女性のためのソーシャルバイクって? 東京サイクルデザイン専門学校

女性のためのソーシャルバイクって? 東京サイクルデザイン専門学校

毎年秋の恒例行事ともなっている、東京サイクルデザイン専門学校の「ソーシャルバイクプロジェクト」。学生が取り組んだのは今年もeバイク製作で、今回で3回目となる。発表される作品は年を追うごとにハイレベルとなっていることに加えて、今年のターゲットユーザーは「女性」ということもあり、男子学生ばかりのこの学年にとってはプレッシャーのかかる課題となった。それでも発表会に並んだ6台は、いずれも期待を裏切らない見事な出来栄えだった。ということで、さっそく各作品を見ていきたい。

青山・渋谷の坂道を女性にも楽しんでほしい

発表会の会場は、東京・渋谷にある東京サイクルデザイン専門学校の教室。今回のeバイク製作でも、昨年と同様に太陽誘電株式会社のユニットが学生たちに提供されており、設定されたテーマもユニットの特徴である「回生電動アシストシステム」を最大限に活用するものだった。

「環境と人に優しいニューモビリティの実現」をコンセプトに作られた回生電動アシストシステムは、下り坂などでブレーキをかけて減速した際、モーターを発電機として動作させることで、バッテリーへ充電することができるシステムのこと。これにより運動エネルギーの回収・再利用が可能となる。太陽誘電では、1回の充電による最大航続距離の目標を1000km以上としており、まさにニューモビリティの実現を予感させるユニットとなっている。

このユニットを1つの軸として、学生たちに与えられたのが、「アップダウン都市 渋谷・青山を走る」というもので、ターゲットユーザーはこのエリアで生活する女性。そのユースケースとして、「遊び」「デリバリー」「社有車」の3テーマが設定された。1つのテーマに2グループが取り組み、計6グループに分かれての製作となった。

「渋谷、青山は地名の通りアップダウンの多いエリアです。名前のついている坂だけで40はあるそうで、そうした地形は回生充電の特性を活かすことができると言えます。ただ、今年度は男子学生100%で女子学生がいないため、女性が使いやすいeバイクの製作は難しい部分があります。そこで、本学の他コースで女子学生たちにヒアリングを行い、さまざまな意見を伺いながらコンセプト作りや製作に活かしました」(学科担当の北島有花先生)

大勢の自転車メディアや業界関係者が見つめるなか、正面のスクリーンには学生たちのパワーポイントによるプレゼン資料が映し出される。では、いよいよ6台の力作たちを見ていこう!

Order1 デリバリー:運搬能力と航続性能の両立したバイク

モデル名:BAEDAL(ベダル)

ベダル

「普段使い」もできて、ファッションを邪魔しない「働ける1台」

韓国語のデリバリーを意味する「ベダル」をモデル名にした1台。学生たちはターゲットのペルソナを「20代女性、身長162cmでヨガインストラクターをしており、空き時間にデリバリーの配達員をしている女性」と設定。女子学生からのヒアリングで、「普段使いもできる」バイクを目指したという。
「フレームカラーは女性から人気の高かったアイボリーホワイトにして、跨ぎやすさと乗りやすさを考えました」
デリバリーのバッグはリヤキャリヤに置くようにしており、「前が重いとふらつきやすく、女性にも取り回ししやすいことを意識」したという。作りの面で一番苦労したのは、リヤ三角ならぬ、リヤ四角部分。シートステーがないのだが、よく見るとチェーンステーからリヤキャリヤ部分を通って反対側のチェーンステーまでを1本のパイプで仕上げている。
「三次元曲げに挑戦してみようということになり、だいぶ苦労しましたが、みんなで知恵と力をふり絞ってなんとかいいカタチになりました」
実用的であり、使う人のことをよく考え抜いた作品に仕上がった。

ベダルのリヤ部分
三次元曲げが施されたリヤ部分が、車体を特徴付けている。デリバリーでは車体から離れることも多いので、カギは使いやすい位置に設置
ベダルのリヤキャリヤ
リヤキャリヤの大きさは、配達バッグに応じて大小2サイズを用意している。また、木工で作ったチェーンケースがあることで、太めのパンツでも汚れを気にせず乗ることができる

モデル名:Foodie

フーディー

横から見たらシマリス? のようなかわいさと安定性で長時間ライドもOK

「食いしん坊」を意味するモデル名のデリバリーバイク。プレゼンでは、デリバリー業界のマーケティングから始まり、ターゲットの分析まで深く掘り下げていたのが印象的。そこから導き出されたのは、長時間乗っても疲れが少ないアップライトなハンドルと、フロントバスケットをフォークで支えるのではなく、ダウンチューブを延長して固定するためハンドル操作でブレない構造とした一台となった。

フーディーのバスケット
木工が得意なメンバーによるバスケット。Uberのリュックがすっぽりと収まる。ヘッドバッジにはモチーフのシマリスのイラストも
フーディーのダウンチューブ
ツインのダウンチューブの間にワイヤーハーネスがうまく収まっている。そのダウンチューブがフロント側に延長し、バスケットの受けとなる

Order2 遊び:都会ならではのフットワークの軽さと楽しさを感じるバイク

モデル名:TEa-bike

ティーバイク

休日のカフェ巡り。テイクアウトのドリンクを公園で楽しむ

つい出かけたくなる、ふっと立ち止まりたくなる、そんな瞬間を楽しく過ごせそうなバイク。休日のカフェ巡りをテーマに、テイクアウトしたドリンクを持って公園でくつろぐためにイスとテーブルが組み込まれている。発表では、「坂の下りで自転車が充電され、停車したときは持ち主が“充電”されるようなバイクにしました」とコンセプトをうまく表現していた。

ティーバイクに収納されている椅子
フロントバスケットに収納されている折り畳みのイス。ハンドルやサドルのレザーが、上品かつ高級感を醸し出す
ティーバイクのリヤキャリヤ
リヤキャリヤはテーブルとして利用できる。大ぶりのフェンダーやチェーンガードは、合板にニスを塗って木目調にした

モデル名:vivido

ヴィヴィド

狭い路地でも楽に乗れるキックボード的小径車

「新しい遊びのカタチ」を提案する1台。キックボードとしても使える小径車のため、雑貨屋巡りで細い路地もスイスイ進める軽快さがある。リヤタイヤは14インチと小さいが、前輪にモーターが内蔵されているため坂道でも楽に登れる。リヤ三角にあたる部分のパイプの曲げが特徴的でこのバイクのやわらかい雰囲気を作り出しているとともに、バッテリーを違和感なく収納することにも成功している。

ヴィヴィドのボード部分
ステンドグラスをイメージしたボード部分は、女性へのヒアリングから着想を得た。ダウンチューブに巻かれたレザーは、同学校のシューズ・バッグコースの講師からの助言もあり、おしゃれにワイヤーハーネスを収めている
ヴィヴィドのシートまわり
思い切ってシートチューブを無くし、丸みを持たせたデザインにすることで柔らかな印象に仕上がっている

Order3 社有車:誰に対しても乗車可能な安全なバイク

モデル名:C2-B2

C2-B2

仕事中の外出をスポーティーに、より快適に

コンセプトを「働く女性のための近未来的な自転車」とした1台。まず目を引くのがフレームを横断するアルミのプレート部分だが、その目的は近未来感を出すことと、バッテリーユニットを隠すこと。このバイク、通常は縦置きされるバッテリー部分をトップチューブに沿わせるように横置きするという意欲的な試みをしている。今回の発表会では唯一、スポーティーな雰囲気をまとう作品となった。

C2-B2のトップチューブ
トップチューブ部分を分割して、そのスペースを前カゴとバッテリーユニットの収納としている
C2-B2の駆動部分
バッテリーユニットを上部に置いたため、駆動部分となるBBも上部に。そのためチェーンリングを上下に2つ配置して連結。またチェーンステーは、ワイヤーにしてスッキリした見た目にした

モデル名:tokale

トカレ

女性がアクセサリーをつけるように、オシャレに乗れる

一般的な社有車にありがちな「地味」「悪目立ち」というイメージを払拭し、「移動をファッショナブルに」を目指した。ヒアリングから、「機能よりデザイン」「またぎやすさ」をデザインのポイントとして、ダウンチューブをグイッと曲げてまたぎやすく、曲線的な見た目とした。上下に溶接されたシートステーが、デザインアクセントとなっている。カナリアをイメージしたイエローとのツートンカラーがスタイリッシュな印象を与える1台。

トカレのフロントライト
ダウンチューブの先に埋め込まれたLEDライト。ちなみにダウンチューブは曲げ加工した2本のパイプをTIG溶接でつなぎ合わせているのだが、溶接痕はポリッシュされて目立たない
トカレのシートステー
溶接箇所が縦に並んだシートステー、実は時間がなかったゆえの苦肉の策だそうだが、結果的に面白い見た目となっている

講評 難しい課題を見事にカタチにした彼らの将来が楽しみです

与えられたテーマに対して、ヒアリングによるコンセプトの設定から、それを形に落とし込むデザイン力、そして1台のバイクに仕上げる技術力とチーム力によって、今回もオリジナリティあふれる6台が発表された。

最後に学科を担当した北島先生が、学生たちの取り組みについてこう講評する。

「学生たちはこの学年に限らず『自分が作りたいものを作りたい』という欲求が強いため、課題の当初は正直、後ろ向きな姿勢だったように思います。ところがヒアリングをしたり、テーマについて考える時間が増えると、次第にフレームの原石となるものをいくつもピックアップし、それをまとめてデザインにするなど、グループ内の役割も決まっていきました。

今回はeバイク製作も3年目ということもあり、ハードルは高くなりました。そうした中、講師も素晴らしいと思えるアイデアも多く、限られた時間のなかで初志貫徹した彼らを誇らしくも思い、また尊敬します。

現在の自転車を取り巻く環境として、単にパイプの切削やろう付け技術で語れるものではありません。要望を汲み取るコミュニケーション能力、それを具現化する技術力、そしてそれを伝えるプレゼン能力が必要です。今回のソーシャルバイクプロジェクトでは、どのグループもそれがしっかりとできていると感じました。そんな彼らの将来が楽しみです」

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