去る2月24日、ヤマハ発動機(以下ヤマハ)の新型eバイクに試乗会する機会に恵まれた。どのようなモデルが登場し、どのような走行フィールだったのか? グラベルバイクやそれを使った自転車キャンプに滅法詳しいサイクリスト、田村浩氏がリポートする(編集部)。
リポートサイクリスト/田村浩:古式ゆかしいランドナーから折りたたみ自転車、そしてeバイクまで、あらゆる車種で全国的なツーリングを楽しむ実践派サイクリスト。
YPJシリーズ待望の多用途グラベルバイク
eバイクのパイオニアであるヤマハ。その歩みは1993年に登場した「パス」から始まる。当時のメインユーザーはシニア層だったが、子乗せ自転車の電動アシスト化によって子育てママ世代に広く普及し、2000年ごろからは街乗りや通勤通学ニーズも開拓していった。そして2015年、ロードやクロスバイクタイプの「YPJ」シリーズが登場し、昨今盛り上がりつつあるスポーツeバイクの地位を確実なものにした。これにより、趣味性の高いツーリングという遊びの分野においても、eバイクが選択肢になりうることを知らしめたのだった。
そして2022年3月、YPJシリーズの新たな選択肢として登場するのが、eグラベルバイクである「ワバッシュRT」だ。道のオン・オフ(舗装路・未舗装路)を問わずに快走することができるグラベルバイクは、その走行特性から積載力にも優れており、必然的にパワフルなeバイクとの相性もよいジャンルだ。ワバッシュRTによって、昨今注目されている自転車キャンプや林道ライドといった遊びがいっそう身近になるのは間違いない。40万円を切る本体価格も魅力的だ。
eグラベルバイクとしては最大級の大容量バッテリー(36V-13.1Ah)を採用し、ハイモードで走行距離85km、スタンダードモードで同101km、エコモードで同137km、プラスエコモードで同200kmという余裕ある航続性能を確保している。さらに、これらの各モードを走行状況に応じて切り替えてくれるオートマチックアシストモードを搭載しており、モード切替に要するストレスから乗り手を開放してくれる。
ディティール
ひと目でわかるワバッシュRTの特徴は、バッテリーをフレームに内蔵したインチューブ構造だ。非常に流麗なアルミ製フレームを採用しており、特にダウンチューブはバッテリーのスペースと剛性を両立しつつ、極限までスリム化を追求したデザインとなっている。これは機能・構造と見栄えを両立させるためにヤマハのデザイナーがこだわり抜いたところで、「SURFACED-STRUCTURE」と名付けられている。モーターサイクルで培った技術とセンスによって、eバイクにありがちだった鈍重なイメージを払拭することに成功している。ダウンチューブ下面のバッテリーケースやドライブユニットの黒い成型色を生かしたツートーンのカラーリングも、自転車全体をスリムに見せる。
グラベルバイクとしての機能・仕様も万全だ。コンポーネントはフロントシングル&ワイドレシオのシマノ・GRXであり、持ち前のアシスト力と相まって、胸を突くような激坂も余裕で上ってくれる。タイヤはマキシスの定番、ランブラー(700×45C)を採用しており、安定感や振動吸収性も十分だ。加えてサスペンション付きのドロッパーシートポストを採用しており、悪路の走破性はかなり高いレベルにある。
インプレッション〜オートマチックアシストモードが秀逸〜
Mサイズに乗車したが、身長171cmの筆者にジャストフィットした。やや高めのハンドルや脚付きの良いフレームデザインにより、跨った瞬間から「ちゃんとグラベルバイクだ」と思わせてくれる。変な表現だが、ロードバイクに太いタイヤを履かせただけのグラベル「風」モデルではなく、荒れたグラベルをよどみなく走り、さらに荷物を積むために必要な安定感が備わっていることがすぐに伝わってくる。
アシストモードをオートマチックにして走り出すと、ヤマハらしい優しさが感じられる。ドーンと突き飛ばされるような荒々しい加速ではなく、乗り手の脚力を素直にサポートする印象だ。平坦路でペダリングトルクを軽くすると、自然とエコモードに切り替わる。そして、試乗会場にあった勾配20%級の激坂にさしかかると、瞬時にハイモードになってドライブユニットが全力を開放する。速度、ケイデンス、トルク、角度と4つのセンサーで情報を得ているシステムであり、乗り手の意思と状況を先読みするような賢さを感じた。スイッチ操作で各モードを自分で切り替えてもみたが、乗車中にディスプレイを見たり操作するのは意外と気を使う。オートマチックモードを常用するのがベターだし、それで何の不安もなく快適に走り続けることができた。
下りでは何をせずとも勢いが付いてしまうeバイクだが、ワバッシュRTなら落ち着いてコントロールできる。その安定感の大半は、マキシス・ランブラーという太いタイヤに由来するが、フレアハンドルやドロッパーシートポストの恩恵も大きい。フロントフォークがアルミ製なので振動吸収性に一抹の不安もあったが、まったく杞憂だった。MTBと異なり、舗装路も気持ち良く快走できるのは言うまでもない。
このワバッシュRTがあれば、筆者のライフワーク&生きがいでもある自転車キャンプの可能性が大きく広がりそうだ。フロントフォークやフレームエンドにアイレットが充実しているので、バッグやキャリアの選択肢が多い。eバイクであれば荷物の重さから解放されるので、キャンプ道具を絞る必要がなくなる。ワバッシュRTなら長くて荒れたダート林道も気兼ねなく進めるので、思い切ったプランニングが組めそうだ。このジャンルのeバイクとしては重量級(Mサイズで21.2kg)なので輪行が難しいのは否めないが、解体が不要なサイクルトレインやフェリーを利用するという手もある。もちろんカーサイクリングもいいだろう。日常と非日常、どちらでも活躍してくれるモデルだ。
姉妹モデル「クロスコアRC」も見逃せない
フラットハンドルを備えたクロスコアRCも同時にリリースされる。一見するとワバッシュRTと同じフレームに見えるが、サイズごとにトップチューブの長さなどが調整された専用フレームである。フラットハンドルに最適化されつつ、より小柄な乗り手も選びやすいサイズ感が特徴だ。ふだん使いを想定したモデルなのでスタンドも付属するが、幅2インチのタイヤとサスペンションフォークを採用していることもあって、悪路の走破性はワバッシュRTを上回るポテンシャルを秘めている。ドライブユニットやバッテリーはそのままで、いっそう手頃な価格を実現しているのも魅力だ。
スペック&ジオメトリ
WABASH RT
価格:43万8900円
カラー:セレスタイトブルー
サイズ:S、M、L
タイヤサイズ:700×45C
重量:21.1㎏(S)、21.2kg(M)、21.3kg(L)
一充電当たりの走行距離:ハイモード85km、スタンダードモード101km、エコモード137km、エコプラスモード200km、オートマチックアシストモード96km
モーター形式/定格出力:ブラシレスDC式/240W
変速:外装11段(前1速×後11速)
バッテリー種類:リチウムイオンバッテリー
電圧/容量/充電時間:36V/13.1Ah/約3.5時間
フレーム:アルミ製
フロントフォーク:アルミ製
タイヤ:マキシス・ランブラー
ハブタイプ:スルーアクスル
シフター:シマノ・GRX
リヤディレーラー:シマノ・GRX
フロントチェーンリング:44T
カセットスプロケット:11-42T
ブレーキ(前):シマノ・GRX 油圧式ディスクブレーキ 180mm
ブレーキ(後):シマノ・GRX 油圧式ディスクブレーキ 160mm
発売日:2022年3月10日
CROSSCORE RC
価格:31万7900円
カラー:ピュアパールホワイト、ミスティグリーン、フレイムオレンジ
サイズ:S、M、L
タイヤサイズ:27.5×2インチ
重量:23.7㎏(S)、23.8kg(M)、23.9kg(L)
一充電当たりの走行距離:ハイモード85km、スタンダードモード101km、エコモード137km、エコプラスモード200km、オートマチックアシストモード96km
モーター形式/定格出力:ブラシレスDC式/240W
変速:外装9段(前1速×後9速)
バッテリー種類:リチウムイオンバッテリー
電圧/容量/充電時間:36V/13.1Ah/約3.5時間
フレーム:アルミ製
フォーク(フロントサスペンション):SRサンツアー・NEX-E25-C 63mm
タイヤ:セミスリックタイヤ
ハブタイプ:スルーアクスル
シフター:シマノ・アルタス
リヤディレーラー:シマノ・アリビオ
フロントチェーンリング:44T
カセットスプロケット:11-36T
ブレーキ(前):シマノ・BR-MT200 油圧式ディスクブレーキ 180mm
ブレーキ(後):シマノ・BR-MT200 油圧式ディスクブレーキ 160mm
発売日:2022年3月10日