旅行家・藤原かんいちが30日間で果たしたeバイク(YAMAHA WABASH RT/ヤマハ・ワバッシュRT)による佐多岬→宗谷岬、日本縦断3700キロチャレンジ旅。今回は第8回目のリアルレポートです。
28日目。「……まもなく苫小牧港に到着いたします。オートバイ、自転車のお客様は車両甲板へ……」船内にアナウンスが流れる。いよいよ北海道に到着だ。今日から3日間で宗谷岬まで500kmも走れるのか? という不安はあるが、北海道まで来られた喜びと大自然の中をeバイクで走れる期待の方が遥かに大きかった。
朝6時。ほぼ定刻通りに到着した。フェリーを降りると、なんと函館の友人が出迎えに来てくれていた。30年来の親友でSNSでやり取りしていたが、まさか来てくれるとは思わなかったので驚いた。せっかくなので朝ごはんだけでも一緒に食べようということになる。お互いの近況などをおしゃべり。時間に余裕がないので長話はできなかったが、古い友人の励ましは大きなエネルギーになった。
残っているステージは、『美瑛のジェットコースターの路』、『サロベツ原野・道道106号』『宗谷丘陵白い道』の3つとなった。これらを繋いだルートで宗谷岬を目指す。苫小牧を出ると国道234号に入り岩見沢へ向かう。青い空、ピリッとした空気、いま北海道を走っているんだと思うだけで、ペダルがグングン回る。時折、北海道のコンビニ『セイコーマート』を見つけると立ち寄り、コーヒーやジュースを買って喉を潤す。
木々が減り、なだらかな大地が広がる。同時に牧場の看板も目立つようになる。栗山から道道30号へ入ると、道路沿いに農家の大きな倉庫を使ったカフェを見つけた。ここでランチにしよう。木目調の店内は広く、北海道らしくおおらかな雰囲気だった。メニューを開くとオムライス、パスタ、カレーなど洋食が並んでいた。最も目を引いた『とろとろ玉子の牛スジ煮込みデミグラスソースオムレツ』を注文する。名前の通り玉子はふわふわとろとろ、デミグラスソースも濃厚、大満足の味だった。
岩見沢から桂沢湖方面へ向かって行くと、徐々に山の景色に変わってゆく。右手に湖畔が複雑に入り組んだダム湖、桂沢湖が見えてくる。そのまま国道452号で芦別方面へ向かって行く。
今日の宿泊地は富良野。富良野方面の標識を右折、しばらく進むと前方に鉛のように黒い雲が見えてきた。これは絶対に降るぞ。ここまでずっといい天気、富良野まであと20kmなのに、チクショウ。降られる前にレインウエアを着ておく。しばらく走ると辺りは暗くなり、バケツをひっくり返したような激しい雨が始まった。「ザザザッ! ドドドッ!」矢のような雨が全身に突き刺さる。雨宿りするは場所ないので、ひたすら耐え走り続ける。すごい雨量で道が川のようになっている。転倒したら大変なので、慎重に進んでゆく。
全身ずぶ濡れ状態で富良野に着いた。この旅で一番ひどい雨だった。予約していた富良野ホステルTOMARを訪ねる。自転車置き場を心配していたが、広いフロアの受付の隣にバイクラックがあった。何と室内に自転車を停められるではないか。ここなら雨に濡れないし、盗難の心配もない。偶然選んだ宿だが、幸運だった。安心してシャワーを浴び、コインランドリーで濡れた服を洗濯。ホッと一息をついた。今日の走行距離は157km。宗谷岬まで残り約360km。




29日目。朝起きると雨は上がっていた。7時過ぎにホステルを出発。JR富良野駅へ行くと立ち食いそば屋があったので天ぷらうどんを注文する。麺は柔らかく、ダシは濃い目の醤油味、北海道らしいうどんだった。
国道237号を北へ。向かうのは『美瑛のジェットコースターの路』。まるでジェットコースターのような急傾斜のアップダウンが続くことから、そう呼ばれるようになり、今では美瑛の観光スポットのひとつになっている。美瑛にはオートバイで何度も来ているが、『ジェットコースターの路』を走るのは今回が初めて。
国道を離れると道の両側になだらかな丘陵が広がった。丘の上に上ると、上下に何度もうねりながらまっすぐに伸びる『ジェットコースターの路』が見えた。丘から一気に下ると、その勢いのまま上ってゆく。アシストのあるeバイクは上り坂も得意なので、激しいアップダウンを想像以上に楽しむことができた。
国道237号へ戻り北上、東神楽町を目指す。20年来の友人である小原さんが北海道を旅するライダーのための作った、情報基地『HOKKAIDER BASE(ホッカイダー・ベース)』を訪ねると、小原さんが笑顔で迎えてくれた。さらに、ホッカイダーのコラボ商品として開発、販売中のインスタントラーメン『ライダー麺』を作ってご馳走してくれた。日本縦断の途中なので、宗谷岬到着の後にまた遊びに来る約束して、すぐに走り出した。
午後1時半、旭川を通過したが、今日の宿泊地はまだ決まっていない。朝からネットで探しているが、音威子府周辺の宿泊場所がどうしても見つからない。満室だったり閉館中だったり、電話で美深のホテルに聞いてみたが、団体が入っていて泊まれないという。結局、見つけられず。予定より50km手前の名寄市のホテルに泊まることになった。
午後8時前、名寄のホテルで改めて距離をグーグルマップで確認すると、名寄から宗谷岬までサロベツ経由でまだ約220kmもあった。そんな距離、走れるだろうか? これまでの1日の最長距離は173km。よし、ここまで来たら、やるだけやってみようと開き直った。




30日目。朝4時起床。ホテルを出ると名寄の町は霧に包まれていた。国道沿いのすき屋で納豆朝食を食べると、意を決し走り出した。ラストチャレンジの始まりだ。国道40号を北へ。霧に包まれた幻想的な景色を進んでゆく。すれ違う車もなく、辺りは時間が止まったように静まり返っている。
『おといねっぷ道の駅』でオートバイの平塚カメラマンと合流。ここまでの旅をずっと見てきた平塚さんは「藤原さんならできますよ!」と励ましてくれた。霧が晴れ、青空が見えてくると、気持ちも上向きになった。
昼12時過ぎ。110km走り、天塩に着いた。いいペースで進んでいる。疲れもそれほどないので、この調子で行ければ午後7時すぎに宗谷岬に着けるかもしれない。予感は確信に変わってきた。行けるかも、いや、絶対に行ける。セイコーマートで手早く昼ごはん食べると、ステージ17『サロベツ原野・道道106号』へ向かった。
天塩川を越えて日本海沿いをしばらく走ると、道の沿って巨大な風車がズラッと並ぶ、オトンルイ風力発電所が見えてきた。壮大な景色に圧倒される。足元を見ると僕を励ますようにオレンジ色のエゾスカシユリが咲いていた。
左手に日本海が広がっているが、残念ながら雲で利尻富士は見えない。1本目のバッテリーがここで終了。メーターを見ると142kmも走っていたのでビックリ。道が平坦だからか想像以上に距離が伸びていた。
小さな展望台『こうほねの家』を過ぎ、ノシャップ岬との分岐を過ぎると、久しぶりに上り坂になった。しばらく上って後ろを振り返ると、雲の上から利尻富士が顔を出していた。見えないと思っていたのに、ラッキーだ。
すでに200km近く走っているのに、もうすぐゴールだと思うと、脚が勝手に動く。宗谷岬まで10km辺りから霧が出てきた。今日は霧と縁がある日だ。海が霧に霞む景色はとても幻想的で夢の中にいるようだった。『宗谷丘陵の白い道』の標識の矢印に沿って脇道へ入ってゆく。坂道を登ってゆくと、貝殻で作られた白い道が現れた。振り返ると水平線はオレンジ色に染まり、太陽はすでに日本海に沈んでいた。感動的な景色に立ち尽くす。
スマホのラインで平塚カメラマンが遅れていることが分かった。時間的に白い道に来るのは無理そうなので、直接、宗谷岬で落ち合うことにした。霧に包まれた宗谷丘陵を走っていると、野生のシカたちが次々目の前を横切って行った。高台に出ると、数十頭のシカが霧の丘に立っているのが見えた。その光景はこの世とは思えないほど美しく神秘的で、この旅最後のプレゼントのように思えた。
宗谷岬に着くとビックリ。友人の小原さんがいるではないか。明日は予定が入っているから……と言っていたのはフェイクだったらしい。なんていいやつなんだ。それも“日本縦断ゴール”と書かれた立て幕まで持っている。この時のために作ってくれたらしい、まさかのサプライズ。感動のゴールとなった。大きな達成感と共に僕の30日間日本縦断の旅は幕を下ろした。次回は総集編として日本縦断を振り返ってみたいと思います。
■30日間の総走行距離:3689km






■今回の走行ルート
来る2022年11月25日~27日に東京原宿にて旅を写真と車両、藤原かんいちのトークで伝える「E-Bike日本縦断の旅展」が開催されます!
ぜひ遊びに来てください♪お待ちしています。
詳しくはhttps://e-bikejapan.com/event/6598/