eバイク旅ノート Vol.70 eバイク日本一周10「いきなりのゲリラ豪雨、帯広でグルメを堪能」

ふたり合わせて123歳の夫婦がeバイクで日本一周の旅に出た。神奈川県をスタート、関東と東北を走り秋田からフェリーで北海道へ。苫小牧から時計回りで稚内、旭川、網走、弟子屈、知床半島、根室と走り旅も後半に。北海道ではまさかのチェーン切れやパンク、悪夢のキャリヤのボルト折れなど、様々なトラブルがあったが釧路までやってきた。

DAY54

釧路2日目の宿『Stay@Kushiro』はユニークだった。宿泊予約サイトで見つけた宿(ゲストハウス)で、着いたのは中心地から少し外れた住宅地の一角。見た目は完全に普通の民家。宿に常駐する管理人などはいなくて決済やチェックインなど全てネットのやり取りのみで対応。自分たちで玄関のカギを開けて中に入ると、部屋も一般的な家具や家電が並ぶ普通の家だった。共同キッチンやバスルームなども自由に使えるし、居間のソファーに座っていると、まるで留守にしている友人か親せきの家に来ているような気分になった。ゲストハウスや民泊など個性豊かなところが多いので、今後どんな宿に出会えるのか楽しみだ。

朝、散乱した荷物をまとめ8つのバックに詰め込み、バイクにひとつひとつ取り付けて行く。最初のころは不慣れで時間がかかっていたが、さすがに毎日同じことをしているので手際が良くなり30分ほどで終わった。最後にヘルメットとグローブをして準備完了。帯広方面へ向かって走り出した。

それにしても、昨日はキャリアのボルトがいきなり折れたときは頭が真っ白になった。一時は修理のために数日間滞在することになるかと思ったが、いろんな人の助けがあって直すことができた。当たり前のように走れることが嬉しい。

国道38号を西へ向かう。今日は曇りなので気温23度と涼しい。Tシャツの上にウインドブレーカーを羽織って丁度いい感じだ。釧路市内を出る前に、つかの間の都会気分を味わうためマクドナルドに入った。首都圏などでは数キロ走ればファストフードあるが、北海道ではかなり貴重な存在。大好きなエッグマックマフィンを食べ、これから始まる長距離走行に備えた。

市街地を抜けると、左手に海が広がる直線道路になった。しばらくは4車線道路、路肩も広く走りやすかったが、数キロ進むと2車線になり路肩も激狭になった。追い越しの車におびえながらペダルをこぐ。「これだけ広い土地があるんだから、道と路肩をもう少し広くしてくれよ~」愚痴がこぼれる。

『道の駅しらぬか恋問』で最初の休憩にする。漁協直売店で販売する新鮮な魚介類や、海の見えるレストランの「この豚丼」などが人気だが、時間が早くまだ開いていない。展望台に登り展望を楽しんでいると、ポツポツ雨が降り出した。空が明るいので長く降らないと思うが、念のためレインウエアを着こんだ。

海に近づいたり離れたりしながら西へ西へと進んでゆく。国道と並行するように延びる根室本線。走っていると国道沿い小さな広場が目に留まった、何だろう?と思い入って行くと、奥に小さな建物がありここが『直別駅跡』であることがわかった。

廃線や廃駅が進む北海道。僕が初めてバイクで北海道を旅した1984年は鉄道がたくさん走っていて、よく無人駅に泊まった。思い出の駅舎が残っているところもあるが、影も形もなくなってしまった駅もある。きっといつか、そこに駅があったことなど知らない人たちだけになってしまうのだろう。そうと思うと少し切ない気持ちになった。

昼過ぎ、浦幌に着いた。久しぶりの町らしい町。昼ごはんを食べるならここしかないと思い市街地へ入っていった。人気のないメインストリートに『ちゃんこ両国』の文字、北海道でちゃんこは珍しい。扉を開けると笑顔の女将さんが明るく迎えてくれた。店名の由来を聞くと、旦那さんが昔力士で両国の部屋にいたからだと教えてくれた。食べた定食とちゃんこうどんは家庭料理のような味付けで、とてもおいしかった。いろいろおしゃべり。僕たちの旅に刺激を受けたのか「私も旅行に行こうかな~」と言い始めた。旅は人生を豊かにしてくれるもの、ぜひ、出かけてください。

浦幌を出ると雨は降っていないが、怪しい雲が接近している。これは確実に、すごいヤツが来るぞ。路肩にバイクを停め慌ててレインウエアを着こんだ。10分も待たずに、ゲリラ豪雨が始まった。数メートル先が雨で見えない激降り。これは危険だと思った僕は道沿いにある建物に逃げ込んだ。たくさんの牧草と農機具、どうやら農場の倉庫らしい。助かった。かなり濡れたが、下着までは染みていないようだ。10分近く叩きつけるような豪雨が続いたが、その後は徐々に小降りになっていった。

倉庫を出て1時間ほどで豊頃町にある『茂岩山自然公園キャンプ場』に着いた。小高い丘の上にあるキャンプ場でサイトは木々に囲まれている、雰囲気のあるキャンプ場だった。受付に行くと運よく2人用のバンガローが空いていた。内装はきれいだし、電源もある。もちろん雨に濡れる心配もない。これで1泊1000円は安い。終わりよければ全てよし。シュラフのぬくもりに包まれると、あっという間に夢の中だった。

宿泊地:北海道豊頃町
走行距離:96.7km
総走行距離:2874.2km

ステイアットクシロ
釧路で宿泊したゲストハウス(民泊)『Stay@Kushiro』。僕たちが泊まったときはほかの宿泊者がいなかったので、ゆったり過ごすことができた
恋が叶うポスト
『道の駅しらぬか恋問』の入口にある“恋が叶うポスト”。恋問海岸には恋の神様がいるので、願いを込めて手紙を出したら恋が叶う可能性があるかも?
M7.8パネル館
国道38号線沿いにある『M7.8パネル館』。1993年に起きた釧路沖地震を伝える施設で、当時の新聞記事や道路の被災状況や修復の様子をパネル展示している
直別駅の跡地
明治40年(1907年)に開業した直別駅は2019年、廃駅となった。現在のその敷地には駅舎、簡易トイレ、野菜直売所兼“旅人のお休み処”がある
ちゃんこ両国
浦幌にある『ちゃんこ両国』にて。明るく朗らかな女将さん。自転車で日本一周していることを知ると「えーっ!? 私は絶対にしたくなーい!」と笑った
不気味な雨雲が近づく
不気味な雨雲がどんどん近づいてくる。これはやばいと大急ぎでレインウエアを着こむヒロコ。この10分後バケツをひっくり返したような雨が降り出す
道沿いの倉庫に逃げ込む
数m先も見えない激しい雨になったので、このまま走るのは危険と思い、道沿いの倉庫に逃げ込んだ。その後もしばらく降り続いたので本当に助かった
茂岩山自然公園キャンプ場
豊頃町の『茂岩山自然公園キャンプ場』で泊まった1泊1000円のバンガロー。雨の当たらない軒先にバイクを置けたのは幸運だった。超おすすめのキャンプ場

DAY55

起きて外を見ると昨日の雨が嘘のような青空が広がっていた。まずは豊頃町一の観光スポット『ハルニレの木』へ向かう。十勝川の草原に立つ美しい木で、CMで使われたり、写真集になったことから全国的に有名になった。数年ぶりに訪れたが、大きく枝を広げる美しさは変わらなかった。堤防にある休憩所で休んでいると、作業をしている地元の人が声をかけてくれ、数年前に川が氾濫して、一時ハレニレの木が危なかったことを教えてくれた。地元の人に愛され守り続けられているハルニレの木には、幸運がたくさん詰まっているようだ。

十勝川に沿って道が続いていた。作業用の道なのか、ほとんど車が通らない、まるでサイクリングロードのようだ。グーグルマップで確認すると池田町まで繋がっているようなので、そのまま進んで行くことにする。

広い河原と畑の田園地帯が続く。畑の中にいる白い鳥に目が留まった。あの形、もしかして、タンチョウヅル!? よく見るとやはりそうだった。親子連れのようで小さなツルもいる。ヒロコに教えると、「えっ、ホントに!? わぁ~っ」子供のように目を輝かせた。それは自然がくれた奇跡のような時間だった。

池田を経由して道道73号で十勝川温泉へ向かう。目指すは『十勝が丘展望台』。その前に『道の駅ガーデンスパ十勝川温泉』に立ち寄り昼ごはんにする。2020年にオープンしたおしゃれな道の駅で、スパも楽しめるよう。いくつかある店の中から、中札内田舎どりを使った、手羽先から揚げ&ポテトを選んだ。ジューシーなから揚げとホクホクなポテト。腹ごしらえが終わると展望台へ向かった。

傾斜のきつい登りが続く。知床峠以来の長い坂を上っていないので体に堪える。しかし、ここまで来て展望台へ行かないのは悔しい。強力パワーのHIGHモードを使って、意地だけで上って行く。ヒロコも「きつい」「峠じゃないのに」「うそでしょ」愚痴が多くなる。そしてようやく展望台に到着。頑張って登った甲斐あって、眼下には十勝川と十勝平野、遠くに霞んで日高山脈が見える、大パノラマを見ることができた。それだけじゃご褒美が足りないわ! とヒロコの鼻息が荒いので、坂を下ったところにある十勝川公園に立ち寄りソフトクリームをご馳走する。ようやく笑顔を取り戻したヒロコ。ああよかった……

午後5時。予定の宿、西帯広にある『ライダーハウスPIT』に到着した。ここへ来るのは10年ぶりくらい? とても懐かしい。駐車場に入ると宿主の今泉さんが出迎えてくれた。自宅の隣の家を簡易宿泊施設として改築、低料金で旅人に提供してくれている今泉さん。いまでは日本一周などの長距離旅ライダーの間で有名な、伝説的な宿になっている。帯広では古い友人にも会いたいので3日泊くらいする予定だ。

宿泊地:北海道帯広市
走行距離:58.4km
総走行距離:2932.6km

キャンプ場の朝
キャンプ場の朝。目を覚まし外に出てみると昨日の豪雨が嘘のような青空が広がっていた。気持ちのいい一日の始まり。帯広に向かって、さあ出発だ
ハルニレの木
豊頃町のシンボル『ハルニレの木』。十勝川近くの牧草地に立つ樹齢約150年、高さ18mの木。二本の木が一体化したもので、ドリカムの曲の歌詞にも出てくる
十勝川に沿って延びる道
十勝川に沿って延びる道を偶然見つけた。河川の作業用に作られた道なのかほとんど車は通らず、夫婦ふたり占め。電柱や高い木がないので空が大きい
eバイク旅ノート70
ヒロコは運動嫌いの上にヘルニア持ち、出発当初はリタイヤしないか心配したが、徐々に体力も付いてきたようで、いまでは余裕も感じるようになった
ワインオープナーの巨大モニュメント
池田町といえばワインが有名。池田駅へ行くと駅前にワインオープナーの巨大モニュメントを発見。こんなモニュメントがあるのは日本でここだけ?
千代田えん堤
十勝川に作られた『千代田えん堤』。池田町千代田の水田かんがい施設として造られたもので、秋は無数の秋あじが遡上する光景が見られるという
道の駅ガーデンスパ十勝川温泉
『道の駅ガーデンスパ十勝川温泉』にある牛のベンチで休憩するヒロコ。この道の駅には水着で入れる『スパ』、さらにドックラン&犬専用の足湯施設もある
十勝が丘展望台
十勝が丘公園からさらに登った高台にある『十勝が丘展望台』。眼下に広がる十勝川と十勝平原の絶景、美しい夕陽が見られるスポットして人気がある

DAY56

帯広に住む友人、かおるが車で迎えに来てくれた。1987年にオーストラリアを旅しているとき(僕は原付バイク、かおるは自転車)に出会って以来、36年の付き合いになる。ちなみに現在は自然素材を使った洋服のデザイン制作する仕事をしている。帯広のスイーツと言えば六花亭ということで、モーニングが食べられる『六花亭ガーデン』へ向かう。大きな窓から美しい緑の庭を眺められるカフェがあり、ポテトサラダのクッペや野菜サラダなどをいただいた。僕たちの朝ごはんの定番といえばセイコーマートなんだけど、時にはこんな時間もいいでしょう。ヒロコは嬉しそう、そして結局、ケーキまで食べちゃいました(笑)。

その後、帯広周辺をドライブ。南インドカレーのランチを食べ、午後からヒロコは整体マッサージを受けた。新潟で整体を受けてかなり体が楽になったので、北海道でも行きたいと思っていたらしい。しかし探してみるといいところが見つからず、半分諦めていた。そんなとき、かおるの友人に整体師がいることがわかり急展開、お願いすることになった。かおるのおかげでヒロコの体もリフレッシュ、本当に感謝感謝です。

宿泊地:北海道帯広市
走行距離:0km
総走行距離:2932.6km

六花亭ガーデン
帯広の友人かおると3人、おしゃれな『六花亭ガーデン』のカフェでモーニングメニューを堪能。このあとさらにケーキまで食べちゃいました(笑)
幸福駅舎のマンホール
帯広で見つけたカラーマンホール。日高山脈を背景に観光ポイントとして人気の『幸福駅舎』と切符、愛国駅に展示されている機関車がデザインされている

DAY57

今日は帯広駅の近くにある図書館にこもり、コラムの文筆や写真の整理などのワーキングに精を出す。そして昼は十勝グルメ、カレーショップ『インデアン』。帯広のグルメといえば豚丼が有名だが、今夜はジンギスカンの予定なので、肉を避けてカレーにした。インデアンカレーのコンセプトは「帯広で2番目においしい店」。2番目なのは一番おいしいのは妻と母の料理だからだという。お鍋を持ってルーを買いに来るお母さんがいるほど、地元の生活に馴染んでいるというインデアンのカレー。注文したインデアンカレーは煮込んだ牛肉がゴロゴロ入っていて食べ応え十分。ルーも味に深みがあり、とてもおいしかった。

仕事が終わると宿へ戻り、近くにあるジンギスカンの店『有楽町』へ向かった。宿主今泉さんおすすめの店で、いつも行列ができる人気のお店。早めの午後5時に行ったが、すでに満席の状態だった。メニューはジンギスカン、ホルモン、子袋、うどん、玉ねぎ、ライス、キムチ……とシンプル。ジンギスカン(ラム肉)とホルモン、うどんを注文する。ジンギスカンの肉は新鮮でボリュームがあるのに1人前462円の安さ。ふたりともジンギスカンが好きなので、猛スピードで胃袋に消えて行った。一緒に食べたホルモンうどんもおいしかったが、唯一の難点が店内の暑さ。火を使っている上、エアコンがないので、店内はサウナ状態。汗がダラダラ流れてくる。まあ、これはこれでいい思い出! ということで、とても幸せな時間になりました。帯広滞在は今日まで、明日からまたeバイク移動だ。

宿泊地:北海道帯広市
走行距離:0km
総走行距離:2932.6km

インデアンのカレー
帯広『インデアン』でヒロコは野菜カレー、僕はインデアンカレーを食べた。薬味が豊富で福神漬け、さらにシソ&大根&キュウリの漬物にガリもある
インデアン
1968年に1号店が市内にオープンした『インデアン』。基本メニューは7種類、3種類のルー、5種類のトッピングがある。帯広市内に10店舗、釧路に2店舗ある
有楽町のジンギスカン
西帯広のジンギスカン『有楽町』は知る人ぞ知る、特に食通の間では有名なお店らしい。お持ち帰りできるので肉だけ買って帰る人もたくさんいた

取材協力:
ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/ypj/
セナブルートゥースジャパン
https://senabluetooth.jp/
ステムデザイン
https://www.stem-design.net
武田レッグウェアー
https://www.rxl.jp

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