自転車大国として名高いオランダ発の自転車ブランド「バンムーフ」。トップチューブがヘッドからシートチューブまでを貫いたシンボリックなフレームデザインを、街で見かけて気になっていた人も多いかもしれない。そんなブランドから新たに発表されたのが、現在欧州でもメジャーになりつつあるeバイク「エレクトリファイドX」だ。
都内で行われた発表会では、創業者であり社長を務めるティーズ・カーリエ氏が来日し、その開発の裏側を語ってもらった。
日本の都市生活に適した「シンプルさ」
オランダで8年前に発明家のタコ氏と起業家のティーズ氏の兄弟が「自転車を使って世界をより良くする」という野望を掲げて立ち上げたのが「バンムーフ」ブランドだ。立ち上げ当初から、デザインと実用性を兼ね備えた合理性を持った自転車を多く発表し、世界的に評価を受けてきた。
そんな彼らの経験の蓄積と、昨今のeバイクに関する技術のイノベーションから生まれたのが、「エレクトリファイド」である。昨年より、車輪径の大きい欧米仕様のモデルが発表されていた。そして今回、日本・東京の都市生活をヴァンムーフのセンスで考えることで完成したバイクが「エレクトリファイドX」となる。
外見から連想されるイメージそのままに、このバイクはまさに「スマートバイク」と呼べる機能を備えている。バイク本体に内蔵されたセンサーは、アシストの調整や施錠操作ができる。手持ちのスマートフォンに専用アプリをインストールし、バイクとペアリングすることで、施錠機能のセッティングが可能。開錠のタイプは3タイプ。
ひとつには通常のワイヤー式鍵。それ以外にキーレスとして、手持ちのスマホを使用しブルートゥースで認証する方法と、現在一般的な車のタッチ式ロックのように簡易的な子機を身に着け使用する場合の2つから選択可能。その場合はトップチューブの画面をタッチすることでバイクのロックを解除する。また、それに伴いスマホとバイクの距離(○m以内であればバイクと通信し鍵の開閉をできるか)は専用のアプリケーションから設定も行う事が可能だ。
その他にも上記のアプリでバイクのアシストの強さや表示方法を切り替えるなどと、自分好みのバイクへと設定できる。
また、バイク本体の機能としても特筆できるのが「ブーストボタン」。ハンドル右側に備えられたボタンを押すと、通常のアシスト時よりも強い加速を得ることができる。もちろんブーストといっても、日本国内の基準に適合しており、いわば坂道や発進時の必要な時に通常よりも強めの加速操作ができる機能となっている。
バイクにはメンテナンスを最小限に抑える事ができる様に、耐パンク性能の高いシュワルベのシティモデルを採用。駆動系はチェーンドライブに加え、スラム製の内装自動変速ハブを採用している。チェーンラインは樹脂製のカバーで覆われており、それによって雨や泥の汚れによって発生する錆を防ぐと同時に、普段着でもズボンのスソを気にする心配も無い。
フレーム本体に内蔵されたバッテリーにより約6時間で満充電でき、最もアシスト比の低い状態で120km、最大でも60kmのアシスト稼働が可能ということだ。
また、バンムーフが力を入れるサポートの一つが「バイクハンター」。
もしもバイクが盗難にあってしまった際には、その自転車を追跡し発見までしてくれる「バイクハンター」が出動する。SIMカードを内蔵することで通信を行い自転車のおおまかな位置を特定。そこからブルートゥースなどで詳細な位置を割り出し、ハンターが自転車を回収するというサポートだ。すでに欧州では実施されており、実際の盗難車の回収成功率は高い。自転車泥棒サイドに対して「バンムーフには近づくな」という抑止力になることも狙っている。
購入にあたっては、専用サイトでユーザーが直接注文、受け取りとなっている。もしも修理が必要になった際は、オフィシャルのサポートを受ける必要がある。
電動アシスト自転車は日本で「ガラパゴス」的なママチャリタイプがまだまだ主流だ。しかしバンムーフの考えた「東京のライフスタイルに適したコンパクトさ」は、日常生活の新たな選択肢となるだろう。
開発者のティーズ・カーリエ氏にインタビュー
・アシストシステムで、フロントインホイールタイプを採用した理由は?
eバイクで問題になる重量を、軽く仕上げるためです。BB付近など、センターにユニットがあるタイプはどうしても重量がかさんでしまいます。他のeバイクは、重量が20㎏前後になりますが、エレクトリファイドXは18.2㎏に抑えています。
・加速するときの重量バランスを考えると、センターユニットの方がいいのでは?
必ずしもそうとは思いません。上り坂などセンターユニットのほうがアドバンテージがあるシーンもありますが、センターユニットはそもそも重いですし、バッテリーも大型のものを使おうとすると見た目が悪くなります。またセンターユニットを搭載しようとするとホイールベースが長くなってします。エレクトリファイドXのコンセプトである、コンパクトなシティーコミューターを作るにあたってそれはマッチしません。またデザイン上も美しくならない。
ホイール径を24インチとしたことで、ハンドリングも軽快にできました。そしてダウンチューブにバッテリーを内蔵し、シンプルな見た目も実現しています。バンムーフが作るからには、今まで世界にないバイクを作りたかったのです。
・メンテナンスフリーのバイクというとベルトドライブを採用するモデルが多いと思うのですが、なぜチェーンを?
ベルトドライブは確かにメンテナンスの頻度が少なくて済みます。だからと言って、むき出しにしておくと、ワイドパンツの裾を汚してしまうことがあります。オイルがいらないとしてもベルトに汚れが付きますから。
それから、チェーンのほうがコストも抑えられていい。その代わり、服を汚さなくてかつルックスもいいチェーンカバーをデザインしました。4年かかりましたよ! テンショナーを内蔵しているので、チェーンのバタつきもありません。一見するとテンショナーもなさそうに見えるでしょ?
グリップもオリジナル品を使っています。今存在する自転車用グリップの性能にはどれも納得がいかなかったので、ゴルフのグリップメーカーに頼んで作ってもらいました。
・とはいえメンテナンス作業が必要になることはあると思います。直販のみの販売形態ですが、販売店のなかには持ち込みを断るところもあるのでは?
確かに数年前までの欧米市場が同じ状況でした。通販で購入された自転車のメンテナンスはお断りと。ですが、今は違います。通販で購入された自転車であってもメンテナンスするお店が増えました。最初はだれも通販で購入されたバイクを扱いませんでしたが、あるお店がメンテナンスを受け付けた。そうしたら、そのお店には同じ悩みを持ったユーザーが集まります。それを見て近くのお店も「商売になるなら」と、受け付けるようになりました。別の料金体系を設定するなどしています。中にはメンテナンスのみのショップや、バンで出張するタイプのビジネスもあります。たくさんの店頭在庫を持たずに、メンテナンスに特化しているのです。それには数年かかりましたが、日本市場も同じ流れになるでしょう。
もちろん専門性の高いメンテナンスは、バンムーフまで送っていただいて対応することになります。
サイスポナカジがインプレッション!
フロントホイールにアシストユニットを搭載していることを、試乗前はかなりネガティブに考えていた。加速性能もよくないだろうし、ハンドリングにも悪影響があるのではないかと。
実際に試乗してみるとどちらのネガも、あまり気にならなかったというのが正直な感想だ。意外だった。フロントアシストはセンターユニットに比べて、アシストパワーの立ち上がりがスムーズで、むしろ快適だった。センターユニットタイプだと「がくん!」と加速するイメージだが、そんなことはなかった。ハンドリングについても、重さを感じたり、コーナーリング中の不安定さもなかった。もちろんスラロームなんかをやろうとすれば、印象は違うのかもしれないが、このバイクはレーサーではないので、あまり考えなくてもいいだろう。
逆に気になったのは、リヤハブのスラム内装変速だ。速度によって自動で変速する2速タイプのものなのだが、この変速タイミングに慣れる必要があると感じた。変速のタイミングとアシストパワーの立ち上がりタイミングのバランスは、まだブラッシュアップできるのではないかと思う。
デザインはさすが、きれいにまとまっている。バンムーフのラインナップに鍵を内蔵できるモデルがあるが、エレクトリファイドXはそれができないのが、ちょっと残念。でもこれをベースに、かっこいいパパチャリなんかを仕立ててみたい。