旅行家藤原かんいちが30日間で果たしたeバイクによる佐多岬→宗谷岬、日本縦断3700キロチャレンジ旅。今回は第3回目のリアルレポートです。
5月23日。日本縦断8日目。今日走る、ステージ05『しまなみ海道サイクリングロード』は日本で初めて海峡を横断する自転車道路として整備された道で、サイクリストの聖地といわれる。日本縦断でなくても一度は自転車(eバイク)で走りたいと思っていたので楽しみだ。
ローカル色たっぷりの渡船に乗って向島へ上陸。狭い路地を走り、海沿いを進んで行く。この旅初めての離島、それだけでテンションが上がる。因島と繋がる因島大橋は高台で繋がっているため、幹線道路から橋へ続く歩行者自転車道へ入って行く。自転車道は急勾配の登り坂、電動アシストの力を借りてゆっくり進んで行く。橋のたもとに出ると眼下に瀬戸内海の景色が広がった。
因島の風景をのんびり眺めながらeバイクを走らせる。次の生口島ではジェラートが人気の『ドルチェ』に立ち寄り、甘いジェラートを堪能。大三島では『道の駅・多々羅しまなみ公園』に立ち寄り、サイクリストの聖地と記された記念碑とWABASH RT(ワバッシュRT)で記念撮影。これで少し日本縦断に泊がついた(笑)
ほぼ一日かけて満喫した『しまなみ海道』。個性豊かな島々の文化や歴史に触れられるのはもちろん、各所と橋に自転車道があり、安全に走れることが嬉しかった。さらに一般道はもちろん、自転車道や橋から瀬戸内海の美しい景色が眺められるのも大きな魅力。こんな特別感を味わえる道は日本で『しまなみ海道』だけ。今回、実際に自転車(eバイク)で走ったことで、その魅力を再確認した。
9日目。松山のビジネスホテルの朝、緊急事態が起きた。無理な体勢でバックを持ち上げた瞬間、腰にピキーンと激痛。それから体をある方向に向けると激痛が! これはもしかして、ぎっくり腰!? うめき声を上げながら、荷物を運び出しチェックアウト。痛みと闘いながらバックを自転車に積み込んだ。
【ぎっくり腰で日本縦断中断!】見出しが頭に浮かぶ。ダメだ、ダメだ! それだけは絶対に避けたい。どんなに痛くても、ペダルさえこげれば前へ進めるはず、そう信じてゆっくりサドルに跨った。恐る恐るペダルを踏み込む。んっ!? 痛いけど、何とか走れそうだぞ。どうにかこうにか9日目が動き出した。
ステージ06『四国カルスト』へ向かってペダルをこぐ。休憩や昼ごはんで、自転車から降りる度に、激痛でウーッ、ヒ~ッ、ク~ッ唸り声が出る。騙し騙し走り続け、どうにかこうにか四国カルストにたどり着いた。標高1080mの地芳峠から姫鶴平へ。目の前に広がる緑の大地、点在する白い石灰岩。その中を気持ちよさそうに延びる道。これぞ、絶景の中の絶景だ。腰痛と闘いながらも何とかここまで来られて、本当に良かった。
ところが、そこから須崎市までが遠かった。道は山深く急カーブの連続、地図では近そうに見るのに、なかなか進まない。結局、海沿いの須崎に着いたのは8時過ぎ。2日連続の夜間走行となった。ちなみに走行距離は145km。悪夢のようなぎっくり腰は、痛みに耐えて動いたのが良かったのか、悪化することなく少しずつ痛みは減少、夜にはほぼ普通に動けるようになっていた。一時は旅の中断を覚悟したので、心からホッとした。
10日目。5時起床。須崎の宿を出ると、国道56号で高知市へ向かった。交通量は多いが、田畑、民家、小山、川など田舎らしい景色が続いた。国道33号に入ると『高知城前交差点』の文字が目に入った。『高知城』へ行ったことがないことを思い出す。せっかくだから一目見ておこうと思い、路地へ入って行くと、城壁の奥に聳え立つ天守が見えた。風格漂う高知城。観光旅行なら中に入るのところだが、今回は外から眺めるだけに留めておく。
次のステージ05は山岳部を東西に走る日本最長ダートロード『剣山スーパー林道』。最新情報を収集したところ、西部は通行止で走れないことがわかったので今回は東部だけ走ることにした。バッテリー充電や距離を考えると、今夜は徳島県那賀町辺りまで行きたいところ。しかし、かなり山奥なので、那賀町とその周辺には数えるほどしか宿がなかった。見つけたと思ったら高級温泉旅館だったり、営業中か不明の民宿だったり。旅行サイトやグーグル検索を駆使して探すが、なかなか見つからず、時間だけが過ぎていく……
昼過ぎ、ようやく1日1組限定のゲストハウス『はなれ』という宿を見つけた。今日の宿泊だけに断られる可能性もあるが、ダメで元々。電話で事情を話すと「いいですよー」と嬉しい言葉が返ってきた。ああ、よかった。無事宿を確保、後は走るだけだ。
国道195号を東へ行くほど民家は減り、交通量も激減。代わりに山々に川、緑の木々など自然の色がどんどん濃くなって行った。カーブとトンネルが連続。長い『四ツ足トンネル』と抜け、徳島県入り。山の中の夜間走行はさすがに怖いので、日が暮れる前にゲストハウスに着けるよう、必死にペダルをこぐ。
まだ明るい6時半に、山奥の集落の外れにあるゲストハウスに到着した。平屋の一軒家。田舎に不釣り合いな、全面ガラス張りのオシャレな宿。しばらくするとオーナーの中野さんがやってきた。気さくな女性で、自転車で来たことに驚きながら、この町のことからゲストハウスができるまで、他に経営しているギャラリーカフェのことなど、明るく話してくれた。シャワーを浴びてスッキリ、明日の剣山スーパー林道に備えて、早めに布団に入った。
11日目。徳島は午後3時から雨の予報、早めに出発する。国道195号を東へバイクを走らせる、2時間ほど走ると黄色の大きな橋に出た。出合橋だ、ここから国道193号に入り、北へ向かった。ここまでも交通量は少なかったが、さらに減り景色も山深くなって行く。山道をしばらく上ると『剣山スーパー林道入口』の標識が現れる。いよいよダート走行のはじまりだ。
林道は想像以上に荒れていて、路面は深くえぐれ、大きな石がゴロゴロ転がっている。石を避けながら走るが、時々避けきれず石にタイヤを乗り上げ、危うく転びそうになる。荷物が重いこともあり、ペダルを踏むタイミングと走行ラインの取り方のバランスの取るのが難しい。
すでに12時を過ぎている、空模様からしてもいつ雨が降り出してもおかしくない。早く山を下りたいと気持ちは焦るばかり、悪路走行は難しく、体力の消耗も激しいため、スピードは全く上がらない。とにかく転ばないように慎重に進んで行くので精一杯だった。
それでも1時間も走ると少しずつ余裕が出てきた。開けた場所に出ると美しい山並みが見えた。自転車を停めて、ひと休み。林道を走っている車はなく、景色を独り占め。幸せ気分に浸った。スーパー林道を走り始めて約2時間、ついに舗装路になった。やった、ダート走り切ったぞ。解放感と達成感に包まれる。今回走ったことで20㎏以上の荷物を積んでのダート走行は厳しいことがわかった。次、eバイクで走ることがあったら軽装で挑もう、そう思った。
山を下り、勝浦の道の駅に着いたときには4時近くになっていた。今日は朝から何も食べていなかったので、ここで遅い昼ごはんにする。大盛りのピラフを食べ終え、店を出るとどしゃ降りの雨。スーパー林道で降られなくて良かったと心から思った。
■ここまで(11日間)の総走行距離:1385.3km
■今回の走行ルート