eバイク旅ノート Vol.10 聖地ヤビツ峠フォーエバー

eバイク旅ノート Vol.10 聖地ヤビツ峠フォーエバー

東京から神奈川県相模原市へ移り住んだのはいまから50年前。都内に比べると山が近く、周辺には森や小川など自然がたくさん残っていた。中学生になってドロップハンドルのサイクリング車を手に入れると、相模川、中津川、津久井湖、相模湖、道志みち……いろんなところへ出かけた。その中で特に思い出に残っているのがヤビツ峠。

神奈川県の東部、丹沢大山国定公園を南北に走る県道70号にある標高761mの峠で、新しい自転車を買った時、新しいバイクを手に入れた時、初乗りの行き先はいつもヤビツ峠だった。相模原~宮ヶ瀬~ヤビツ峠~秦野~厚木~相模原と回ってくるのが定番ルート。川あり、森あり、絶景ありの変化に富んだ道で、特に峠の北側にあるダートロードは印象に残っている。自転車の時は長い上り坂に苦労した。それだけに峠に着いた時の達成感は格別だった。そんな思い入れのあるヤビツ峠へ、eバイクで行ってみることにした。

残念なことに2019年の台風以来、県道70号の一部は通行止めなので、今回は相模原~厚木~秦野~ヤビツ峠を往復するコースにする。久しぶりのヤビツ峠、それもeバイクで行くことに胸が高鳴る。距離は80km強、バッテリーも満充電しておけば問題ないだろう。

自宅からヤビツ峠入口の秦野までほぼ市街地。交通量の多い国道はできる限り避け、マイナーな県道や市道を繋いで向かう。伊勢原からは国道246号。小高い山にある新善波隧道を抜けると視界に富士山が飛び込んでくる。富士山を見るとそれだけで、ちょっと幸せな気分になる。

長い坂道を下ると秦野の交差点に到着した。丹沢大山方面は右折と書かれた大きな看板に従い信号を渡る。コンビニに入ると駐車場にロードバイクが4、5台停まっている。おそらくみんなヤビツ峠へ向かうのだろう。おにぎりを外で食べていると、次々にロードバイクが集まってくる。自転車の聖地のようになっているとネットに書いてあったが、どうやら本当らしい。みんなは峠までタイムアタックしているようだが、僕は旅人。タイムなど気にせずeバイクから見える景色を楽しみたいと思っている。

丹沢大山の看板
国道246号でこの看板が立っている交差点がヤビツ峠の入口になっている。周辺には大日堂、波田野城跡、源実朝の首塚などもある
ヤビツ峠の垂れ幕
サイクリストのマナーが悪いのか? 道沿いにこんな垂れ幕がかかっていた。事故や交通安全だけでなくマナーにも気をつけたい

コンビニを出るといきなり急勾配の上り坂が始まった。アシストはHIGHモード。フロントギヤはアウターのまま、リヤギヤを適度に調節しながら上っていく。住宅地の向こう側にこれから向かう丹沢の山々が見える。

しばらく上ると道のど真ん中に鳥居が現れた。鳥居には阿夫利山神社の文字。ここからは大山阿夫利神社の神域ということだろう。さらに300mほど進むと右手で水車が回っていた。その横に「緑水庵」と書かれた立て看板。自然観察できる森や見学できる古民家があるらしい。バイクを止めて覗くと、立派な木造家屋が建っていた。

県道を辿って行くだけではつまらないので、適当な脇道を見つけて入っていった。集落を抜けると畑と小さな川が現れ、視界が開けた。丹沢の山々が手に取るように見える。川沿いの細い道を上っていくと、春らしくあちこちに花が咲いていた。目に留まる民家はどこも古く、この地に長く暮らしていることがわかる。それにしても、県道から一歩外れただけで、こんな世界に出会えるとは思わなかった。道草の達人は、eバイクの達人でもあるのだ(笑)。

小蓑毛の鳥居
県道70号にある小蓑毛の鳥居。少し離れた場所から移動させたものらしいが、道路のど真ん中、左右が車道の中州にあるのがユニーク
ヤビツ峠の田舎道
県道を離れて田舎道へ入っていった。eバイクなら急勾配の上り坂でも、体力や脚力を気にせず景色を眺めながらペダルをこげる

再び県道へ。バス停の公衆トイレで休憩したり、宝連寺に寄ったりしながらヤビツ峠へ向かってゆく。景色のいい場所を見つけると路肩にバイクを止めてスマホでパチリ、ロードバイクが息を弾ませ追い抜いて行く。何度も止まったり走ったりしているからか何度も同じ人と会う。周りの景色を楽しみながら、気持ちのいい汗を流し進んでいく。いくつものカーブを曲がり、いくつもの坂道を上ると、ついにヤビツ峠の看板が見えてきた。やった。ゴールだ!

ヤビツ峠の坂道
流れる景色を全身に感じながら坂道を上る。時々眺めのいい場所を見つけるとバイクを止めて写真を撮影。体力の消耗を気にせず峠を楽しむ
ヤビツ峠の菜の花台展望台
菜の花台展望台でひと休み。この日は天気が良かったので相模湾と秦野の町並みが一望できた。こんな絶景が楽しめるのもヤビツ峠の魅力
ヤビツ峠
ヤビツ峠に到着。結局フロントのインナーギヤは一度も使わず上り切った。1000km以上走っているがインナーを使ったのは4、5回だけ

峠はロータリーのようになっていて一角にバス停と公衆トイレがある。昔からあるヤビツ峠の売店も健在だ。トイレを出ると丘の上に新しい建物が見えた。何だろう?と思い階段を上っていくとレストハウスだった。小さいがテラス席もある。お店の人に声をかけると「3月28日にオープンしたんですよ♪」と明るく笑った。記念に何か食べようと思いメニューを見ると「丹沢ロイヤルカレー」なるものがあった。聞いてみると、天皇陛下が大学時代に丹沢を訪れたことがあり、その時に食べたカレーを再現したものだと教えてくれた。注文をすると10分くらいで出てきた。食べてみると辛さは控えめ、深みのある上品なカレーだった。さすがロイヤルと名前が付くだけのことはある。

レストハウスを出ようとしたら「自転車ですか?」と女性が尋ねてきた。サイクルウエアもヘルメットも着けてないのにどうしてわかったのだろう?と思いつつ、eバイクで来たことを話すと「eバイクですか!? 私すごく興味あるんですよ、ぜひ見せてください」と目を輝かせた。eバイクにここまで反応してきた人は初めて。嬉しくなった僕はバイクを見せながら、eバイクの仕組みや利点、魅力を熱く語った。微力だがeバイカーがひとりでも増えたら嬉しいからね。

ヤビツ峠レストハウスのカレー
テラスで食べるカレーライスは格別。メニューはほかに、具だくさん豚汁、ソフトクリーム、ヤビツ焙煎コーヒー、名物クロモジ茶などがある
ヤビツ峠レストハウス
ヤビツ峠レストハウス。ウッディーな建物が景色に映える。店の前にはサイクルラックがあるので愛車を眺めながらコーヒーが楽しめる

ヤビツ峠の売店へ入るとストーブが焚かれていた。管理人らしき人に聞くと今朝は寒く、氷点下近くまで気温が下がったと教えてくれた。秦野の町より4、5℃は低くなるらしい。昔は売店で食べ物などを売っていたが、買う人がいなくなったので、写真展示ギャラリーになっているという。ここ10年くらいで自転車が一気に増え、ランナーも激増。逆にオートバイやクルマは減ったなぁ、とヤビツ峠の変化を教えてくれた。通行止めになっている道路の工事はかなり進んでいるらしく「今年中には開通するんじゃないかな」と明るい話題も提供してくれた。

僕がヤビツ峠に初めて来たのは中学3年生。うろ覚えだが、その時は峠には木造の売店と古い公衆トイレがポツンと建っているだけ。少し寂しい感じだった。それからバス用のロータリーと大きな公衆トイレができ、菜の花展望台ができ、2週間前にはレストハウスができた。そして今はサイクリストの聖地となり、僕が乗っているのはeバイク。変わりゆく時代を感じる旅となった。

ヤビツ峠の売店
ヤビツ峠の売店ではオリジナルの「矢櫃峠」Tシャツが売られていた。ドリンクのオススメは丹沢のおいしい水を使った「丹沢サイダー」
ヤビツ峠のダウンヒル
ダウンヒルでは素晴らしい景色を楽しむことができた。県道70号の通行止めが解除されたら定番のコースを使ってヤビツ峠一周をしたい

データ
使用車両:ヤマハYPJ-ER
走行距離:95.6km
バッテリー残量:15%

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