【ホンダ・スマチャリ編】eバイクこの1台 自分にとって、いちばんのeバイクを選ぼう

世界中で人気が上がってきているeバイクは、毎年、ニューモデルが登場するなど勢いあるジャンルだ。最近は日本の街中でもよく見かけるようになってきたので、今後はもっと増えていくだろう。ただ、そうはいってもまだeバイクの歴史は浅く、「どんなeバイクがあるか?」「eバイクでどんなことがやれるのか?」などなど、eバイクに乗りたい人に対して、選んでもらうための情報が伝え切れていない状態だ。そこでここでは、いま存在を知っておくべきeバイクをピックアップして、それぞれのスタイルから特徴まで詳しく紹介していく。今回取り上げるのはホンダ・スマチャリだ。

スマチャリ

思いとこだわりと技術を詰め込んで
Hondaが提供したい価値とは

Hondaが提供するサービスがSmaChari(スマチャリ)。これは様々な自転車をeバイク化、コネクテッド化するものだが、なぜHondaが自転車向けサービスを提供するのか、そこが知りたい。

スマチャリ
様々なタイプの自転車を電動アシスト化できるSmaChariという新たなサービスは、eバイク界にとって重要な存在になるはず

ホンダは誰もが知る自動車メーカーだ。そしてホンダの乗り物は、ユーザーのライフスタイルにフィットするユニークな要素を持っているものが多い。ゆえにホンダ車は、どんなユーザーにも使い勝手のいい「乗り手にシックリくる」存在だ。

そんなことから思うのは、ホンダでは「もの作りを通じて、ユーザーに何を提供できるのか?」を第一に考えているのではないかということ。

さて、ホンダが作った「SmaChari」だが、これはeバイクの名前ではない。

詳しいことは以下で取り上げるので、まずはSmaChariとは何かを簡単に紹介していこう。

SmaChariはホンダが電動アシスト自転車(eバイク)用に開発したソフトウェアサービスで、主な機能は自転車用の電動アシストユニットから出力されるアシストの力を、道路法規に合った適切な制御に調整すること。

これにより汎用電動アシストユニットと組み合わせた様々な自転車を、合法なeバイクにすることができるというものだ。

また、SmaChariのスマートフォンアプリは、速度などの走行状態やバッテリー残量の表示から、コネクテッド機能を活用した走行データの管理、登録した相手との位置情報、所有者情報、故障の検知などの機能、情報も利用できるなど、充実した機能を持っているのも特徴だ。

Y’s Road RAIL DISC-e
通学、通勤、趣味とマルチで使えてお手頃価格で買える高機能eバイク

ここではSmaChariで制御するeバイク「ワイズロード レイルディスクe」を紹介。本格eクロスバイクながら約22万円という価格設定は、大いに魅力的だ。

レイルディスクe

全国展開するスポーツ自転車販売店のワイズロードから販売されている、SmaChari採用のeバイクが「RAIL DISC-e(以下レイルディスクe)」だ。

ベースは日本の自転車メーカーである「ホダカ」のブランド「コーダーブルーム」から販売されるレイルディスク。品質の良さとデザインの良さを両立しつつ、手頃な価格であることが特徴だ。趣味の自転車としてだけでなく、通勤や通学用としても人気モデルとなっている。

レイルロゴ

そんなレイルディスクに、ワイズロードは独自にドライブユニットとバッテリーを装着してeバイク化したのだが、日本にはアシスト比率についての法規があり、そこに合う特性に仕上げないと販売ができない。

そのため市販されるeバイクでは、個別の車種ごとに法規適合する制御プログラムが使用されるのだが、専用の制御プログラムを作っていくことは時間も手間もコストも掛かることだった。

それに対してSmaChariは、組み合わせる自転車のギヤ比と速度を常に監視することで、様々な自転車を法規に合った最適なアシスト比にすることを実現。また、自転車の楽しさを体験できるよう、「乗り味」にもこだわったアシスト特性に仕上げている。

こうした特徴を持つSmaChariは「eバイクを作りたい」というメーカーや販売店に対し、参入しやすい環境を作り出した。そして、その実例がレイルディスクeだ。

Point

◎SmaChari制御&アプリでeバイク化
◎車体は国内ブランドのコーダーブルーム
◎車両重量が約16kgとeバイクでも軽量
◎ブレーキは扱いやすく効きのいいディスク

Spec

価格●21万8900円(ワイズロードオンラインサイト価格)
フレーム●EAST-Lアルミトリプルバテッド
フォーク●アルミ1-1/8インチ
コンポーネント●シマノ・アルタス 8S
ブレーキ●シマノ・BL-MT200/BR-MT200油圧ディスク
ペダル●フラットペダル
バッテリー●リチウムイオンバッテリー 24V 10Ah
ドライブユニット●250Wh
フレームサイズ●400(155~170cm前後)、440(165~180cm前後)、480(170~190cm前後)
フレームカラー●マットブラック、マットダークブルー、マットダークグリーン、マットソリッドグレー
注●スマートフォンホルダーは別売

Detail

ドライブユニット
ドライブユニットの出力は250Wに設定。レイルディスクはフロントギヤが2枚だが、レイルディスクeはモーター付きなのでシングルになっている
スマホ
スマートフォンは付属しない。OSはiPhoneではiOS16.0に対応。Android端末はAndroid12に対応。スマホホルダーも別売だ
バッテリー
ボトルケージ台座にバッテリーを装備。できる限り低い位置にセット。バッテリー、ドライブユニットを装備した状態で車重は16kgと軽量
バッテリーのキー
バッテリーはキーにて取り外せるので、部屋で充電ができる。また、長時間の駐輪をするときにバッテリーを外しておくことは盗難予防にもなる
油圧ディスクブレーキ
効きの良さとレバータッチのいい油圧ディスクブレーキを採用。雨の日でもブレーキが効き、コントロールもしやすいので毎日の稼動にも対応する
キックスタンド
キックスタンドは標準装備。スポーツ自転車はスタンドが付いていないこともあるが、使い勝手の面で言えばキックスタンドは絶対あった方がいい
リヤディレーラー
ギヤの変速は8段あるが、多少の坂道でもシフトチェンジをせずに走り抜けてくれるはず。とはいえサイクリングもこなすバイクなので多段ギヤは必要
サドル
長時間乗っていてもお尻が痛くなりにくいクッション性のあるサドルを装備。形状も臀部の血流が悪くならないよう、センターに穴が開いている
台座
フレームにはキャリヤやフェンダーの取り付けができる台座があるので、用途に合わせた仕様変更にも対応。趣味のために乗っても不満はないeバイクだ
タイヤ
タイヤサイズは700×32Cを装着していて走りは軽快。ルックスもスマートだ。スポーク、リム共にブラックカラーなのでさらに締まって見える

スマホがディスプレイになる。SmaChariアプリの主な機能

アプリのメイン画面
SmaChariアプリのメイン画面。アプリにログインするとブルートゥース接続で自転車とリンクしてアシストの電源が入るというもの
 
危険なエリアを表示
周辺の危険なエリアを表示。ホンダのクルマの通信ナビからの急ブレーキが多い場所の情報を元にしたもの。これはスマチャリならではの機能
マップ表示
マップ表示。自車位置の表示だけでなく速度や走行距離、消費カロリーも表示。また、フレンド登録した相手が近くにいたらその位置も表示する
走行ログ
走行ログが記録できる。負荷が高くなり過ぎないeバイクは、運動不足解消やダイエットに適しているので、日々の成果が見られる機能は便利

開発者に聞く─SmaChariとは
「様々な自転車に搭載が可能で心地良いアシスト特性を目指した」

服部 真さんと大貫博崇さん
本田技研工業株式会社
コーポレート事業開発統括部 ソリューションデザインドメインアシスタントチーフエンジニア
服部 真さん(左) 大貫博崇さん(右)
レイルST-e
より買いやすいスマチャリ採用モデルとして新たに設定された「RAIL ST-e」。軽量フレーム仕様ながら価格は19万8000円

SmaChariは様々な自転車に後付けすることで、その自転車を電動化することが可能なもの。

そのため幅広いユーザーが乗ることを意識して開発されている。つまり自転車に乗り慣れていない人が乗る場合であっても、安心できる特性が求められるのだ。

加えてSmaChariの開発では、電動アシストの便利さをホンダが考える適正な価格で提供することもプランに入っていた。そのため開発にコストを掛け過ぎることなく、良いものにするという使命も持っていたのだった。

こうした話を聞くと「仕上げはほどほど、値段なりのもの」になるというイメージも湧くが、SmaChariを開発したのはホンダのエンジニアだ。それだけに「この価格帯だからこんなものか」と思われることはプライドが許さなかった。

そこで適正な価格帯であっても、心地良いアシスト特性を作り上げようと奮起したのだ。

アシスト特性の開発を担当した服部さんは、ロードバイクでの長距離ライドを趣味とする人なので、スポーツバイクの乗り味(こぎ味)に関してはよく分かっている。

そのため進むべき方向は見えるのだが、自分自身に適した特性が、他の人の感じ方と必ずしも一致しないことも理解していた。

そこでまずは自分がいいと思う特性作りから始めたが、そのために走った距離は何と2000kmにも及んだ。

そうして作ったデータを、今度はプロジェクトのメンバーに乗ってもらい意見を求めたのだが、そこでは当初、厳しい意見もあったそうだ。

でも、その意見をしっかり吸収しつつその都度修正していき、最終的に誰が乗っても満足してもらえるレベルまでアシスト特性の味つけを突き詰めたのだ。

服部さん
エンジニアの服部さん。SmaChariの制御は自転車が趣味の人が乗っても満足でき、普通の人でも安心して乗れるものになったという

でも、そこまでやってもSmaChariの開発研究は完了とはならない。市場に出ればより多くの人が乗るので、もっともっと突き詰める必要があったのだ。

そのための項目はいくつかあるが、例えばペダリング。

eバイクのアシストは乗り手がペダルを踏む力や速度を元に決めるのSmaChariが持つこだわりの機能だが、実は左右のペダルを均等の力で安定して回すことは難しく、トレーニングをしていない限りていねいにペダリングをしたつもりでも、左右の踏みこみの力やテンポにはムラが出やすい。

そのため結果をそのまま制御すると、アシスト特性が不自然なものになることもあるのだ。

そこでSmaChariでは乗り手なりのペダリングで自然で心地良いと感じるフィーリングを追求。

開発時の特性に出力のムラがあったところは、「ならす」制御を入れることで目標を達成している。

このようにアシストの強さのことだけでなく、細部にわたってこだわりの作り込みがされるSmaChariのアシスト制御ではあるが、こうした特性に仕上げるには机上の計算では無理なので、当初の研究に加え、様々な市場調査、実地でのテストを重ねて行ってきた。

その結果、誰が乗っても最適なアシストが得られるモードとして「AIモード」が設定された。このモードは本当に優れていて、ほとんどの場合、AIモード固定でSmaChariのアシスト特性が持っている「いいところ」を使い切れるというレベルのものだ。

さて、これまでの話でもSmaChariに大いに興味が湧くと思うが、そこはホンダのエンジニアだ。AIモードの完成度が高いだけでは満足しなかった。

そこで設定されたのが「パワー」と「レスポンス」をそれぞれ4段階で調整できる機能である。

パワーとはそのままアシスト力のことで、レベルを下げるとアシストの力は弱い設定になる。そしてレベルを上げれば、法定の値内で一番強いアシストをする。

このように非常に作り込まれたアシスト特性を持つSmaChariだが、開発チーム内ではさらに進化したアシスト特性を提供するためのアップデートの議論がされていた。それはつまり、SmaChariを採用するeバイクに乗っていれば、最先端で高度なアシスト特性を継続的に体験できるということだ。

というようにSmaChariは、eバイクの市場を大きく変える力を持つ存在だけに、SmaChariのこれからには大いに期待したいと思う。それにしてもやっぱりホンダは面白いものを「提供」してくれるメーカーだ。

大貫さん
自転車通学の学生の、負担を減らしたい気持ちから始まった事業。結果として誰がどの車両に乗っても自分好みであり、安心して乗れるものになったという

SmaChariが持つこだわりの機能

アシスト設定画面
アシスト設定画面。AIモードで乗るか、AIをオフにして任意の特性で乗るかが選択できる。パワー、アシストはそれぞれ4段階で設定できる
カレンダー
eバイクに乗った日が記録でき、月間の走行距離や消費カロリーも表示できる。走行ログは自転車マークをタップすると詳細データが見られる
フレンド登録
SmaChariアプリのフレンド登録という機能を使うと、登録した相手の車両位置がマップ上に表示され、お互いの位置を知ることができる

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