子供のころから知らない場所を訪ねることが好きで小さなモーターサイクルで日本一周、さらに世界一周。ついには旅を職業とする旅行家になった、僕の旅の原点は相模川にある。
大凧、鯉のぼり、花火大会など季節のイベント。BBQ大会、遠足、キャンプなど、相模原市民とって最もなじみのある相模川。
小学5年のある日、僕はクラスメートと3人で相模川を歩いて遡る冒険旅行を計画した。一番近い高田橋まではバスで行き、そこからは河原を上流へ向かってひたすら歩く。どこがゴールで、目的は何だったのか? 詳しくは覚えていないが、親も先生もいない、子供だけの冒険旅行に胸が高鳴ったことだけは覚えている。数時間歩いて津久井湖にたどり着いたのだが、そんな思い出の相模川を久しぶりにeバイクでたどってみることにした。
旅の相棒はメルカリで手に入れた愛車、ヤマハのYPJ-ER。大容量バッテリー、5種の走行モード、さまざまなポジションが取れるドロップハンドルがお気に入りポイント。
まずは出発地点となる高田橋へと向かう。自宅から10km弱、ウォーミングアップとしてはちょうどいい距離だ。高田橋は1924年に初代が完成。現在の橋は1975年(昭和50年)に完成した3代目。僕が歩いたのは72年(昭和47年)なので、その時の橋は2代目ということになる。



高田橋から上流は相模川に沿って公園が整備されている。朝早いためかそれとも寒いからか、人の姿はほとんどない。小学5年時はカメラを持っているはずもなく、その頃の写真は1枚もない。当時、この周辺にはどんな景色が広がっていたのだろう。土手沿いに延びる遊歩道が途切れたところから一般道へ入っていく。川が見える道を選んで進むが、ついに川は見えなくなり住宅地になった。対岸側を行っていたら、もっといい道があったのでは? そう思うと少し悔しかった。
住宅地は迷路のように複雑で、アップダウンが激しかった。しかしeバイクなら急坂が目の前に現れても、身構える必要はない。HIGHモードにして、軽いギアにシフトチェンジすれば、大抵の急勾配もスイスイ上っていける。こんな探検旅行にはeバイクがピッタリだと改めて感じる。
1時間も走るといい感じで体が温まってくる。住宅地を進んで行くと、何度か行ったことのある『上大島キャンプ場』の標識が現れた。標識に沿って進んでいくと大嶋坂、ここを下れば再び相模川に出られる。
上大島キャンプ場の隣は、桜の名所の相模川自然の村公園。数年前に車で花見に来たことを思い出す。もうすぐ桜の季節、今年はどんな景色が見られるのだろう。相模川を左手に見ながら進んでいくと、前方に美しいアーチ型の小倉橋とその上にかかる新小倉橋が見えきた。
手前の小さな小倉橋は1979年に完成した道路橋で、現在相模川に架かる橋梁としては最も古い橋として知られている。橋の下は広い河川敷、いくつものテントが並びキャンプ場のようになっている。いいな、次はeバイクにテントを積んで来てみようかなぁ♪ そんなことを考える。



川沿いの道を上っていくと水のないプール場。それ以上は進めなくなってしまった。小倉橋へ引き返し、別の急坂を上って国道413号に出る。国道をしばらく走ると、ついに城山ダム(津久井湖)に出た。ここが50年前の初めての冒険旅行のゴール。目の前に広がるダム湖、見上げると雲一つない青空がどこまでも広がっていた。
今回の旅ではさらに上流にある、相模湖まで行く予定。津久井湖の北側を走る道を進んでいく。交通量の少なく景色のいい道、のんびりペダルをこいでいると次々にロードバイクがやって来る。どうやらサイクリストに人気のルートらしい。できる限り相模川に近いルートを探しながら進んでいくとゲートが現れた。貼り紙に「この先落石の恐れがあり非常に危険なため、全面通行止めにしています」と書かれている。どうやらこれ以上は進めないらしい、別ルートへ迂回だ。
三井大橋を渡り国道413号を進んでいく。地図を見ると名手という集落の先に相模川沿いを行く道があるようなので、再び国道を逸れて、橋を渡って名手へ向かう。名手の集落を抜けたところで再び通行止めの看板が現れる。残念無念! 川沿いのルートは諦めるしかなさそうだ。
再び国道413号へ戻り、国道412号を繋いで相模湖へ向かう。小さな峠を越えて坂を下ると木々の間に相模湖が見えてきた。さらに進むと視界が開け、相模湖がドーンと広がる。湖の向こうには小高い山々が連なる。頬をなでる風が心地いい。



道は半トンネル区間の「嵐山洞門」に入っていく。柱が連続する景色は独特、eバイクだと短い距離でも探検気分が味わえる。さらにペダルをこぎ続けると、今回のゴール地「相模湖公園」に到着。たくさんの観光客、家族連れ、カップル。子供が歓声を上げながら芝生の上を元気に駆け回る。
相模湖公園のゲームセンターにはレトロ感たっぷりの乗り物やゲーム機がいくつも並んでいた。さらに趣のある土産屋や食堂が並ぶ一角には、いまではほとんど見かけなくなったスマートボール場や射的場。さらにその奥には、小学生の頃、デパートの屋上でよく遊んだピンボールやドライブゲームがあった。こんなところで懐かしい存在に会えるとは…… 僕はあの旅の続きを見ているような、不思議な気分になった。


