のライダーハウスに到着。部屋に荷物を降ろし買い物に出かける。羅臼の町を歩いていると河原を歩くキタキツネの姿を見つけた。どこへ行くのか見守っていると、そのまま土手を上り、建物が並ぶ中心地へ向かって行った。見るとその先に野良猫が4匹いる。どうするのか興味津々で見ていると、キタキツネが猫の群れを警戒しながら、遠回りして逃げて行った。やはり数が多い方が強い? 弱肉強食? 初めて見る光景は新鮮だった。
宿泊地:北海道羅臼町
走行距離:74.2km
取材協力:
ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/ypj/
セナブルートゥースジャパン
https://senabluetooth.jp/
ステムデザイン
https://www.stem-design.net
武田レッグウェアー
https://www.rxl.jp