旅行家・藤原かんいちが30日間で果たしたeバイク(YAMAHA WABASH RT/ヤマハ・ワバッシュRT)による佐多岬→宗谷岬、日本縦断3700キロチャレンジ旅。今回は第6回目のリアルレポートです。

19日間で走った距離は2278m。1日約120km走っている計算になるので、このペースが維持できれば30日間で達成できることになる。出発前は正直なところできる可能性は20%くらい? と思っていたが、このペースで走れたことは大きな自信になっていて、体力的に考えても、大きなトラブルや怪我がなければ、行けるような気がしている。ただ、僕は調子に乗って失敗するタイプなので、過信は禁物だ(笑)
20日目。朝6時半。群馬県沼田の健康ランドをヨッシーと共に出発する。今日走るのはステージ12の『金精峠&いろは坂』。ちなみに金精峠は国道の中で3番目に高い峠で標高1840m。1位は昨日走った渋峠。2位の麦草峠(標高2127m)は去年10月に走っているので、金精峠を越えれば国道ベスト3を全て越えたことになる。
原付スクーターのヨッシーとeバイクは走るスピードが違うため、途中から先に行ってもらう。SNSで繋がっているので、スマホで適当に連絡を取り合い、またどこかで合流すればいい。国道120号を東へ走る。今日は朝から快晴、いい写真が撮れそうだ。
約30km走り、国道沿い片品村にある『道の駅尾瀬かたしな』に到着。ここでふたりと合流する。ヨッシーがコーヒーセットを携帯、挽きたてのコーヒーをご馳走してくれるという。今日は休日で道の駅は人がいっぱいなので、少し離れた場所にある静かなベンチへ移動した。
手動でガリガリと豆を挽き、コーヒーにお湯を落とす。コーヒーのいい香りがしてきた。飲んでみるとこれがおいしい。青空の下で飲んでいるからだろうか、それともヨッシーの豆の挽き方がうまいのか? わからないけどおいしい。これまでは走ることが最優先で、こんな風にコーヒーを味わう時間もなかった。これもヨッシーのお陰だ。
道は徐々に山道になり、坂の勾配もきつくなってくる。しかし、2日連続の峠越えにも関わらず、体が慣れてきたのか、いいペースで進んでいる。丸沼高原でバッテリー残量が0になったので、2本目と交換する。ここから金精トンネルまで残り10km。気持ちもリセットしてペダルをこぐ。しばらくすると峠の金精トンネルが見えてきた、長い暗闇を抜けると光が差し、先行していた平塚カメラマンとヨッシーの姿が見えた。やった、金精峠に着いたぞっ! ふたりと喜びを共有する。
そのあとは雄大な景色と爽快なダウンヒルが待っていた。気持ちよくバイクを走らせると、奥日光の湯元にあっという間に到着した。ヨッシーとはここでお別れ。楽しい2日間をありがとう。またどこかで会おう! 戦場ヶ原を越えて、中禅寺湖を通り、いろは坂と進んでゆく。ほとんどずっと下り坂なので自然とハイペースになっていた。
杉の巨木が立ち並ぶ『日光杉並木街道』を通り、今市から国道461号へ。メインルートの国道4号にぶつかると、ハンドルと北へ向ける。今日の宿は那須塩原市内にある『トレインイン那須塩原』。トレーラーを使ったホテルで、チェックインはタブレットに名前を記入するだけ。手続きが終わるとカードキーが自動発行されるシステムになっている。基本的に無人。部屋に自転車も置けるので便利だった。



21日目。今日からしばらく国道4号線北上の旅となる。特に見どころもないので、ひたすらペダルをこぐ。黒磯、白河と進んでゆく。白河と言えばラーメンが有名。国道沿いに“手打ちラーメン”と書かれたのぼりを発見。『一休』という店に入った。運ばれてきた醤油ラーメンはまさに王道という感じ。コシのある手打ち麵、あっさりした醤油スープ。まさに僕好みのラーメンだった。チャーシューも大きく、噛むほどにうまみが出てくる。何の情報もなくふらっと立ち寄ったお店だが、大正解だった。
再び国道4号を走っていると、前方に荷物満載の自転車が見えた。追いつくと後ろの荷物に“日本一周”と書いた看板が掲げられていた。久しぶりに旅人と会えたので、話したいが路肩が狭く、自転車を停められそうな場所がない。タイミング悪く信号につかまると、その自転車はどんどん小さくなり見えなくなってしまった。
それから1時間後。陸橋の下で休憩している旅人自転車を発見、声をかけた。20代の男性は「ちゃん」という愛称で、兵庫県をスタートして今日で66日目だという。二人組なのだが今は別行動中、将来は塾を経営したいと思っているとか、いろんな話をしてくれた。するとそこに自転車がもう一台現れた。なんと彼も日本一周中だというではないか。びっくり、こんな偶然ってある? 九州出身の「かんた」くんは大学を休学して日本一周中、北海道を目指しているという。路肩に自転車を3台停めておしゃべり。忘れられない嬉しい出会いとなった。
金沢を出てからずっとハイペースで進んでいたので、今日は体を休めようと思い、7時前に郡山市のビジネスホテルに入った。たまっていた原稿を書いたり、洗濯をしたりしていると、あっという間に深夜になっていた。一日が早い。気になるのは天気予報、どうやら明日から2、3日雨が続くらしい。




22日目。朝、窓の外を見ると地面が濡れていた。くそーやっぱり雨か。当初の予定では13ステージ『磐梯吾妻スカイライン』を走る予定だったが、この雨の中で山道走行は危険だし、写真も撮れないので中止にする。代わりに青森の『十和田湖&奥入瀬渓谷』を新たに加えることにした。
上下レインウエアを着こんで出発する。悩んだのは足元。長靴を履くわけにはいかないし、シューズだと完全に濡れてしまう。そこで最初から濡れることを想定して、サンダル履きで行くことにした。
走り出すと震えるほど寒い。これまでは半袖でも暑かったのに今日の気温は11℃。トレーナーなど服を4枚重ねても震えるほど寒い。おかげであっという間に体が冷えて、トイレに行きたくなってきた。しかし国道沿いに公衆トイレはなく、コンビニのトイレも全身ずぶ濡れでは借りにくい。これは困った。
トイレを我慢しながらペダルを踏み続けるが、それにも限界がある。どこかいい場所はないか? 目をさらにしながら走っていると、ドラックストアが目に留まった。んっ、もしかして?? と思い行ってみると大正解。店ドアの手前にトイレがあるため、店内を汚すことなくトイレを使うことができるのだ。これはラッキー。何も買えないのは申し訳ないが、イザというときはドラックストアへ入ることにしよう。
それからも雨と寒さとの闘いが続く。そんな中で唯一、休息できる場所が道の駅だった。『道の駅・安達』で昼ごはん、『道の駅・国見あつかしの郷』の大きな屋根の下で雨宿り、ホットコーヒーを飲み体調を整えた。
疲れが出たのか距離が延びず。仙台の南、名取市辺りまで行きたかったが、ペースが上がらず。かなり手前の白石市に宿を取ることにした。白石蔵王駅前にあるべネシアンホテルを予約。受付で心配な自転車の保管場所を相談すると、室内の事務所へ置かせてくれることになった。さらに濡れた荷物や自転車を拭くタオルまで貸してくれたり、心遣いに胸が温かくなった。

23日目。睡眠時間をいつもより長く取ったので、元気が回復した。出発も9時半と、いつもより2時間くらい遅く走り始めた。国道4号を走っていると自転車で日本一周をしているTKくんから「いま仙台にいるので会いませんか?」と嬉しいDMが入った。仙台郊外の県道10号で待ち合わせ。東京で会って以来、3年ぶりの再会となった。
大阪出身のTKくんは20代。数年前に椎間板ヘルニアで歩けなくなり手術、いくつかの経験を経て、悔いのない生き方をしたいと思い日本一周の旅に出た。3年ぶりに会ったTKくんは別人のように逞しくなっていた。旅が彼の器を大きくしたのだろう。そんな彼と旅人同士で会えたことがとても嬉しかった。
久しぶりの観光スポット『松島』に着いたときには、午後4時過ぎていた。260余りの島が点在する松島湾の風景は、日本三景のひとつにもなっている。風光明媚なところで、遊覧船でめぐるのがベストなのだが、すでにいい時間なので、遠くから眺めるだけで先を急いだ。
6時半、石巻市の宿『ビジネス旅館ダック』に到着。玄関ドアを開けると、室内の壁中に貼られた観光ポスターが目に飛び込んでくる。受付をしてくれた女将さんも明るく朗らかで、自然と話が弾んだ。後から現れた旦那さんはバイク好きということでさらに盛り上がる。着いたばかりなのにお気に入りの宿になってしまった。部屋は畳敷きに布団の和室。荷物を降ろし、畳にゴロンと横になる。「今日もいい日だったなぁ」心からそう思った。



■ここまで(23日間)の総走行距離:3124km
■今回の走行ルート