MTBタイプにクロスバイクタイプと、さまざまな種類のeバイクが発表されているなか、「ロードバイク」としての走行性能を突き詰めたeバイク「スペシャライズド・ターボクレオ」は、ロードバイク乗りとして気になる存在だ。
そこでスポーツバイク専門誌の編集部員が、そのバイクの走行性能を見極めるべく、富士山一周こと「富士いち」に挑戦してきた!
果たしてeロードバイクの真価はいかに!?
eロードバイクは、果たして「ロードバイク」か?
ロードバイク乗りの隊列に加わって走っていると、上り坂にさしかかってきた。僕はバイクのフレームにあるスイッチを押して、eバイクのモーターを起動させる。軽快なペダリングに合わせてアシストが利き始めるとあっという間に、先ほどまで一緒に走っていたロードバイク乗りたちを置き去りにして、ターボクレオに乗った僕はぐんぐんと坂を上っていく。
スペシャライズドが2020年モデルとして発売されたeロードバイク「ターボクレオ」は、日本で出回っているeロードバイクの、最初にして最高の一台となるのか?
これまでさまざまな種類のeバイクで国内のフィールドを走って来た僕にとっては、「驚くべきことに、イエス」と言える。
さまざまなジャンルがあるスポーツバイクのなかでも、近年特に人気のある「ロードバイク」。走る力を効率良くスピードに換え、速く、そして楽に走り続けることのできるこのロードバイクは、少ない力で高い速度域を維持できる。それによって幅広い層の人が、本格的なスポーツライドを始めようとしたときに最も人気となる車種だ。
そんなロードバイクに電動アシストが付けば、もはや完璧なeバイクなのではないだろうか……と思ってしまうが、ちょっと待ってほしい。
eバイク、すなわち電動アシストが付くスポーツバイクは、モーターによるアシストの制限が最大時速24km以下となっているため、それ以上の速度を出そうと思うと、あとは人力が必要となってくる。
つまりはロードバイクで走って気持ちのいい速度域である、時速25km以上の領域では、eバイクを構成するバッテリーやドライブユニットが、ただの重りになってしまうこととなるのだ。
そういった理由からeバイクは、オフロード走行でもサスペンションなどによって重量がハンデになりにくいというMTBや、走る速度域がもともと低めのクロスバイクタイプがメジャーとなってきた。
ターボクレオの軽量さという回答
そんななか、スペシャライズドが2020年モデルとして発表した「ターボクレオ」は、まさに「eロードバイク」というジャンルに狙いを定めて同社が打ち出した、最大の一手である。
その特徴としてまず注目したいのが、eバイクのキモとなるドライブユニット「スペシャライズドSL1.1」だ。シマノやボッシュのハイエンドのドライブユニットに比べて、アシストパワーの指標である最大トルク数は控えめに抑えつつ、小型かつ軽量(モーター単体で1.95kgと最軽量クラス)なサイズにまとまっている。
320Wh容量のバッテリーもフルカーボンのフレームに完全内蔵。見た目もすっきりとまとめ、アシストを操作するスイッチやバッテリー残量を確認するインジケーターも最低限。まさに軽量さを突き詰めた仕様となっている。
それでいてバイク本体の性能としても、ハンドルとフレームの間に設けられるミニマムなサスペンションシステム「フューチャーショック2.0」や、カーボンホイールの採用など、従来の人力スポーツバイクを設計し続けている同社だからこその、「eバイクでの走行に求められる快適性や巡航性能」の面をとっても、抜かりない完成度を誇っている。
今回僕がテストライドした、スペシャライズド・ターボクレオSLコンプカーボン(72万円、税抜)は、このターボクレオのカーボンモデルのなかでは最も弟分にあたり、シマノ・GRXの機械式変速でアッセンブルされる。
同シリーズは、よりパーツのグレードを高め、スラム・レッドeタップAXSをメインコンポ、そして航続距離を最長65km伸ばすことのできる追加バッテリーである「レンジエクステンダー」も標準装備した、「エスワークス・ターボクレオSLカーボン」(154万円、税抜)がハイエンドモデル。 そしてより太いブロックタイヤを装着し、ダートコースや未舗装路であるグラベルを走行できる「エボ」モデル(スペシャライズド・ターボクレオSLコンプカーボンエボ、74万円、税抜)のほかに、E5アルミフレームを採用する「スペシャライズド・ターボクレオSLコンプE5」(50万円、税抜)もラインナップする。
いざ、ターボクレオで「富士山一周」!
さて、そういうわけでターボクレオを車に積んでやって来たのは、静岡県の御殿場市。今日は朝から一日かけて、富士山の外周道路を一周する、通称「富士いち」をロードバイク乗り達と一緒になってのライドだ。
予定している走行距離は約140km、そして富士山の麓ということもあり、獲得標高は2244mというなかなかのハードコース。そもそも僕の乗る素の状態のターボクレオは、バッテリーのみであれば最大100kmのアシストという表記がある。
すなわち、うまくアシストを活用しないと、最後の上り区間で「電池が切れた! ただの重いバイクでのヒルクライムだ!」と痛い目を見てしまう羽目になる。
そんな不安を抱きながらも早速スタート。序盤から早速上り坂が始まり……朝イチだということで力もあまり出ないから、まずアシストをオンにして上る。
するとどうだろう。ゆっくり踏んでもすぐに他の仲間たちを追い越してしまいそうになる。今回はグループライドなので、できるかぎりはぐれないようにして集団と一緒に走りたい。そんな思いから、「このままではeバイクだけで走りすぎてしまう!」と危惧し、4段階あるアシストレベルをゼロにして人力モードに。
……あれ、案外上っている。もちろん普段から僕がロードバイクでそこそこ走っているというのもあるけれど、他のロードバイク乗りと一緒のゆっくりペースで上ろうと思ったら、足をくるくる回していけば、普通のロードバイク的な挙動で走ってくれるのだ。
もちろんそれはターボクレオが全体的に軽量に仕上がっているということもある。最上位のエスワークスモデルでは12.2kgと、もはや普段乗っているディスクロードに多少の荷物を載せた状態と同じくらいなわけだ。そしてバイクの基本的な設計(ジオメトリ)がロードバイクとほぼ同じになっているため、きっちり踏んだら進んでくれる。
そのまま平地となり、下りになっても、その驚きは変わらずだった。何といってもこのターボクレオは「普通のロードバイク」の挙動なのだ。
すなわち、先に書いたようなロードバイクの速度域であっても、気持ちよく走り続けることができている。
だからこそ、キツイ上り坂にさしかかったタイミングで、アシストのスイッチをオンにする。
するとモーターは静かにアシストを始め、ロードバイクのそのままの感覚でくるくると足を回してペダリングしていくと、それに応えるように自然に加速し坂を上っていくのだ。
そして冒頭にあるとおり、あっという間にロードバイクの集団を置き去りにしてしまう。
人と一緒に走るスポーツライドでは、速い人、遅い人という脚力の差はどうしても生まれてしまう。特にスピードの出やすいロードバイクは、そういった差はどちらの人にとってもストレスになってしまいがちだ。
けれどこのeロードバイクであれば、脚力や体力がない人も、熟練したロードバイク乗りと一緒に走って、一緒の景色を見て風を感じながら走り続けることができる。
これまで坂で置いて行かれていたという人も、もうそんな心配をする必要はない。ターボクレオのアシストは脚力をカバーするどころか、人力側は坂でまったく追いつけなくなってしまうだろう。
そうやってアシストの優越感に浸るも良し。余裕があるからこそおしゃべりを楽しみながら、富士山の絶景を味わってもいいし、もちろん体力が減ることもない。
結果、仲間達と楽しくライドを楽しんでも、バッテリー残量は約20%を残していた。
そしてeロードバイクという、知っているようでまったく新しいこの乗り物は、人と走る楽しさを思い出させてくれたのだ。