9月7日に静岡県富士市の森林内で、eMTBを使って林業の現場を訪れるガイドツアーが行われた。富士市森林組合の協力のもと、富士山の麓に広がる林をeMTBで走り、林業の作業を行う実際の現場を見学した。
富士山の麓に広がる林業の現場を、eMTBで見学するガイドツアーが静岡県富士市で行われた。
これは『森のプランナーと行く! 富士山の森を知る! 森からの恵み探求! E-MTBガイドサイクリングツアー』というもの。静岡県富士市でeバイクツアーを積極的に開催する『社会福祉法人誠信会NINOMARU village 』(以下『ニノマルビレッジ』)が主催した。
富士市の総面積の約半分を占める林野の現状を、富士市森林組合の協力により、現状を『森林施業プランナー』とともに肌で感じることが、このツアーの大きなコンセプト。森林への理解を深め「『元気な森』をつくることが私たちの生活にどう影響するのか」を感じ取るのが目的である。
参加したのは小学生から60歳代までの男女10名。その半数以上がスポーツバイクには初めて乗るという方々だった。スポーツバイクには慣れている方もいたが、eMTBに乗るのは初めてという方ばかりが多かった。
参加者が乗るeMTBは全てニノマルビレッジが用意したレンタルバイク。ヘルメットも用意されていたので、動きやすい格好で参加するだけでOKだった。
彼らに参加した理由を聞くと「自然を感じながら走りたい」「マウンテンバイクで山を走ることに興味があった」「林業の現場の話が聞けるということで参加」「日本は昔から木を育てることで進化していると聞き、その実際を見てみたかった」という声が聞けた。自分の住む街を林業を通して知る、という新たな視点に惹かれた、という理由である。
ツアーの走り出しの前に、富士市森林組合所属の森林施業プランナーの方に、林業について大まかに教えてもらった。そもそも森林組合って何、という解説からである。
この富士市森林組合が行なう主な作業は、主に山を所有する方に対し、山を管理し、それを収益化すること。その森林が持続可能な健全な状態であるよう管理しながら、その経営を考え、実際に進めていくのがプランナーの役目だという。
「元気な森林とは、手入れが行き届いた山林のことです。光がしっかり入って土に根が張り、土砂災害も防止する、災害に強い森林です」生態系のバランスも取れた、人の生活と共存していける、山のあり方だと説明された。
富士市の生態系は、ヒノキが70%で、杉が30%ほど。杉とヒノキは見分け方が難しいが、その葉っぱを見て、尖っているのが杉、少し開き気味な形をしているのがヒノキである。木の表皮のキメが細かいのが杉、荒れ気味なのがヒノキである。上の写真で言うと、左と右が杉、真ん中がヒノキ。
そしてヒノキは建築の材料として重宝されている。富士市に生育するヒノキは「富士檜」と呼ばれる、高品質な木材だという。土壌の基盤が富士山からの溶岩であるため、ゆっくりと成長し、背丈は低いのにしっかりと中身が詰まっているからだ。
説明を受けた後は、富士市から富士山を上る方向へeMTBで走っていく。参加者は急な坂を初級者でも簡単に上っていく。主に舗装路だが、その勾配はなかなかに急で、eMTBならではの軽いギアとトルクフルなアシストが参加者たちのペダリングを後押しする。途中、コーディネーターの方が「元気な森」とそうでない森、との比較を見せてくれた。
上写真が『元気な森林』である。枝が適度に伐採されて日が差している。これで光が森林全体に行き渡り、光合成も活発になる。また下の地面にも適度に空間が作られ、木々がしっかりと成長しやすい環境になっている。
その一方で、『元気でない』とされる森林は薄暗く生い茂った印象を受ける。密度が高いがために、台風などの天災からの影響を受けやすいと聞いた。
富士山に向かって標高を上げていく。途中の林で、紫陽花などの林内に生育する植物を見ながら林道を繋いでいくと、主宰であるニノマルビレッジに到着した。ここでランチタイムである。
出てきたお弁当に添えられていたおかずは、富士市で取れる食材を使ったもの。富士市の名産とも言えるしらすの天ぷら、そしてこのニノマルビレッジで採れたシイタケを使用した煮物など。どれも美味しかった。
午後は、実際の林業の場へ。ニノマルビレッジから山中へとeMTBで20分ほど走り、そこで林業ならではの木を切る現場を見学できた。
野球場ほどの大きさがある森林を、2週間ほどで伐採しているというこの現場で、実際に木を切り倒すシーンを見学する。高さ20mほどある木を倒す方向を見極めながら、斧を奮って手作業で倒していく。手作業での伐採の方が、倒れていく方向をコントロールできるので、こういった高い木の場合は良いそうである。
さらに、倒した木を一定の寸法の木材に切り出していくのもこの場で行う。特殊なヘッドを使い、切り倒した一本の木材を掴んで、皮を剥ぎながら規定の長さに切る。ここまでを現場で行うことで、その後の工程が林業としてとても楽になる。またこの時に漂うヒノキの香りにとても良い気分になった。これは実際の現場だからこそ感じられる体験だ。
これらを体験した後に、スタート地点であった富士市林業組合の敷地まで下っていき、午後2時半ほどにツアー行程は終了。全行程の距離は16kmほどで獲得標高は380m、これを休憩込みで4時間ほどの時間をかけて走った。初級者もいるeMTBのツアーとしてちょうど良い距離感である。
参加者からはこういった声が聞かれた。
「走りが楽すぎて感動しました。林業のことも間近ですごい体験できて楽しかったです」
「一人で結構走ってるんですけども、一人で走るよりこうやって皆さんとの仲間と走れるのはすごく楽しいなと。森の説明を詳しく聞かせてもらい、全然知らない知識だったので、すごく楽しいツアーになりました」
「山によく行って、林業の方がよくいらっしゃるのを見るんですが、木が倒れる瞬間の音や香りを五感で感じるのは初めての経験でした」
「林業について勉強したり体験したりすることも、国民の義務にすればいいんじゃないかなと、そういうところも思いました」
ニノマルビレッジは、この他にも多くのeバイクガイドツアーを常時行なっている。詳しくは次のウェブサイトを確認して欲しい。
>> https://www.ninomaru-village.jp/ガイドツアー/