新たな流れの超軽量フルサスeMTB
最近、世界のeバイクシーンでは、フルサスeMTBの超軽量化が進んでいる。現在の最先端とも言える軽量フルサスeMTBは、MTBという遊びをどう変えていくのだろう。スペシャライズド・Levo SLを例に、その乗り味と楽しみ方をお伝えする。
フルサスeMTBが、最近どんどん軽くなっていく
最近、フルサスeMTBがどんどん軽くなっている。前後にサスペンションがつき、オフロードを走る性能が格段に高いeMTBのことだ。その軽量フルサスeMTBの先駆けとも言えるのが《スペシャライズド・Levo SL》シリーズだ。
シリーズのハイエンドライン《S-works》モデルでは最軽量17.3kgという、現時点でのEバイクとは信じ難かった重量。この最軽量はスペシャのハイエンドライン《S-Works》モデルだが、今回試乗できたのはLevo SL Expert Carbon(価格/104万5000円)。

Levo SLに乗る、eMTBならではの装備と重量で
Levo SLファミリーは、前後150mmトラベルのトレイル系フルサスeMTB。トレイル系とは、山に限らず普通に走るのにちょうどいいモデルということ。上りや下りや飛びに特化していない、使いやすいラインだ。
フレーム素材はカーボン、コンポはSRAMのEagleレベルとハイエンド。ホイールは29インチでタイヤ幅は2.3インチ。もちろんドロッパーポスト付きだ。総重量はきちんと測ってはいないがスペック値からにらんで18kg強。

これに航続距離を補強する追加バッテリーSL Range-Extender Battery(5万7200円)と、コードで1.1kgほどを取り付けた。これでパワー切れを気にせず走れる安心装備。必要な工具はヘッドチューブに隠されているので(ニュル〜と出てくるギミックもカッコいい)、こちらの持ち物は500mlの水とポンプと簡単なファーストエイド。これでバイクと持ち物の総合重量は20kg強ぐらいと読んだ。
ウェアは上下ソフトシェル系を着て、暑くなく寒くない状況で、余分な着替えをもたずに走った。いい秋晴れの日だったのもあったが、eMTBなら走りの強度で発汗を調整できるからだ。これで重さはいつもの着替えや楽器をリュックに入れて持つのと総重量で同じぐらいか。チューブとポンプはサポートカーにあるから、と言われ持っていくのを忘れてしまった。試乗会とはいえ、すまない。


パンプトラックで ―― スウィートスポットで粘るFSRリアサスシステム
まず山梨県甲府市の「山梨MTBベースオートキャンプ場」のパンプトラックで乗った。ここは今年10月にオープンした、国内最大級のマウンテンバイクパンプトラックがあり、MTBレンタル設備などもそろった、ファミリー用MTB体験施設ともいえるコースだ。

大きな敷地に大きくふたつのコースのある、走りごたえのあるパンプトラックだ。大きなリズムのパンプが続き、左右へとコーナーが続く。さらに、バームの途中にパンプがあったり、リズムを変えるS字があったりする。実際のトレイルの地形をイメージさせるパンプトラックだ。ここで体重移動と路面を蹴る反動で、こがずに前に進んでいく。

Levo SLは軽量とは言え、重心移動の力を吸収するフルサスと、ペダルを漕いで発動する電動アシストとはあまり相性は良くない。それでもそれなりに走った。いわゆるフルサスのキックバックが少ないからだろうか、ちょっと飛べるとこで軽く浮けた。

感覚的にはリアサスシステムの『FSR』が路面に力を押し込みたいポイント、いわゆるスウィートスポットでいい感じに粘りがきく。パンプトラックのうねりのリズムとスピード調整が面白く、何度も息を切らしながら20分ぐらい走り込んでいいウォームアップになった。実際のトレイルに出る前に、パンプで車体の挙動を体で掴めば、トレイルではもっと自由に、安全になる。
上りで ―― 軽いギアを高ケイデンスで回せばもっと疲れない
そして実際に山に入る。パンプトラックからほど近い櫛形山のトレイル群だ。ここは『南アルプスマウンテンバイク愛好会』が管理・整備する。トレイルは愛好会の会員でないと走れないが、トレイルの入口付近には誰でも無料で走れる《立沼マウンテンバイクパーク》がある。
このMTBパークまで上っていくと舗装路だけだが標高差1200m。普通のMTBでやるなら、なかなかの想いと気合いが必要だ。この上りをフルサスeMTBの力でヤる。追加バッテリーを含めたパワーがどれだけ持つのかと言う実地テストともなる。

フルサスに限らずeMTBで登る時に覚えておきたいのは、高いケイデンスが吉であること。ギアは軽めで速めに回すのが楽だ。アシストのパワー特性は、重いギアをぐいぐい漕ぐより軽いギアをクルクル回すのに優れている。軽い力、軽いギア、軽いリズムでいけば、力をあまり使わず疲れにくい。

ただ楽して標高を稼ぐと、ある一線を越えると寒くなる。そんな時は立ち漕ぎダンシングに切り替えたい。サドルから腰をあげて全身を使って、リズミカルにペダルに体重を乗せていく。アシストの弱いエコモードにすれば体はすぐに温まり、強いターボモードにすれば激坂を面白いように上る。

アシストを使うと自分の上りのスタイルをもっと自由に試せる。そのためにも追加バッテリーがあれば、登りで周りのみんなともっと遊べる。車体100万円に電池5万円、誤差だ。
パークで ―― まとまった重心で振り回しやすく走る回数も増える

距離13kmほど走って到着するのが《立沼マウンテンバイクパーク》

ここは今どきMTBコースの主流であるフロートレイルと言われる造り。滑らかな下り斜面に、左右と上下に続く3次元のコースを、ローラーコースターのように走る。連続するバームからのうねりにシンクロして当て込んでいくと、ちょっとしたきっかけで少し飛べる。一回もペダルを漕がずにコースを走り切れるとすごく嬉しい。
このパークで、LEVO SLの車体特性を感じた。車重の軽さだけじゃない、重さというより取り回しが軽い。感覚的には、またがった時のサイズ感が、走り出すとグッと小さく感じられるのだ。
僕は身長173cmで中肉中背。Mサイズに乗った、トレイルで自由に走り始めてみると、体を動かしやすい。イメージに車体がついてくる感じだ。僕の感覚と想像で言うと、重心バランスが小さくまとまっているから、だと思う。重いところがまとまっているので、ハンマーのように振り回しやすくなる。前後150mmサスで懐が深く動きの予備動作も大きく取れる。
しかもアシストパワーで上り返しも楽々だ、つい本数を重ねちゃう。一本のコースを下ると40〜50秒ほど、レベルに合わせて7本ほどのコースバリエーションがある。パークを走り込んで、コースに速さとリズムを合わせるのは楽しい作業。それをパークラッツと人は呼ぶ。パークをラッツ(ネズミ)のように走りまくるのは最高だ。電気よ今日もありがとう、アシストパワーで上手くなる。


トレイルで ―― Levo SLの本領発揮、妄想ラインを現実に
そして実際のトレイルに入っていく。ここからは愛好会の会員でないと走れないトレイル群となる。2022年11月中旬に会員数260人を迎えたと言う『南アルプスマウンテンバイク 愛好会』の入会に関してはこちら。
トレイルでLEVO SLに乗って感じた1番大きな感想が『妄想ラインを現実にできる』だった。フルサスの懐は深いし、アシストパワーはあるし、「脚さえあれば、あの上のラインに流れのままに行けるのに」という妄想が現実になる。
トレイルには、上り返しがある。つづらに折れながら上る時に繰り返すゼロ発進、パンチのある上り返しでの最大トルク。そんなところで、あと少しだけ僕に脚力が足りなかったがためにこれまで諦めていた、夢に見た妄想ライン。それがLevo SLなら難なく走れてしまうのだ。

先に述べた取り回しの良さも相まって、根っこや切り株などちょっとしたものや地形をきっかけに遊べる。FSRで蹴り出す時の固まりも心地よい。飛び出して重心を遠くに回してひねっていくと、着地の前におおきな転がりがお腹の下に入ってくる感じ。その転がりを使って前に伸びて着地面に向かっていく感じ。着地はタイヤの空気は1.5気圧ほどにした、29インチホイールのグリップ力にお任せだ。
MTBという乗り物の遊び方が、さらに2段階ほど高いレベルに高まった気がした。アシストパワーだけじゃなく、そのモーターの重み、重心を考えたMTBならではの新しい乗り味を与えてくれている気がする。やっぱスペシャライズドのMTB開発チームはかなり乗り込んでいる。昔からそう感じているが、今回もやっぱりそう感じた。
バッテリー ―― 総距離35kmの獲得標高1450mで使い切り

前半に上って、後半に降る。MTB遊びの王道だ。今回の走行データを振り返ると、総距離35kmで、獲得標高は1450mほど。SLのバッテリーと追加バッテリーの組み合わせは、この下り切ったところでは0になっていた。
基本的に全て一番アシスト力の強いターボモードで使った。後半はほぼ下りだったので、アシストを感じることはほぼなかったが。一般にMTBでシングルトラックを中心に山を走り回ると、午前10時スタートの午後4時帰り程度で距離25kmほど、それよりも10km遠くに、疲れもほぼなく走り切れた。
わざと消耗させる使い方をしてこうだから、追加バッテリーあれば心配なくターボモードにしておけそうだ。疲れがないと集中力も欠けない。安全面にこそ、効きそうである。

軽量フルサスeMTBはやっぱり正義だ
スポーツ自転車には方程式があって、それは『軽さは絶対的な正義である』だ。これまでフルサスeMTBには、別に軽さは必要ないんじゃないか、と考えていたが、実際乗ってみて、やっぱり軽さは正義だと改めて感じてしまった。
今、日本で買える軽量フルサスeMTB、Levo SL は、2022年12月14日までに購入するとヘルメットとシューズがもらえるキャンペーンも行なっている。詳しくはこちらへ(https://www.specialized.com/jp/ja/campaign-levo-sl)。