この温度感が、今日の私のビワイチ。守山から近江八幡へ、eバイク日帰りサイクリング

サイクリストが一度は目指す地——琵琶湖。総距離193kmのビワイチは、「一度は走破してみたい」と、全国のみならず世界中から自転車乗りが集まる。今回は多くのサイクリストがスタート地点とする滋賀県・守山市から映画のロケ地としても有名な近江八幡を目指す。合い言葉はストイック禁止! とある週末、女性ふたりで行ってきま〜す。
この温度感が、今日の私のビワイチ。守山から近江八幡へ、eバイク日帰りサイクリング

昨年11月に国が認定した最初のナショナルサイクルルートに「しまなみ海道」「つくば霞ヶ浦りんりんロード」とともに選ばれた「ビワイチ」のルート上には、風光明媚な湖畔道はもちろん、城跡や城下町、ふなずし、サバなどグルメも目白押しだ。

また、琵琶湖大橋より北側の琵琶湖北湖を一周する通称「キタイチ」は、一周160kmという距離がロングライドの世界標準となる100マイル、いわゆる「センチュリーライド」にあたり、水質や景観にも恵まれているため、特に県外や海外からのサイクリストにとっては、キタイチ=ビワイチとなっている。

近江八幡を巡る、日帰りサイクリングへ

「ひさしぶり!」
もしかするとこの旅は、そんな言葉から始まるのかもしれない。 滋賀県守山市を起点に織りなす今回の旅は、京都・大阪からはもちろん、東京からのアクセスもスムーズだ。
そのため例えば、それぞれ関西と関東に住まう友達同士が互いにアクセスしやすい旅先のひとつとして、「滋賀県守山市」が挙げられるかもしれない。だからこそ「ひさしぶり!」という言葉でふたりは再会し、旅が幕を開けるのだ。 今回の旅のテーマは「のんびりゆったりデトックス」。ぐるりと一周すれば総距離193㎞にも及ぶビワイチだが、今回はストイックなことは禁止!
服装は動きやすい普段着にスニーカー。自転車はeバイク(電動スポーツ自転車)をレンタルし、伝統的な景観を残す近江八幡を目指す。総距離は50㎞ほどでアップダウンもなし。道中には軽快な湖畔道、安土城跡、伝統グルメにスイーツと、立ち寄りスポットも盛りだくさんのルートなのだ。
旅をするのは、普段のんびりと自転車旅を楽しむ筆者(私)と、自転車初心者のゆりこさん。春を迎えたうららかな琵琶湖を巡る、日常と非日常の狭間の”とある休日”が始まった。 

バイクで湖畔をのんびり散策

朝、8時半。JR堅田駅で落ち合った私たちは、シャトルバスに乗り込み琵琶湖マリオットホテルへ。最初に向かうのは、ホテル1階に併設されている「ジャイアントストア びわ湖守山」。ここでeバイクを借り、サイクリングに出発しようという作戦だ。

左が筆者(私)、右がゆりこさん
左が筆者(私)、右がゆりこさん

「わあ、ホテル1階ですべて事足りるなんてむっちゃ便利!」と声を上げるゆりこさん。確かに宿泊・レンタサイクルがひとつの施設で完結すると、非常に楽ちんだ。さっそく、今回のテーマ「のんびりゆったり」を実現している。

店長の佐藤聖司さんにスポット情報を教えてもらう
店長の佐藤聖司さんにスポット情報を教えてもらう
準備万端、いってきます!
準備万端、いってきます!

とにもかくにも、週末の旅が始まった。ホテルの目の前にある「琵琶湖サイクリストの聖地碑」で記念撮影をして、とっておきの一日がスタートした。

みんなやるこのポーズ。かなり無理があるよ
みんなやるこのポーズ。かなり無理があるよ

「きゃあ、eバイクめっちゃ進むやん!すごいすごい」
と、前を走るゆりこさんから嬉しい悲鳴がする。最初こそ、普段あまり自転車に乗らないと不安げだった彼女も、eバイクに跨がれば一転。「体力に自信はないけれど、これなら大丈夫」と朗らかに話してくれた。よかった、ひと安心。

自転車道を示すブルーの矢印をたどって
自転車道を示すブルーの矢印をたどって

そして旅路に彩りを添えるのは、琵琶湖畔の風光明媚な景色。この日は雲一つない晴天で気温も20℃近くまで上昇し、スッキリと澄み渡った空気は湖畔の景色をいつも以上に美しく映し出していた。
それにしても琵琶湖の風景はどれだけ眺めても飽きない。伸びやかに広がる田園風景の向こうには、ぽこっと取って付けたような可愛らしい小山。そして大地と大空の間に佇む山々の雄大な稜線が伸びる。「平坦基調のサイクリングロードは飽きる」とサイクリストの間では言われがちだが、そのイメージを一網打尽にする魅力がビワイチにはあった。なるほど、こりゃあ1本取られたぞ。 

歴史が今なお息づく地をゆく

さて、八幡八万までの往路は湖畔沿いを道なりに進む。……と、ただ進むだけでもよいが、ここでパワースポットに立ち寄ってみよう。スタート地点と近江八幡の中間地点にほど近い場所に位置する「藤ヶ崎龍神」は、知る人ぞ知るマニアックなスポットで、ご利益があるとして地元の参拝客も絶えないのだとか。

半信半疑で向かったものの、そこには「確かにこれはパワースポットだ」と、頷いてしまう空間があった。湖畔に突き出す小さな半島には鳥居が建ち、聖域の入り口を示唆している。水平線の向こう見えるのは琵琶湖に浮かぶ沖島で、かつてここからの景色を描こうとした画家があまりの美しさに筆を捨てたという伝説が残るほど。唯一無二の静かな景色の中でしばしたたずみ、気をチャージ。先に進もう。

話は変わるが、滋賀県は「2年に1度は大河ドラマの舞台になる」と言われるほど、今なお歴史が息づく土地だ。明智光秀が主人公の今年の大河ドラマ「麒麟がくる」も例外ではない。次に向かうのは、織田信長の夢の城だった安土城跡だ。

織田信長の夢の城だった安土城跡

「立派な石垣ですねえ」とゆりこさんが言うように、今では石垣を残すのみとなっている。

というのも本能寺の変の後に天守閣は燃やされ、言葉の通り夢幻へと消えてしまったのだとか。ちなみに安土城は日本で初めて天守閣を持った城だったそうで、絢爛豪華な様相は城跡そばに建つ「安土城天主 信長の館」で詳しく見ることができる。今後の大河の展開で、必ず登場するであろう安土城。ここに戦乱の歴史あり、と自然と胸が高鳴ること間違いなし! 

近江八幡、可愛すぎ、食べ過ぎ注意報

安土城を跡にした私たちは、琵琶湖そばの西の湖を経由しながら今回の本丸である近江八幡へ。先ほどまでの自然溢れる田園風景とは打って変わり、人々の生活が根付く市街地に到着した。

 西の湖畔のよこ笛ロードを走る
西の湖畔のよこ笛ロードを走る

近江商人発祥の町のひとつ近江八幡は、国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定された町だ。一歩路地に踏み出せば、タイムスリップしたかのような町並みが広がる。豊臣秀次ゆかりの城下町として基盤を作り、その後は商業都市として発展を続けてきた近江八幡。今では映画のロケ地としても多くの作品に登場し、滋賀を代表する旅スポットとして有名なのだ。

「ええ、え〜!かわゆい、素敵!最高じゃないですかぁ」

絶賛するゆりこさんの勢いは止まらず、諸々のうんちく話を吹き飛ばしてしまうほど。いいのだ、可愛いこそ最高なのだ!格子戸や町屋、商屋……。どこを撮っても絵になる町の散策は、ぜひ自転車を降りて押し歩きを。タイムスリップしたかのような気分を味わえる。

ランチにはひょんな偶然で見つけた「食堂ヤポネシア」へ。町屋を改装したカフェで、表にある赤ポストとベンチが目印だ。店内に飛び込んでみると、店主の松岡宏行さんも自転車乗りだということがわかり、一気にムードも和やかに。

食堂ヤポネシアでは、店長が自ら選んだ地元のお野菜をふんだんに使ったランチセットが魅力。「ベジミックスフライ」や「サバのオーブン焼き 甘酢あんかけ」など、食欲そそるメニューが目白押しだ。

見るだけでも元気になるビタミンカラーのプレートランチに元気をもらい、さあ次の目的地へ……とはならないほど居心地のよい食堂ヤポネシア。レトロな内装はどこを見ても可愛らしい上に、店長の話は面白い。気付けば日が暮れてしまいそうなほどだ。

「サイクリスト向けにエアポンプと工具類を貸し出していますよ。ぜひ遊びに来てくださいね」と店長。食堂ヤポネシアがビワイチの拠点になる日も遠くはないかもしれない。

 店長の松岡宏行さん
店長の松岡宏行さん

でもデザートは別腹!次に向かったのは魅惑的なスイーツが目白押しの「ラ コリーナ近江八幡」。自転車専用のゲートをくぐれば、大きなキノコのような東屋に、芝屋根の大きな建物。まさにおとぎ話の世界が広がっていた。クラブハリエのバームクーヘンで知られるたねやグループのフラッグシップショップだが、お店というよりもアートな公園といった方がしっくりくるかもしれない。

ここにも飛び出し坊やが
ここにも飛び出し坊やが

ここでの名物スイーツは焼きたてバームクーヘンと、生どら焼き。どちらも大人気で大行列必至だ。他にもラ コリーナ限定のお土産も盛りだくさん。どれもパッケージが可愛くキャイのキャイの大騒ぎしてしまった。

「自転車だから食べてもたぶん大丈夫だよね」
「eバイクだから……たぶんアウトじゃない?」
う〜ん、食べ過ぎ買いすぎ注意!

伝統の味で知る、琵琶湖のいま

滋賀の伝統的な食は琵琶湖の淡水魚が支えてきた。琵琶湖八珍のニゴロブナやビワマス、ゴリ、コアユ、スジエビ……は、琵琶湖の恵みそのもの。その中でも、ニゴロブナを塩漬けにした後、炊いたご飯に漬けて自然発酵させた「ふなずし」は、欠かせない伝統食。ライド後の晩酌のお供にはもちろん、お土産にもぴったりだ。

私たちが今回訪れたのは、代々伝統の味を守り続ける「遠久邑」だ。

「どうもこんにちは」と現れたのは、2代目の奧村吉男さん。遠久邑の店内にはふなずしや佃煮がズラリと並ぶ。

中でもとりわけ目を引いたのは、”ふなずし×フロマージュ”というポスターだった。 「これはまだ製品として安定的に出せてはいないのですが、今頑張って取り組んでいることでして」と奧村さん。ふなずしとチーズを組み合わせた異色の一品、この背景には琵琶湖漁業の厳しい現実があるというのだ。

「暮らしぶりの変化や高齢化の影響で、琵琶湖の漁業人口は減少の一途を辿っています。そこで注目したのが、今まで利用してこなかった魚、つまり未利用魚なんです」

例えば、ますずしでは卵がたっぷり入ったメスに需要が偏っているため、同じ網に入ってしまったオスの多くは廃棄されているという。

「今まで価値がないとされてきた魚に、新しい価値を与える。そこから新たなビジネスが生まれて、琵琶湖の水産業を活気づけたいと考えているんです」

メスの値段はオスの倍以上
メスの値段はオスの倍以上
この日は特別に仕込み所も見学させていただいた
この日は特別に仕込み所も見学させていただいた

例えば、自転車で旅をしていると、美しい風景やおいしい食材、素敵な人々にお世話になる。自身の足で駆け巡ったからこそ、知ることのできる事実も多いのだ。奧村さんの話を伺った後に眺める琵琶湖は、それまで無邪気に見てきた景色と全く異なるものだった。波の音や風を感じながら琵琶湖に思いを馳せる——自転車だから叶う”粋”なんだ。

実は宿泊も目的だったのです!

思う存分、近江八幡を堪能した後は往路とは違う内陸路でホテルに戻ろう。町を抜けきると一面の青々とした麦畑が出迎えてくれる。途中、交通量が多い箇所もあるが、直線が続く農道の入ってしまえば道幅も広く交通量も少ないため、初心者でも安心して走行できる。西日を反射してきらきら光る麦に目を細めながら、マイペースでゆっくり帰路を味わったのだった。

この旅のもうひとつの楽しみは、ホテルでの宿泊とも言える。日常よりも上質な時間を過ごせる琵琶湖マリオットホテルは、琵琶湖湖畔に面したハイランクな宿。今回はせっかくの女性同士のアクティブ旅、「とことん”のんびりゆったりデトックス”したいよね」ということで、プライベートヨガがセットになった『ヨガリトリート-Relax Stay Plan-』で宿泊した。

ホテルに戻り、レンタサイクルを返却した後はチェックインし部屋へ。

「わーっ! 温泉が付いてる!」

レイクビューに面した部屋には露天温泉が付いており、まさに贅の極み。汗だくの服を脱ぎ捨てて、人の目をはばかることなくお風呂に直行できるなんてこれ以上の天国があるだろうか……!

さらに天国は続く。ディナーには滋賀の春の旬をふんだんに取り入れたしたフレンチコース、翌朝には和洋幅広く取り揃えたモーニングブッフェなど、胃袋が常に幸せに満たされる。が、ここで改めて気付いてしまった。「あれ、自転車に乗ったのに太っちゃう?」

爽やかなレイクビューでモーニングを
爽やかなレイクビューでモーニングを

そんなときは朝ヨガでデトックス&リラックスを。プライベートヨガなので一人ひとりの体調や目的、レベルに合わせてレッスンを行ってくれる。今回は前日のライド疲れを抜きつつも、カロリーはなるたけ消化して……。え、わがままだって?しょうがないじゃない、これが女性って生き物よ。

12階の特別ヨガルームでレッスン
12階の特別ヨガルームでレッスン
ヨガ後には特製スムージーも
ヨガ後には特製スムージーも

週末旅×日帰りサイクリングで自分らしく、前向きに

自転車での1日が週末旅の一部に組み込まれると、ちょっぴりだけ感度が良くなる。例えば、季節の移ろいや食材の旬、知らない道に知らない町。クルマや電車でもいいけれど、自転車だから知れることも山ほどある。

「じゃあ、今日は京都でカフェ巡りでもしようか」

チェックアウトして、キャリーケースひとつで次の町へ。自転車は現地でeバイクを借りる。普段の服で、スニーカーで。そのくらいの温度感が、今日の私たちのビワイチなのです。

 

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