フードデリバリーサービスのひとつウーバーイーツ。コロナ禍において、多くの飲食店のテイクアウト事業を助け、また在宅時間における食事の需要を満たすサービスのひとつとして急速に成長した。
しかし、その一方で配達を担当する提携配達員による、配送中の走行が問題視されてきた。運転技術の未熟さや、交通規則を守らないなどの問題に対し、その解決策として、ウーバーイーツは日本のサイクリング文化を育ててきた公益財団法人日本サイクリング協会(JCA)に助けを求めた。2021年2月にウーバーイーツはJCAとの業務提携を発表し、そこには配達パートナーに対して自転車講習会を実施する旨が明記されていた。その第1回目の講習会が6月6日に開催された。
東京の神宮外苑、銀杏並木通りで自転車講習会
当日会場には33人の配達パートナーが集合。男性女性、年齢も幅広く、遠くは千葉県から自走で参加した強者もいた。使用している自転車も、いわゆるママチャリから小径車、eバイクにMTBと実に様々だった。
講習会では、座学よりも、実際に自転車に乗って安全走行に必要なスキルを身につけるための実技を中心に行われた。
講師として招かれたのは、京都府美山を拠点に全国で子供向け自転車教室「ウィーラースクール」を開催するブラッキー中島さん。自転車大国ベルギーのメソッドを日本に合うようにアレンジした講習会は有名だ。普段は子供向けに行われている講習を、ウーバーイーツ配達パートナーである大人向けにアレンジした内容で行われた。
安全に配達をするためには、自転車の操縦技術を自覚することが大切ということで、自分の自転車を使って1本橋や8の字走行、ボトルキャッチ、スラローム、集団走行といった自転車の動作を理解するための5項目を体験した。
自転車の操作技術を身につけるための5項目
一本橋では、地面に敷かれた板の上から落ちないように走行する。途中で後方確認を想定して1度振り向くことが求められた。このとき、どうしても自転車がふらついてしまうが、それがどれくらいふらついているのかを体験してもらう事が、この講習のポイントとなる。自分ではそれほどふらついていないと思っていても、板という基準があると意外に自転車がぶれていることを自覚できるのだ。
続いては、地面に並んだカラーコーンをなぞるように8の字走行。使っている車種によって全長が違うので、難儀している参加者も見受けられた。自分の自転車がどれくらい小回りが利くのか、またバランスを取りながら低速で曲がっていく感覚をつかむ。
路上を走行する際に、車に対して意志を伝えるためにハンドサインを出す。その時には片手運転になるわけだが、その状態でもバランスをとるための練習がこれ。スタッフからペットボトルを受け取り、その先でターンして戻ってきてまたスタッフにペットボトルを返す。ペットボトルを持っている時には片手で自転車を操作することになる。乗り慣れている人は地面に置いてあるボトルを拾って、また地面に置くという上級技も。難易度は高いので、無理のない範囲で挑戦していた。
等間隔にならんだコーンをスラロームで抜けて行く。ハンドル操作はもちろん、使っている自転車のペダル位置や後輪の位置を把握していないとコーンにぶつかってしまう。
集団走行は、走りながらのコミュニケーション力を養う
この日最後の講習項目は集団走行だ。普段は個人個人で食事を配達しているウーバーイーツの配達パートナーに、集団走行が必要なのか? この目的は走りながら周りの状況に目を配り、コミュニケーションを取ることにある。路上に出れば車やバイクなど、他の交通と共存しなければならない。そのためには、走りながら自分の周りの状況を把握する必要があるのだ。集団走行は、前後左右の人との位置関係を把握し、安全に走行するための意識を身につけることができる。
配達パートナーのために、これからも講習会を続けていく
講習会を終えて、武藤代表は「東京では今後も定期的に講習会を開いていく。今回、参加してくれた人は安全意識が高い人。講習に参加した人が徐々に増えていき、その受講者から安全意識が広がっていくことを目指している。またwebでのセミナーを受けてもらえる体制を整える。今後は全国で展開していく予定です。新しく『バースデーケーキクオリティー』というキャンペーンをスタートします。配達しているその一つ一つがバースデーケーキのように特別なものであるという意識をもって配達してもらうためのキャンペーン。いつもの配達かもしれないが、それが誕生日ケーキだと思って運んで欲しいというもの」
安全意識が低い配達パートナーがいることに対しては「講習会の回数を増やすことで配達パートナーが安全意識の高いコミュニティになっていく、そういう意識に変わっていくと思っている。地道に続けていくつもりです」と語った。
講習会を続けていくことによる、波及効果に期待
「今日参加してくれた配達パートナーの方々は、安全に対する意識が高いですし、走行スキルもある程度のレベルにある人たちばかりでした。この講習を受けた人たちから他の配達パートナーへと安全運転の意識が波及していくことが大事。
その核になるのが、今日講習を受けてくれた方達。講習会の回を重ねることで、その波及効果が強まっていくと思っている。また、日本フードデリバリーサービス協会という13社が加盟する業界団体もあり、そこで安全安心な配送に必要なことは何か話し合われている」
より安全への意識を強くした
「普段はミラーを見て、後方確認をするようにしているが、今日改めて一本橋で振り返る練習をして自分がどれくらいブレているのかを実感した。自分の運転技術レベルがまだまだなところを理解したので、今後の配送に生かしていきたい」