サイクリング中における「他の交通との関わり合い」という話題に対してはそれぞれに思うところもあるだろう。そしてその多くがあまりいい内容ではないと思う。
だけど「同じ道」を使うもの同士、道路上での軋轢なんて不要なことで、誰も本音の部分でストレスなく道路を走れることを望んでいるだろう。
こうした状況について、これまでも多くの意見や取り組みがあったと思うが、今回紹介するイベントは呉越同舟から相互理解に発展したと言える画期的なもの。それが長野県の大鹿村で開催された「大型車両とサイクリストの集い」と言うイベントだ。

この「大型車両とサイクリストの集い」は日本を代表するサイクリスト福島晋一さんの企画。福島さんは日本だけでなく海外でも活動経験が豊富だが、世界を見てきたなかで感じていたのが道路上での大型車両とサイクリストの関係性があまりよくないこと。
そこで自転車の楽しさを広めるために活動する福島さんが提案したのが、大型車両のドライバー、そしてサイクリストがお互いの乗り物を体験し、話ができる場を設けて「相互理解」を深めるというもの。そしてこの企画に賛同したのが長野県下伊那郡大鹿村の大鹿村観光協会だった。

現在、大鹿村周辺ではJR東海によるリニア中央新幹線の工事が進行中のため、周辺道路はダンプカーの往来が非常に多くなっていて、まさにサイクリストとダンプカーの関係性について考えるべき場所でもあった。そんなタイミングで提案された「大型車両とサイクリストの集い」は状況にマッチ。大鹿村や事業を進めるJR東海側、ダンプカーを走らせている地元企業からも協力が得られることになった。そして2023年5月27日に大鹿村にて「大型車両とサイクリストの集い」が開催されたのだ。
ちなみに大鹿村周辺のリニア中央新幹線事業で走行している工事車両には、JR東海から走行マナーの指示がしっかり伝わっている。特別この地域の交通に問題があるから大鹿村で開催したわけではないことを、本題に入る前にお伝えしておこう。



第1部/JR東海による交通安全教室
「大型車両とサイクリストの集い」は大型車両(今回はダンプカー)とサイクリストが、お互いの乗り物を交換することで、それぞれの乗り物や走り方の特徴を知り、その印象から本来の乗り物に戻った際、自身がどのような対応をしたらいいのかを考えてもらおうと言うもの。
イベントは第1部と第2部に別れていて、第1部は地域住民の方も参加するJR東海による交通安全教室となった。ここでは用意したダンプカーの運転席に参加者が座り、目視及びサイドミラーなどで周辺を確認。ダンプカー側の視界を体験してもらうというものだ。









第2部/実走体験 相互理解の会
第2部はダンプカードライバーとサイクリストがそれぞれの乗り物を入れ換えて、お互いの状況を知ると言うメニューとなる。「大型車両とサイクリストの集い」におけるメインイベントだ。
ダンプカードライバー側は用意したeバイクに乗車し、ダンプカーの往来が多い県道59号線(ふだん皆さんが仕事で走っている道)を、福島さんを始め大鹿村側の自転車に慣れた人が先導し、20kmほどの距離を走行する。体験走行としては少々長めの距離設定だがこれは自転車側目線でダンプカーや他の交通との関わり合いを知ってもらいつつ、この機会に自転車の楽しさも味わって欲しいという福島さんの思いも含まれるものだった。
そしてサイクリスト側は共催の大鹿砕石さんが用意したダンプカー助手席に乗車。ダンプカー目線でふだんの自身の状況を客観的にみることや、ダンプカーの走行特性やドライバーがどのような操作、気づかいをしているかを知ってもらうという内容だ。
ちなみに大鹿砕石さんでは、日頃から道路上での自転車との共存について気を配っているので、今回の走り方は本当に「ふだんどおり」とのことだ。








ルートになった県道59号線は谷沿いの山あいに沿って通るので道幅は細くカーブやトンネルが続くが、こうした状況でダンプカーが自転車を抜くには見通しのいい直線区間などに限定される。
そこで今回もルート上にある数少ない直線区間で追い越しがあったのだけど、ここで注目したいのはダンプカーが自転車を安全に抜くには、車体の半分以上をセンターラインよりはみ出させなければいけないということだ。自転車に乗っているとダンプカーがどれくらい右側に寄っているかわかりにくいものだけど、写真を見てわかるように道路幅によってはほぼ反対車線を走るような、ダンプカー側に高いリスクを負わせる状況になっていた。






意見交換会
全車がトラブルなくゴールまで帰ってきた。その後は大鹿村交流センターという施設の会議室での意見交換会だ。会では参加した全員が感想をコメントしたが、記事ではサイクリスト、そしてダンプカードライバーのコメントに絞って紹介していこう。

ダンプカーの目線で自転車のことを見ることができました。参考になることが多くありましたが、とくにダンプカー側が自転車に対してとても気を使っていることがわかりました。トンネル内では自転車が見えにくかったので、より注意して運転をしていました。それでいて前からも後ろからもクルマが来るという状況だったので、ドライバーさんは大変だったと思います。こうした運転を見せてもらったことで改めて“お互いが気を使うことは大切だ”と感じました

外から見るぶんにはダンプカーと言えども道幅に対して余裕があるように感じていましたが、助手席から見るとそんなことはなくて、道幅いっぱいで走っている印象で、ふつうに走るだけでも大変そうです。それにダンプカー視点では自転車の姿は見えやすいものではなかったです。そのために私たちはライトなどで存在をアピールしますがそれだけではなく「相手から自分がどのように見えているだろうか」という点も考えながら走ることも大切だと思いました

私もクルマで自転車を抜くことはあるので、似た感じかと思っていましたがまったく違いました。視点が高く車幅もあるのでそもそも自転車は見えにくいです。それに路面の荒れがあると車体が大きく揺れるので追い越しができる区間であっても抜くことが大変そうでした。そんな状況を知れたのは今後の参考になります。あと、気づいたこととしてテールライトは取り付けが低い位置だと付いていてもわかりにくいことです。だから付ける際は大型車の運転席からも見えやすい高い位置がいいですね

今回はダンプカーのドライバーさんと一緒に自転車に乗りました。私は大鹿村が好きでよく来ます。たしかに工事車両の往来は多いのですが感じるのは「気を使ってもらっているな」というものです。こちらを抜くにしても無理はせずに抜けるところまで待ってくれます。そして手をあげると挨拶も返してくれます。そんなことからこの周辺は安心して走れる道路だと思っています。これを期にそれぞれに今以上の譲り合いの気持ちが生まれたらいいと思っています

いつもは大型ダンプカーに乗っています。自転車は10年ぶりくらいに乗りました。久しぶりに自転車に乗って感じたことは目線が低くいことです。そのため大型ダンプカーがより大きなものに見えたし、自分が乗っている自転車の近くを大型車両が通過するときには大きさ、音、風などからこわさを感じました。これまでの運転でも自転車を抜くときには注意をしていましたが、今回の経験からもっと自転車を意識して運転していこうと思いました

今回のイベントで自転車側の立場を経験したことで、ダンプカーなどに抜かれる際は怖い思いをしていることが理解できました。ダンプカーが近づいてくるときの音を含めた威圧感は考えていた以上のものでした。ふだんの運転も気を配っていますが、これからは自転車との間隔にもっと余裕を持つなどしていきたいです。いい経験になったので会社に帰ったら他のドライバーにも話をしたいと思います

正直なところ、自転車の人達の気持ちはよくわからないのものでしたし、自転車を邪魔と思うこともありました。だけど今回、いつも仕事で通る道を自転車で走ってみるといろいろ感じることが多かったです。ダンプカーが迫ってくるときの威圧感だけでなく、抜いていくときの風が強いこともわかりました。今後は自転車との間隔を今までより広く取りるなど、余裕を持った運転で対処していきたいと思いました


以上が長野県大鹿村で行われた「大型車両とサイクリストの集い」の内容だ。ずいぶん長い記事になってしまったが、そうする必要があるイベントだったと思う。
そして最後に福島さんは「サイクリングに行けば我々自転車同士は挨拶で手をあげたりしますが、大型車両とはそういうコミュニケーションはありません。でも、今回のような取り組みがきっかけとなって、サイクリストとダンプカーのドライバーさんがお互いに挨拶し合うようになれたらいいですね。今回は大鹿村で開催していいただきましたが、希望としては全国各地でやってほしいです。こうした活動は交通事故の件数も減らせるだけでなく、自転車が好きになって乗ってくれる人も増えると思います。大型車両とサイクリストの相互理解が進むと“いいことしかない”ので、こうした活動が広がってくれることを期待します」と結んだ。