電動アシスト自転車のパイオニアにして、現在もeバイク市場の一翼を担う、ヤマハ発動機。同社が新たに発表したeバイクが、フラッグシップとしてオフロードの走行性能を「ヤマハらしく」追求したeMTB、「YPJ-MT Pro(プロ)」だ。10月13日(火)に横浜で行われた試乗会から、ライダーのインプレッションとともに紹介しよう。
これぞ、ヤマハ“らしい”eバイクだ!
27年前にヤマハ発動機(以下、ヤマハ)が世界で初めて市販化した電動アシスト付き自転車は、その後さまざまな用途に広がり、そのなかでもスポーツライドに特化した「eバイク」は、現在世界中の市場でますます勢いを増している。
そんなヤマハはeバイク部門においても、「YPJシリーズ」としてロードバイクタイプやツーリングタイプなど幅広いカテゴリのeバイクをリリースしつつ、eバイクの構成パーツであるドライブユニットのサプライヤーとしても、北米市場を中心に世界中でシェアを持つ。
そうしてeバイクが世界各地に浸透していくにつれて、eバイクを使用したレースや、よりハイパフォーマンス志向のユーザーが増加。それに応えるために、ヤマハはプロスペックモデルのコンセプトモデル「YPJ-YZ」を2019年の東京モーターショーで発表した。そのモデルをパーツ変更などの上で市販化したのが、今回の「YPJ-MTプロ」なのである。
その最大の特徴が、「ヤマハ デュアルツインフレーム」と名付けられた、二箇所を双胴にした構造のアルミ製メインフレームを採用したという点だ。
オフロード走行における小刻みにアップダウンする地形や、あらゆる路面状況でも快適に走るための機構である、前後サスペンションを設けるにあたっては、フレーム側のサスペンションの位置が重要になってくる。
ライダーのペダルを踏む力を逃がすこと無く、かつ車体に組み込まれるドライブユニットやバッテリーの重量をストレスに感じさせず。そんな位置にリアサスペンションを組み込むためとして、バイクの上側のパイプであるトップチューブを二股に分け、その中央部分にサスペンションが入るように配置。
また、下側のパイプであるダウンチューブも双胴とし、これまで多くのeバイクではフレームに内蔵・一体化してきたバッテリーを、二本のパイプの間に挟み込んだ。これによってバッテリー位置の最適化とフレームの剛性の確保を両立させ、eバイクならではのバッテリー配置の問題に解を出したのである。
また、eバイクの性能を大きく左右するドライブユニットは、こちらもヤマハ製の最新ユニット「PW-X2」を採用している。
従来のハイエンドモデルだった「PW-X」から、高い反応性や出力を向上させ、それでいてライダーのペダリングに合わせよりスムーズかつパワフルなアシストとなった。
そしてアシストモードには、エコからハイモードに加えて新たに「EXPW(エクストラパワーモード)」を搭載。ドライブユニットが、走っている地形にあわせて自動で出力を調整し、より効率の良いモーター駆動やアシストフィールを提供してくれるというのが、この新たなアシストモードだ。
これを実現したのは、「傾斜角センサー」をドライブユニットに追加したことによる。これまでは加速度、ケイデンス、トルクの3つのセンサーで、ライダーの踏む力をセンシングしていたが、新たにバイク自体が地形を読み取ることで、平坦では抑え気味に、急な上りでは高出力にと、その都度最適なアシスト制御を行ってくれるものとなる。
これまでヤマハはMTBモデルのeバイクとして、「YPJ-XC」をリリースしてきた。XCは、オフロードの走行性能を突き詰めつつも、街乗りでの使いやすさも加味したモデルとして、より一般ユーザーにも扱いやすいバイクとして定評があった。
そのうえで今回の「YPJ-MT プロ」は、完全にオフロードでの走行性能、そして「走る楽しさ」を追求し、設計されたモデルである。
現在市販されているeバイクにおいては、「eバイク」の最終的な完成形に、「人力スポーツバイク」のハイスペックバイクを目指したもの、というのが多かった。しかしこのYPJ-MTプロは、「eバイク、そしてeMTBとして」最も最適化された、新しい乗り物の完成形を目指して開発、市販化されるモデルとなる。
eバイクという価値が、スポーツサイクルからも、あるいはモーターサイクルからも独立したeバイクそのものとして認知される。このYPJ-MT プロは、そんな期待を改めて持たせうる、ヤマハの新たな乗り物なのである。
インプレッション「飛ぶように上り、意のままに下る。」
今回試乗を行った横浜の「トレイルアドベンチャー」は、タイトなコーナーに小刻みなアップダウン、そして滑らかな土の路面の上り下りなど、MTB走行の際に地形の変化を感じさせるようなコース設定。そこでこのMTプロでアシストモードを「EXPW」にして走り出すと、その軽々としたバイクの挙動に驚かされる。
上りでの急勾配や急コーナーでは、自分のペダリングする脚が路面に吸い付くようにアシストパワーを伝えてくれるので、もっともっと踏んで攻めたい、そんな気分を盛り上げるようにアシストしてくれる。
そして下りではフルサスペンションバイクとしてのダウンヒル性能を最大限発揮するが、それはバイク側に挙動を任せっきりにするようなサスペンションの動きではなく、ライダーの身体の動きに合わせて身軽に下らせるような印象だ。
また、これまでのドライブユニット「PW-X」では、パワフルなアシストとともにギア感のあるノイズが、ある意味でeバイクならではの味となっていた。だが新型である「PW-X2」ドライブユニットになると、そのモーター音がほぼ皆無となり、それは大自然で自転車で走っているという一体感をより増してくれることとなる。
ハイドロフォーミングで成型された流麗なフレームに塗装された、ブルーのヤマハレーシングカラー。そしてその双胴フレームの隙間からチラ見えするサスペンションやバッテリー、ドライブユニットなどの機構という視覚的コントラストが、メカ好きの“男の子ゴコロ”を非常にくすぐってくれる。それはeバイクという、ライダーが乗り物を操って遊ぶという体験においては、非常に重要なポイントであると言えるだろう。
スペック
ヤマハ・YPJ-MTプロ
完成車価格/60万円(税抜)
サイズ/S、M、L
重量/24.1kg(サイズM)
バッテリー走行距離(アシストモード)/74km(EXPW)、79km(HIGH)、96km(STD)、133km(ECO)、197km(+ECO)、87km(Automatic Support)
メインコンポーネント/シマノ・デオーレXT
ドライブユニット/ヤマハ・PW-X2
前後タイヤサイズ/27.5×2.8
バッテリー/リチウムイオンバッテリー(26V、13.1Ah、3.5時間・充電時間)
カラー/ポディウムブルー×ニッケル