eバイク旅ノート Vol.06 eバイクで峠を越えた2日間224km

eバイク旅ノート Vol.06 eバイクで峠を越えた2日間224km

箱根湯元から芦ノ湖へ至る箱根の旧街道。モーターサイクルで何度も走っているが、自転車は初めて。急勾配、急カーブが連続する道で路面も荒れ気味。自転車で快適に走れる道とは言えないが、往時の面影が残っていたり、交通量が少なかったり、違う魅力はいっぱいある。そんな理由からeバイクで箱根へ行くとしたら、このルートと最初から決めていた。

前回:箱根湯本までのレポートはこちら

三枚橋を渡ってしばらくは、狭い坂道に沿って民家、アパート、商店などの建物が並ぶ、せわしない道が続く。さらに進んで行くと徐々に「旅館」や「民宿」「温泉」など箱根湯本らしい文字が目立つようになる。寄せ木細工の里、畑宿を過ぎると建物は途切れ、見えるのは山と森だけになった。急カーブも多くなり、ようやく峠道らしくなってきた。延々と続く上り坂、電動アシストがあるとはいえ、こぎ続けていると息が上がる。時々足を止めて息を整える。YPJ-ERのバッテリー残量はまだ65%もあるので、節電はせず、HIGHモードでグイグイ進んでいく。

eバイク旅ノート Vol.06
つづら折れが続く箱根の旧街道。急勾配の上り坂、焦らずゆっくり進んでいく。ふと足を止めると崖の向こうに美しい景色が広がっていた
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往年の面影を残す石畳などがあちこちに残っている。eバイクでも昔の人たちが苦労した箱根越えの一端を少しだけ感じることができる

カーブをひとつひとつクリア。見晴茶屋、猿滑坂、追込坂、甘酒茶屋、お玉ヶ池…… 名所をいくつか越えるとようやく下り坂が見えてきた。やった、上り切ったぞ。そこから転がるように芦ノ湖へ向かった。

湖に浮かぶ海賊船、箱根神社の鳥居、その景色を見守りそびえる富士山。いつもの芦ノ湖を見ながら、深呼吸。気持ちいい風が頬をなでた。湖畔で10分ほど脚を休めると、すぐサドルにまたがる。今日は観光よりも走りが優先。体力的には余裕があるので、リズムよくペダルをこぐいでゆく。アップダウンをいくつか越えると、先で車が渋滞していた。車の横をすり抜けて行くと広大なススキ野原が広がっていた、仙石原だ。ススキの遊歩道をカップルや家族連れが楽しそうに歩いている。

本日二つ目の峠となる乙女トンネルを抜けると、宿泊地の御殿場までほとんど下り坂。予約していた御殿場市内のビジネスホテルの手前でトリップメーターは100km。ホテルに着いたときは109.5kmを記していた。僕の1日としては最長距離、峠越えをして100kmも走るのは初めて。宿に着いたときは身も心もボロボロになっているんじゃないかと思ったが、意外なほどピンピンしている。筋肉痛もほとんどない。これもYPJ-ERの電動アシストのおかげ。明日も同じくらいの距離を走ることになるが、この調子なら行けるだろう。

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芦ノ湖では海賊船と箱根神社、富士山のコラボレーションを眺めることができた。日曜日だったので観光客が多く、一部渋滞が起きていた
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YPJ-ERの充電器を持参、宿泊したビジネスホテルでバッテリーを充電、翌日に備えた。親切なホテルでeバイクを部屋で保管していいと言ってくれた

朝7時半。御殿場のホテルを出る。約7時間は寝ているので体力はバッチリ。国道246号を東へ向かう。幹線道はトラックが多いので気を使う。小山から国道を離れ、脇道に入ると車は激減、ホッと一息つく。しばらくは民家が点在する田舎道、さらに進むと木々に囲まれた山道へと変わっていく。

ホテルを出てから2時間、上り坂がずっと続いている。昨晩ホテルでバッテリーを満充電しているので、バッテリー切れの心配はないが、体の方は少しきつくなってきた。最も強いアシストが得られるHIGHモードでもときどき息が苦しくなる。時々バイクを止めて息を整える。ギヤもこれまでフロントインナーを使ったことがなかったが、初めてインナーに落とした。標識を見ると11%の勾配と記されていた。

路肩に立つ小さな道標を見ると、三国峠まで1.5km。明神峠から1.5kmとなっている。いつの間にやら明神峠を通過していたようだ。さらに10分ほど走り続けると、前方に大きな駐車場が見えてきた。やった、三国峠だ(標高1168m)。

三国峠は登山道の拠点地。ハイカーの車がたくさん停まっていた。ここから山中湖までは下り坂。しばらく進むとススキ草原、その向こうに広がる山中湖と富士山が目に飛び込んできた。これぞ絶景。苦労をして峠を越えてきただけに、その景色は特別輝いて見えた。

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2日目の朝、御殿場の田舎道を走っていると視界がパッと開け、視界に富士山が飛び込んできた。YPJ-ERと富士山と一緒に記念写真。いい日になりそう
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明神峠と三国峠の間にある県境の標識でひと休み。ここから1.5kmにある三国峠までの間が神奈川県で、最も西部のエリアということになる
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山中湖と富士山が一望できるパノラマ台。絶景が見えることからたくさんのハイカーが訪れる。僕も好きな場所だがeバイクで来たのは初めて

山中湖の近くでランチと思い国道413号を走っていくが、いい店が見つかず、結局国道138号と合流する朝日丘まで来てしまった。そこでPICA山中湖なる施設を見つけた。緑に囲まれたガーデンの中にレストラン、バーベキュー場、ハンモックカフェ、コテージなどがあるアウトドア施設らしい。eバイクを押してレストランへ向かうと、中庭にウッドデッキのテラス席が見えた。テーブルから見える場所にバイクラック。ガーデンとYPJ-ERを眺めながら食事ができるのか。いい店を見つけたぞ。山梨県産の信玄鶏を使ったランチセットを注文。外で食べるごはんがまずいわけがない。おいしいランチを心ゆくまで堪能した。

山中湖湖畔の公園、裏路地やお寺など寄り道をしながら、少しずつ山伏峠へ向かってゆく。グランドが点在する合宿スポーツ村を抜けると本格的な上り坂が始まる。YPJ-ERのバッテリー残量は半分まで減っているが、昨日は余裕で100km以上走れたんだ、今日も大丈夫だろう。楽観的に考え、HIGHモードを使ってグイグイ上っていく。ときどきメーターを確認、残り40%を切ったところで、ようやく山伏峠のトンネルが見えてきた。

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PICA山中湖でランチタイム。開放的なウッドデッキのテラス席があり、サイクルラックに置いた愛車を眺めながら、お茶や食事ができる
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ランチをした「PICA山中湖」。PICAリゾートは富士山周辺を中心に展開する複合リゾート施設。八ヶ岳明野 や秩父、初島、さがみ湖などにもある
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ひたすらペダルをこぎ、距離を稼ぐだけの旅はしたくない。eバイクを降りて枯草を踏みしめると、乾いた音 と一緒に枯葉の匂いがした

トンネルを抜けると下り坂。風を切りさき、飛ぶようにeバイクが進む。流れる景色を感じながら、ブレーキレバーをしっかり握り、オーバースピードにならないようにコントロールする。傾斜が緩やかになり、スピードが落ちてくると、張り詰めた緊張感から徐々に解放されていく。しばらくすると道の駅の標識が目に飛び込んできた。

「道の駅どうし」は首都圏に住むライダーやサイクリストたち憩いの場。週末に限らず多くの人が集まってくる。今日は月曜日だが20台以上のモーターサイクルがいる。残念ながら自転車は1台もいないようだ。ベンチに腰掛けひと休み。ここから自宅まで約50km。いま14時半なので18時には帰宅できるだろう。

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道の駅どうしで休憩。午後になり少しずつ冷え込んできたので、はちみつレモンのホットを飲んで体を温める。相模原の自宅まで残り50km

相模原から山中湖を結ぶ道志みちは、東京オリンピックの自転車ロードレース競技コースになっている。現時点で新型コロナウイルスの影響で開催されるかわからないが、走っている気分だけオリンピアンになってみる。妄想は自由だからね~(笑)

道志みちは山に囲まれた2車線道に沿って民家が並ぶローカルルート。この道を自転車で走るのは高校生以来。あの頃の僕はこの景色をどんなふうに見ていたんだろう? 無知だった少年時代の自分を回想した。

高低差を脚で感じながら進んでいく。ほとんど下りだと思っていたが大間違い、意外と上り坂も多い。おかげで予想よりバッテリーの減りが早く、100kmを超える前に残量が9%になってしまった。これはもしかして、自宅まで持たないかもしれない。突然不安になる。

家まで残り7km。きつい上り坂は2か所だけ。平地は節約をしてECOモード、坂はSTDとHIGHモードを使って上っていく。「頼む、何とか最後まで持ってくれ~」祈りながらペダルをこぐ。「でもこれってeバイクじゃないと味わえない、スリルだよなぁ~」。同時にそんなことも考えた。

バッテリー残量0%

自宅まで残り200mのところでバッテリーはついに力尽きた。しかし体力的にはまだまだ余裕、重くなったペダルをものともせず、自宅にゴールした。本日の走行距離114.7km。eバイクで走った1日最長距離となった。いまあるのは2日間で224kmも走った充実感と満足感、そして心地よい疲労感。そのとき僕はeバイクの旅が持っている、無限の可能性を感じていた。

eバイク旅ノート Vol.06
自宅まであと200mのところでバッテリーは0%になった。ペダルは重くなったけど、最後まで予定どおり走り切ったので、気分は最高

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