これまで以上に意欲的な6台が出そろった東京サイクルデザイン専門学校の恒例企画「ソーシャルバイクプロジェクト」。今回のテーマは「アクティブシニア層」。学生のチームワークが結集した名作たちを紹介する!
会場となった東京・渋谷にある東京サイクルデザイン専門学校の4階教室。プレゼンを待つ6台のバイクの前には、業界関係者がずらりと並ぶ。いつになく緊張感が漂う中、今回も名物企画「ソーシャルバイクプロジェクト」の発表会が始まった。
今回も前回に引き続き、太陽誘電の電動アシストユニットを使用したeバイクを制作する。ターゲットは、「アクティブシニア層」。バランス感覚、体力に多少の不安はあるがまだまだ元気な60〜70代である。若い学生にとっては、ターゲットのニーズを探る難しさがある。そのため初の試みとして、リアルターゲットとなる3人の紳士が企画に加わった。まずは、ターゲットをよく知るためのヒアリングからプロジェクトは始まったという。
「3人の協力者に対して2班ずつ、学生たちは質問者、書記、プレゼン向けの撮影係などの役割を分担して、身体の計測から持病、体力、さらには趣味なども掘り下げていました」(学科担当の北島先生)
発表会後、お披露目されたバイクに乗るアクティブシニアな3人が、孫ほどの年齢の学生たちとバイクを前にあれこれ談笑しつつ、大きな笑顔でバイクを走らせていた姿がとても印象的だった。
発表会で学生たちはパワーポイントを使い、企業のプレゼンさながらにターゲットや市場の分析を展開し、とても納得感のあるプレゼンを披露して来場者を驚かせた。その自信作をご覧いただきたい!
Order1 鈴木さんモデル:スポーティーな雰囲気と積載能力を両立
モデル名 RAKUDA
コンセプトは「移動も買い物もラクだ」というこのバイク。ラクダをモチーフにしたヘッドバッジに、どこかラクダのコブのような曲線を多用したフレーム、前後のキャリヤの積載量、そしてフレームカラーのメタリックサンドベージュと、ラクダをアピールしながらもニーズをしっかりと汲み取った一台に仕上がっている。フロントのタイヤサイズを20インチにしたことで、荷物を積んだ際にも安定するように設計されている。
モデル名 KAAGO
ティファニーブルーの鮮やかな車体は一見、シニアのイメージらしくないが、「シニアの方も明るい色が好みということが分かりました。それに買い出し先のスーパーの駐輪場でも見つけやすいんです」と明確に答えてくれた学生。フロント29インチに対し、リヤは26インチ。このチョイスについては、「段差の乗り上げに恐怖を感じるとのことで前を大きく、でもリヤは車高を抑えたいので26としました」と説明してくれた。
Order2 櫻井さんモデル:現役アスリートシニア向けのスポーティなモデル
モデル名 A(エース)
車体を横から見ると、シート下に「A」というモデル名が浮かび上がっているのが分かる。セカンドライフをスポーティに過ごしたいというターゲットのために、電動のアシスト力をあえて弱めることで、ペダルを踏む自転車本来の楽しさを味わう余地を残すあたり、潜在的なニーズをうまく捉えた。トップチューブの美しい曲線は、二人がかりで手曲げしたもの。
モデル名 ES-1000A
モデル名のEはエレクトリック、Sはシニア、Aはアクティブで、普段、スポーツをするターゲットのセカンドバイクとして、乗り心地に配慮された一台。腰の痛みが出ないように体を起こして乗るべくハンドル位置は高く、ステムを前後30mm動かせるので乗り味も変えることができる。フレームの前三角にはストレージを設けているので、普段使いもしやすい。
Order3 黒沢さんモデル:レトロな雰囲気もありつつスポーティーに
モデル名 Cocle(クークル)
クールなアンクルで「Cocle(クークル)」。市場調査をするとシニア向けバイクは丸みを帯びたデザインばかりということに違和感を覚え、フレームに角材を用いてシャープな一台に仕上げた。ホリゾンタルでありながらハンドル位置は高く、前傾姿勢はきつくなく乗りやすい。角材にはめ込まれたフロント/リヤライトは3Dプリンタで制作している。
モデル名 Electric Klunker
MTBの生まれる前、70年代にアメリカ西海岸で乗られていたクランカーをシニア向けのeバイクとして提案。クラシカルでありながらスピード感も感じさせる車体は直進安定性も高く、また太いタイヤでより安心感も増す。私服で乗れるスポーティなバイクは、温故知新な一台となった。
講評
東京サイクルデザイン専門学校 北島有花先生:学生たちの成長が見える課題でした
今回のターゲットは学生にとっては想像しづらいなか、丁寧なヒアリングと独自の調査によって、どの班も素晴らしいコンセプトを導き出しました。また、大人であってもグループワークは難しいものです。学生たちは、より良い方向を模索するためにぶつかりながら、時に不満を飲み込み作業を進め、いつしかそれぞれの役割を見出して完成させました。たった2年半で技術も対人能力も発信力も成長しました。それが見えた課題でした。
太陽誘電 保坂康夫さん:今の時代にとって面白い自転車
我々の電動アシストユニットが求める「省エネ・安全・安心」性能と、デザインにおける学生の感性が融合した、乗りやすいけれどもオシャレで尖ったイメージというコンセプトは、今の時代には面白いのではないかと思いました。また、シニアの方は仕事から離れ、社会的に孤立感を感じることもある一方で、社会貢献の意欲も高い。今回のプロジェクトで、社会に貢献しつつ、健康増進に役立つ自転車の方向性が示されたような気がしますね。