松野四万十バイクレース 国内eMTBレースの最高峰

松野四万十バイクレース 国内eMTBレースの最高峰

楽して上って、楽しく下れる。それがeMTBのメリットなのだと、当サイトでは幾度となく記事に書いてきた。しかし、そのeMTBを、よりつらい方向で楽しみつくすレースが2023年11月5日(日)に四国で開催された。

その名を松野四万十バイクレースという

愛媛県南部の松野町と宇和島市、そして高知県四万十市をまたぐコースは、この大会で特別に通行が許可される国有林の中を走る林道と、舗装路をつないだエキサイティングなもの。未舗装率は約50%だ。元々は人力のMTBのみで開催されていたレースだが、今年からeMTB部門が新設されたと聞き、eBike Japan編集部も参戦してきた。

過酷なコース、そして携帯の電波が通じない区間が多くあるので、チームでの参加が規定されている。愛媛のチーム山鳥レーシングから山本秀明さん、浅田知寿さんが編集部中島をチームメイトに迎えてくれた(写真左から)。お二人は人力でもこのレースを完走した経験をもつ

コースは3種類。41.1kmのチャレンジクラス、98.3kmのアドバンスドクラス、そして最長128.2kmのアルティメットクラスだ。我々のチームは一番長いアルティメットクラスにエントリー。何より心配されるのは、バッテリーの容量だ。この距離では、さすがにバッテリーが途中で切れてしまうので、アルティメットクラスでは、途中3回充電のチャンスが用意されている。

アルティメットクラスのコースマップ(大会パンフレットより)。VCと書いてあるポイントが充電スポットだ

ちなみに、今回の参戦のために借りたジャイアント・トランスE+プロは、500Whのバッテリーを搭載しており、これをフル充電するのに4時間を要する。上りでアシストをたくさん使ってしまうと充電ステーションにたどり着く前にアシストが効かなくなってしまう。また、満充電されるまで充電スポットで止まっていると、今度はレースの制限時間に間に合わない。アシストパワーのマネージメントと、充電にかける時間を、次の充電スポットまで持つ最短で切り上げるようなペース配分がカギを握る。体力と知力が問われるレースなのだ。

相棒はジャイアント・トランスE+プロ。27.5インチのホイールに、太さ2.6インチと太目のブロックタイヤを履く。前後にサスペンションを搭載しているので、オフロードでも人力のペダリングパワーとモーターのアシストパワーを効率よく路面に伝える。長丁場のレース参戦に合わせて、ボトルと補給食を入れたトップチューブバッグ、工具が入ったサドルバッグを装備した

日の出前、冒険へ出陣

まだ夜も明けない午前5時。参加者たちがスタート地点である道の駅虹の森公園まつのに集まってきた。ほとんどが人力のMTBでの参加者だ。eMTBの参加者はアルティメットクラスに3チーム、アドバンスドクラスに1チームとのこと。そして5時半、暗闇の中ヘッドライトの明かりを頼りにスタートした。

チームでまとまって走る。お互いの体力やバッテリー残量について声を掛け合いながら行く

序盤の勾配が緩い区間は人力バイクのほうが速いが、上りがきつくなるとeMTBの本領発揮だ。暗闇の中でモーターが唸りを上げる!まわりの人力ライダーからの羨望の眼差しが心地よい。と、余裕のように思えるかもしれないが、そう話は簡単ではないのだ。「我々は充電時間分のタイムを稼いでおかないと」と浅田さんから檄が飛ぶ。

充電が切れたeバイクは、舗装路ならまだ走れるが、オフロードともなると、その重量ゆえにとてもじゃないけど走れたもんじゃない。アシストレベル1でも十分パワフル。ちなみに最初の充電スポットまで約70km。

朝焼けが美しい滑床林道をゆく
最初のフィードゾーン鹿のコルで、通過のチェックを受ける。チーム全員がそろっていないと失格だ
エイドステーションはレース中の大きな楽しみ
山中で食べる焼きそばは格別だ
コース周辺の名物、鹿肉のソーセージは人気の補給食

充電が切れた!

日が昇ってきて徐々に気温が上がってきたのに合わせて、コースの難易度も上がっていく。ダートセクションの道幅は軽トラックが1台ギリギリ通れるくらい。浅田さんと筆者はフルサス。山本さんはハードテールのバイク。バッテリー残量を共有しながら進んでいく。バッテリー消費量においては、重量面で有利なハードテールに分があるかと思ったが、以外にも最初にバッテリーに赤ランプが点灯したのは山本さんだった。ダートの登坂で、モーターのアシストで荷重移動をしっかり意識しないと、リヤタイヤがすべってしまいロスしてしまったかもしれないとのこと。

松野四万十バイクレース2023
松野四万十バイクレース2023
コースにはリバークロスセクションも。この日は水量が少なかったので走って渡れたが、水量が多いと、モーターが水没してしまうくらいの深さになるらしい

最初の充電スポットに着く前、最後の上り区間の途中でついに、山本さんのバッテリーが切れてしまった。人力のみでどうにかクリアして、這々の体で玖木の充電スポット&エイドステーションに到着。山本さんはパンクのオマケ付きだ。

松野四万十バイクレース2023
ハンドルにあるバッテリー残量を示すインターフェースには赤ランプが点灯

山本さんはここでかなり体力を持っていかれてしまった。充電で約40分停車。その間に、ここまでに抜いて来た人力ライダー達の一部に抜かれる。

脚はアシストのおかげでそこまで疲れていないが、バイクを制御するために上半身を知らず知らずのうちに使っていて、結構疲れがたまっているのを感じる。下りセクションでバイクを押さえるのがやっとだ。

松野四万十バイクレース2023
充電中
松野四万十バイクレース2023
充電を待っている間に、メカニックサービスにパンク修理をお願いした。ありがたや

eMTBでも上れない坂

次の充電スポットまではひと山超える25km。それを逆算して、半分ほど充電したところで出発。ひと山だけなら、ここまでの69kmに比べたら余裕と思ったが、ここの上りは通称「奴隷坂」と呼ばれるとんでもない急勾配。人力クラスの選手たちはほとんどが押して上るような急勾配だ。eMTBとて、その勾配と、路面の悪さで、スリップしてしまい、一度足をついてしまうと、再発進ができないという有様。

松野四万十バイクレース2023
その勾配は、もう壁同然だ。バッテリー残量が心許なかったが、そんなことは言ってられないので、アシストレベルをアップ
松野四万十バイクレース2023
勾配のあまりのきつさに、eMTBでもバランスを崩すとこの有様
松野四万十バイクレース2023
コース上に鎧武者まで出てきて、疲れと相まってカオスが深まっていく

2つ目の充電スポットである松野南小学校までに筆者のバッテリーはまた赤ランプ(浅田さんのバッテリーは余裕)。また30分ほど充電して最後のセクション目黒林道を走破した。最後の充電ポイントでは、この先に舗装路しかないので少々の充電で出発し、10時間40分でフィニッシュ。参加したカテゴリーで完走できたのは我々だけだった。自分のようなMTB素人が完走できたのは、何より素晴らしいチームメイトおかげだ。感謝を申し上げたい。

松野四万十バイクレース2023
ついにフィニッシュ! 我々を迎えてくれたのはムービングマスク隊。水鉄砲や駄菓子やバナナを持ってコース上あちこちで参加者に絡んでくる野生動物たちだ

浅田知寿さん「マネージメントがカギ」

とにかく楽しかったですね。バッテリーマネージメントが重要だなと感じました。下りではオフ、上りでもすぐにアシストに頼らないで、踏めるところは自分で踏む。アシストに頼るところは頼る。チームでお互いの状況を相談しながら走るのも大切です。

山本秀明さん「いやー、疲れました」

とても良い経験でしたし、面白かったです。自分はハードテールのeMTBだっったので、タイヤの空気圧セッティングがシビアでした。グリップは欲しいけれど、下げすぎてパンクしてしまいました。バッテリーはチャージできても自分の体力ゲージは戻らないのがつらいところでした。

松野四万十バイクレース2023
唯一の完走チーム=優勝! ということで、初開催のeMTBクラス、初代チャンピオンになりました! 松野町坂本町長から賞品の新米30kgをいただく

自分の体力に加えて、バッテリーもマネージメントするという新しい自転車遊びの道が開けそうな予感がした。

開催日:2023年11月5日(日)
開催地:愛媛県松野町、高知県四万十市
主催:松野四万十バイクレース実行委員会

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