美しい高原地帯を走るツーリングルートとして、古くから多くの人に愛されている“ビーナスライン”。長野県茅野市から美ヶ原高原を結ぶ全長約76kmの絶景ルートで、僕自身オートバイで何度か走ったことがある。そこを今回はeバイクで走ってみようと思う。ただビーナスラインの平均標高は1400m、かなり寒そうなので、午前中は温かい諏訪湖を楽しんで(諏訪湖の標高759mあるけど(笑))、気温が高くなる午後ビーナスラインを走るプランにする。
諏訪湖南部のスポーツ公園駐車場に車を駐車、荷台から相棒のeバイク(ヤマハYPJ-TC)を降ろす。湖一周は約16km、eバイクで半日かけて走るのにちょうどいい距離。湖に近い場所を走りたいので反時計周りで進んで行く。ちなみに今回の旅は特別な情報はなし、すべて行き当たりばったり。何に出会うかわからない、運まかせの旅。
湖沿いを走っていると、広い田畑が気になってきた。田園地帯の中を砂利道が一直線に延びている。走りたいと思った僕はいきなり湖畔を逸れて田園地帯のあぜ道へ入って行った。雑草が白いので、もしかしてと思いペダルと止めて足元を見ると、やはり霜が降りていた。僕の住んでいる神奈川とは5℃以上差があるだろう。それにしても寒い。先にビーナスラインへ上らなくて正解だった。
再び湖畔。嬉しいことに諏訪湖は湖畔に沿って、サイクリングロードが整備されていた。サイクリングロードを走っている限り、車の追い越しやすれ違いの心配はない。調子よく走っていると、屋外に展示された蒸気機関車が目に飛び込んできた。案内板によると、昭和39年まで中央東線、篠ノ井線の旅客、貨物運送として活躍していた車両らしい。近くで見るとその大きさと重厚さに圧倒される。運転台に入ってみると鉄の匂いがした。ボイラー室からハンドルがたくさん延びている。何が何だか全くわからない装置がいっぱい、機械を眺めているだけでワクワクする。男は不思議な生き物だ。
その隣は芝生が広がる“石彫公園”、きれいに整備されていた。芝生には羊使いやたくさんの羊の像があり、子供たちが大喜びしそうだ。さらに進んで行くと無料で使用できる“湖畔公園足湯”があった。湖を眺めながら足湯に入れるなんて最高だろうな。入りたいところだが、まだ走り始めたばかりなのでやめておく。先はまだまだ長い。
あちこち寄り道ばかりしているのでなかなか進まない。これではビーナスラインに行けなくなるのでペースを上げた。湖の北東部にはイタリアン、ステーキハウス、ラーメン、寿司屋、焼肉屋、うなぎ屋など、おいしそうな食事処がズラリ。時間が早いのでどこもまだ閉まっているが、興味をそそられる店ばかりだった。さらに進むと、再び雰囲気のある足湯が現れた。先を急ぐため、なるべく見ないようにして進んで行く(笑)
湖沿いは、ほかにも赤砂崎公園、岡谷湖畔公園、湊湖畔公園など、個性豊かな公園が目白押し。少し離れれば諏訪大社もある。さらに湖から眺める景色も、美しいアルプスの山々、田園風景、岡谷や諏訪の町並み、水に浮かぶ鳥など…… 飽きることがなかった。諏訪湖は楽しすぎる。時計を見るとすでに11時を回っていた。「やばい、こんな時間だ!」慌てて駐車場へ向かう。諏訪湖からeバイクでビーナスラインの霧ヶ峰まで上ろうと思っていたが、時間がないので予定変更。急遽、eバイクを車に載せて霧ヶ峰へ向かった。
ビーナスラインの途中にある“霧ヶ峰高原ドライブイン”に到着。ここはビーナスラインで最も広い駐車場がある施設で、ドライバー&ライダーの休憩スポットになっている。秋の高原を楽しむ、車とオートバイの観光客がいっぱい、土曜日ということもあり駐車場は7割くらい埋まっている。大盛況だ。だが、見渡したところ自転車の姿は一台もない。サイクリストには人気はないのかな? ちょっと残念。
空が広々としていて気持ちがいい霧ヶ峰高原、周囲をグルっと見渡すと遠くに富士山が見えた。こんな遠くからも見えるのか。リアキャリアにサイドバックを取り付けると、さあ出発だ。YPJ-TCに跨り、ビーナスラインを北へ向かう。頬に当たる冷たい風に高原を感じる。道は緩やかな上り坂、景色は高原から森に変わって行く。ドドドドドッ……ババババッ…… ツーリングを楽しむライダーとすれ違う。みんな11月のビーナスラインを楽しんでいる。
走り始めて最初に着いたのが“八島湿原”。高原に広がる湿原にはハイカー用の木道があり、季節の花など自然の景色を楽しむことができる。しかし今回は走りがメイン、パスをして先を急ぐ。ビーナスラインはアップダウンが激しいので念のため、予備バッテリーを1本携帯している。気分的にはかなり余裕があるので、バッテリーの消耗は気にせず、アシストをフルに使って進んで行く。
視界が開けると山の尾根が見え、遠くの山々も見渡せるようになった。紅葉も進んでいて、どこの山もきれいに色付いている。まさに絶景。心が洗われる。坂を少し下ると右手に天然きのこ汁が人気の“和田峠茶屋”が見えてくる。さらに進むと“標高1700m”の標識、空がグッと近くなる。
大展望台・三峰茶屋を過ぎ、扉峠に到着した。ここでひと休み。峠には小さな駐車場があるだけ、上り下りを何度も繰り返していることもあり、達成感はあまりなかった。時計を見ると駐車場から2時間弱かかっていた。どこで引き返そうか考えていたが、さらに先へ行くと帰路の途中で日が暮れる可能性があるのでここまでにしておく。さあ、引き返そう。
エンジンパワーで走るオートバイと違って、自転車(eバイク)は道の起伏をダイレクトに感じられるのがいい。上り坂が延々に続くとさすがに「きつ~い! 早く下り坂になれー!」と叫びたくなるけど、汗を流しながら自力で一歩一歩進んで行く、充実感と気持ち良さが自転車にはある。そこへ、アシストをどのタイミングでどれだけ使うのか? 戦略を練る楽しみが加わる。さらに敢えてアシストをOFFにして激坂のきつさを味わってみる……別の遊びもできる。懐が広いeバイクの魅力を再認識する旅となった。