ツール・ド・東北100kmをeバイクで行く
宮城県石巻市を起点に、女川〜南三陸を自転車で巡る『ツール・ド・東北』は、2022年に9回目の開催を迎えた。3年振りのリアル開催となった今年は全国より1300人を超えるライダーが集結。100kmの「北上コース」と65kmの「女川・雄勝コース」を思い思いのスピードで駆け巡った。
筆者もeバイク「BESV JG1」で北上コースを実走し、当日の様子を取材した。eバイクで参加するツール・ド・東北の魅力、そしてイベントにおけるeバイクの可能性を探っていこう。
舗装路も砂利道も。走破性に長けた「BESV JG1」
数々のeバイクを世に送り出すBESVより誕生したeグラベルロードがJG1だ。舗装路から未舗装路まで、どんな状況下でも高いパフォーマンスで走破できるようジオメトリを新たに設計。軽量カーボン素材をフロントフォークとシートポストに導入し衝撃吸収性を高めた。
コンポーネントにはシマノ・GRX11sを採用し、本格的なグラベルを楽しめる仕様に。
最大走行可能距離はフル充電時において、エコモードであれば105km、フルパワーでは40kmと、日常的なライドであれば問題ないバッテリー容量も魅力だ。
寄り添う、けれど確実に後押しする自然派アシスト
今回は南三陸の誇るリアス海岸のアップダウンが待ち受ける。しかも台風接近のため、大会当日は西風が吹き荒れた。2つの難関が待ち受ける中、BESV JG1のバッテリーはどこまで持つのだろう。筆者はeバイクならではの不安の種を胸に抱いていた。
誰も知るよしもなく、ツール・ド・東北のオープニングセレモニーは、ゲストの宮澤崇史さん、別府史之さんを迎え華々しく進行していく。天候が心配されていたが、スタート時には一面の青空が気持ちよく広がり、先頭より順にスタートが切られた。
序盤は石巻市街地から海岸線に向かい、西へ向かう。平坦基調ということもあり、アシストはエコモードに設定し、心地良い巡航速度で先へ進んだ。JG1のアシストはペダルを踏む足裏との呼応が心地良く、良い意味でアシストを忘れさせるほど自然だ。初めはエコモードだからだと思っていたが、パワフルモードでも力強さとナチュラルな繊細さを両立している。
eバイク経験者なら一度は体験したことがある、停車からスタートする際の「グッ」と不自然に前へ持っていかれる感覚がほぼ感じられなかったのが印象的だった。
それはさておき、序盤は追い風で平坦道。速度は30km弱となりアシストはほぼ切れている状態だったが、ストレスを感じずに走り続けられたことも特筆しておきたい。これは自転車としての走行性が高いことを意味するのだろう。
……などと小難しい考えを吹き飛ばすほど、地元の方々の応援が熱い。一列に並ぶライダーに、沿道から「がんばれ〜」や「いってらっしゃい」など、あたたかい言葉が飛び交う。やはりライドイベントの醍醐味は、地元の熱気が感じられることだ。手を振りながら走り続けると、次第に視界が開ける。海原に朝日がきらきらと反射する、南三陸の海が現れた。
eバイクで知る「健脚たちが見ている景色」
女川エイドステーションでは、朝イチの胃袋にぴったりの温かい汁物「女川汁」が振る舞われた。旨味を凝縮したさんまのつみれと優しいお出汁が心を解きほぐす。JG1はスタンド付きなので、スペースを見つけ次第すぐに駐輪できるのもありがたかった。
さて、女川を出たあとから、走り甲斐のある道が本格的に始まる。女川から雄勝(おがつ)を経由し神割崎に至るまで、右手にリアス海岸を眺めながら、軽快なアップダウンが続く。ここでいかに気持ち良く走れるかが、eバイクの肝である。
走り出してすぐに登坂が始まった。一般ライダーが息を荒げながら坂に挑む中、筆者はアシストモードを強く設定する。途端にウィンと軽やかなモーター音に切り替わり、グングン前へ車体を推し進めてくれた。もちろん踏まずして進まない。しかし、ひと漕ぎごとに想像の3倍ほどの距離を稼いでくれる。これはすごい、文明だ。
「前に出ます」と声がけをし、右からスルスルと抜かしていく。普段であれば貧脚の筆者は“被・前に出ます”側の人間なので、これが健脚が見ている世界なのかと愕然とした。これは想像を絶するほど気持ち良いものだ。
バッテリー残量は、かなり大味で表示される走行距離はスタート時と変わらないまま。これだけが不安として脳裏にこびりついていたが、それ以外は右手に広がる大海原のように雄大な走りだった。
海の幸を食べ尽くす! 喜ばしいオーバーカロリーライド
雄勝エイドステーションのホタテの網焼きに、ここでライドを終了させビールを飲みたいと葛藤していたのはここだけの話だ。
雄勝を越え、長距離の釜谷トンネルを抜けると北上川の下流に合流する。左岸の広大な河川敷を進み、再度リアス海岸を眺めながら神割崎へ向かう。神割崎エイドステーションでは、地元のお母さんたちが作る特製シーフードカレーが振る舞われた。カレーの上には鮭フライとホヤがトッピングされた本格的な港町仕様だ。カレーとホヤの組み合わせは類い稀なるセットだが、これはこれで趣深くうまい。
来た道をピストンし、ラストエイドステーションの北上エイドステーションへ。ここで頂いたのは南三陸名物「めかぶうに」だ。読んで字の如く、めかぶの上に蒸しうにがトッピングされたメニューだが、繊細な旨味に打ちのめされそうになる。
ここまでを振り返ると、eバイクで快適なライドを楽しみ、南三陸の海の幸を巡り、消費カロリーよりも摂取カロリーがオーバーしているのは火を見るより明らかだ。これはこれで良いかと目を細めながらバッテリー残量を確認すると、走行可能距離は残り10kmという表示が。ここからゴールまでは29kmある。おっとまずいぞ、加えて荒れ狂う向かい風が吹き荒れる広大な河川敷が続くのだ。
東北の“いま”をこの目で、この脚で
ツール・ド・東北というイベントは一般的なライドイベントとは少々趣旨が異なる部分がある。2011年に発生した東日本大震災からの『復興イベント』としての役割を担っており、被災地にエールを送るという意味でも重要な催しとなっている。
津波は例外なく北上川・旧北上川にも大きな爪痕を残した。特に新北上大橋のたもとに位置する旧大川小学校跡は当時の様子を伝える震災遺構として、訪れる人々に津波の教訓を伝えてくれる。イベント前に予め、当時の被災状況を見てみたが、目をつぶりたくなるほど凄惨なものだった。「その地を脚で走るときに、どんな気持ちでいればいいのだろう」事前に幾度となく頭を抱えたが、実際に走るときには、ただ今の景色を目に焼き付けることでいっぱいいっぱいだった。自らの脚で走り、肌で風を切り、景色の中に溶け込むライドは、出走者それぞれの胸に違ったものを残すのだろう。
さて、ラストの強風平坦道に翻弄される筆者に、とうとう厳しい現実が突きつけられた。バッテリー残量がほぼゼロになったのである。ゴールまで残り10km弱か。アシストモードはエコモードから切り替えができなくなり、アシストも弱々しくなってきた。ここからは純粋な“自転車”として、JG1を乗りこなすしかない。
ここでようやくGRXの包容力あるギヤ比の恩恵を享受し、無事ゴールとなる。結論付けるとするならば、「ツール・ド・東北100kmはバッテリーが先に残量ゼロ。でも、消費カロリーと摂取カロリーがトントンに」という健康的な結果となった。
eバイク参加でイベントライドをもっと色濃く
BESV JG1で南三陸を100km駆け回り、筆者は帰路で心地良い疲労感と満足感に浸っていた。もちろん楽な行程ではない。だが、キツすぎたこともない。追い込まないで良いからこそ、ゆっくりと見える絶景があり、思いっきり食べられるグルメがあり、沿道で応援してくださる方々に笑顔で応えられた。それはかなり嬉しいことじゃないか。
地域をじっくり味わうライドイベントにeバイクは向いている。それは体力に自信のない初心者だけではなくて、熟練者も同じだ。体力を少しだけ温存できるからこそ、地域への感受性を研ぎ澄ますことができるのだ。それは三陸の道が教えてくれた、新たな自転車旅の楽しみ方だった。