ソフトバンク系列の交通サービス企業「OpenStreet株式会社」では、2016年から電動アシスト自転車のシェアリングサービス「HELLO CYCLING」を展開している。
このサービスは鉄道会社やバス会社などとの連携に加えて、115もの自治体との連携協定を締結することで人の集まる場所にシェアサイクルステーションを設けるもので、現在は全国の7400か所にステーションがあり、利用者数も295万人という日本国内で最大級のシェアサイクルプラットフォームとなっている。
そんな「HELLO CYCLING」は国内初となる「特定小型原動機付き自転車(以下特定小型原付)」の座り乗りタイプ車両を使うシェアリングサービスを2024年1月30日より開始することから、メディア向けに発表会、及び試乗会を開催した。


電動サイクルの車体をチェックする
それでは発表された電動サイクルについて紹介しよう。シェアリングサービスで使用する車両は車体メーカーと共同開発したもので、特徴は「サドルに座り、左右のステップに足を載せる」という自転車やオートバイのように乗り慣れたスタイルで乗車ができるところ。



自転車とは違う、特定小型原付
今回シェアリングサービスに使用される電動サイクルは日本自動車輸送技術会 性能等確認認定制度を取得しているもので、最高速度は車道専用モードで時速20km。歩道を走るときのモードで時速6kmに制御される(切り替えは手動でのボタン操作)。
車体サイズは全長が1280mm、ホイールベースは900mm、タイヤは14インチ×2.125。駆動方式はリヤハブ一体500Wモーターの後輪駆動でバッテリが満充電時の走行距離は約40kmとなっている。
ほか、車道も走る車両なのでヘッドライト、テールランプ、ブレーキランプ、ウインカー、ホーン、そして特定小型原付に義務付けられている最高速度表示灯(ウインカー部が兼ねている)を備えている。





ほか、ポイントになるのが走行安定性に関して。電動サイクルと電動キックボードは車体の作りがまったく違うので単純な横比較はできないが、ハンドルと前輪をつなぐ軸が路面に対してどんな角度になっているか、というところからハンドリングの傾向は見える。
このハンドルと前輪をつなぐ軸の角度をキャスター角というが、2輪4輪問わず「キャスター角が立っている」設計であればハンドリングがクイックになる。そして「キャスター角が寝ている」設計は直進性が高くなるのだが、電動キックボードの多くは前者なのでクイックに動ける反面、直進安定性は犠牲になる傾向(フラつきやすい)。
それに対してOpenStreetが運用する電動サイクルはキャスター角が寝ているので直進性がある。加えて14インチタイヤを使っていたり、座って乗るタイプゆえ、乗車時の重心位置は低く、サドルやステップで車体をホールドできるのでハンドルを握る手に余計な力が入りにくいことから電動サイクルは走行時の安定性が高いと言えるのだ。


安全に利用するのに必要な整備や保険について
つぎにメンテナンスについて。シェアサイクルは公道を走るものなので安全、安心の利用ができるようにするために定期的なメンテナンスは欠かすことができない。
そこで「HELLO CYCLING」のメンテナンス事情を聞いてみたところ、車両が配置されているステーションには定期的な巡回を行い車両のチェックや修理を行うとのこと。また、年に1度、資格を持つ自転車整備士による整備(TSマーク制度と同等の整備内容)に相当する定期点検を行うことを決まりとしているそうだ。
もうひとつ、公道を走る以上、事故に遭う危険性はあるので保険について聞いてみたところ、登録時に加入する自賠責保険に加えて、自動車保険(任意保険)にも加入しているので、搭乗者への補償のほか、対人、対物についても補償の範囲内で対応できるとのことだった。

電動サイクルに乗ってみた
今回は私有地内での簡単な試乗の機会が設けられていたのでその点も触れておこう。なお、こちらは「HELLO CYCLINGアプリ」を通じて、レンタルの予約、受け付け、料金の支払い、車体のロック解除などができるが、本稿はそのやり方については割愛するので「HELLOCYCLINGアプリ」についてはWEBページを参照してほしい。なお、HELLO CYCLINGでの電動サイクルシェアリングサービス利用料金は15分200円、4000円で12時間という設定だ。


まずはポジションから。車体は小さいしフレームの位置も低いので、足を高く揚げてまたがる必要はなく乗り降りはしやすい。
サドル高は調整できポストをいっぱいに上げた状態であれば男性でも窮屈な感じはないし、漕ぐことがないのでサドル高の設定は足付きをメインに考えてあわせればいいだろう。サドル高はかなり下げられるので身長が小さめの方であっても足付きの心配は不要だと思う。
ハンドルの高さは調整できないがサドルをいちばん上げた状態でも低いと感じることはなかった。


いよいよ試乗。最初は車道走行モードで乗ってみた。スロットルは右グリップの内側(グリップシフター操作部分と同じ位置)にあり、手前にひねると加速、戻すと減速という具合。スクーターやオートバイの運転経験があれば右手をひねって速度を操作することは慣れているだろうが、そうした経験がないと操作に不安を感じるかも知れない.だけど心配は無用、すぐに慣れると思う。
さて、電動車ではモーターの特性上、初速から「ドン」と加速するものもあるが、この車両はそんなこともなく「スルスル」という感じで発進。その後の車速の伸びもスムーズなので動力が付いた2輪車に慣れていない人でもすぐに適応できそうな感覚だった。
トップスピードは時速20kmなので速さを感じるものではないが、速度が出ていれば直進安定性も高まるので安定した走行ができた。このへんは「座っている」「足を横に広げて乗るステップ式でバランスが取りやすい」といった効果が多いに感じられる部分だ。

コースにはカーブさせる区間もあったが感覚としては自転車でカーブを曲がるのと同じ。そしてブレーキは前後ディスクブレーキと頼もしい仕様なのだが、かなり大径のディスクローターが付いていたので乗る前は「効きが強すぎないか」と言う懸念もあった。
しかしそれは杞憂で操作してみるとブレーキレバーを握る力に対してリニアな効き具合。これならブレーキを握った途端「カツン」と効いて転びそうになったりすることはないだろう。


つぎに歩道走行モードに切り替えてみた。なお、走行モードの切り替えは停止状態でしかできないようになっているので、モードを変えるため一旦停止。そして再スタートしたが、時速6kmは人が早歩きをした際と同等の速度なのでバランスを取って乗る2輪車ではフラつきやすい印象。自転車での低速走行と同様に意識的にバランスを取りながら乗ることになった。そのため歩道で歩行者を避けたりとハンドルを大きめに切る場合は、フラつきに対してちょっと注意が必要かもしれない。
とはいえ、このへんは電動サイクルの性能とは関係なく、状況に法規の内容がマッチしていないためだと思う。ただ、車体は軽くて足付きもいいのでフラついて足を着くようなシーンがあっても慌てることなく対応できるだろう。

なお、特定小型原付は車道を走れるのにヘルメットを被らないでも乗ることができるのだが、ここはやっぱりノーヘルでの利用は勧めない。ヘルメット着用は自分の身を守るためであるのはもちろん、ヘルメットがないゆえ余計にダメージを負ってしまうと「事故相手の責任も余計に高めてしまう」という事象も考えに入れ、ヘルメット着用はぜひ実践して欲しい。

地域の交通課題を解決するという利用法
発表会ではOpenStreet株式会社代表取締役社長CEO 工藤氏からサービスについての説明があったので、そのなかからポイントになる部分にも触れておこう。工藤氏は「今回発表する車体は電動キックボードと同じカテゴリーの特定小型原付ですが電動キックボードではなく、国内初の着座タイプであり、その車両をシェアリングするサービスとして開始するというところがポイントとなります」と切り出した。そしてこのサービスを進める理由として挙げたのが「HELLO CYCLING」を都心のラストワンマイルの移動だけではなく、住宅地を含めたより広い範囲での移動課題の解決につながるものと考えているということだった。



自治体での活用法
さて、今回の発表会では今後、電動サイクルの利用を予定してる千葉市とさいたま市から担当者が来席していて、工藤氏の登壇に続いてそれぞれの自治体が立てている計画などが語られた。

千葉市では海浜幕張エリアを例に挙げ、駅前や大型商業施設、イベントホール、野球場などを「回遊」してもらうことを目的としたシェアサイクルなどのシェアリングサービスの導入が検討していたこと、そして自転車に関する法律の制定とともに、千葉市として条例を制定し、自転車を推進する体制が整ってきたと説明。そこで実証実験という形で特定小型原付電動サイクルの導入を進めていくことになったと語った。


さいたま市が解決したい課題としては新型コロナウイルス感染症の流行により市民の外出の頻度が低下したが、実はコロナ禍が収まったいまでも外出の頻度は戻っていないそうだ。その理由として考えられているのが通販や出前等のシステムがより定着したことだが、その傾向が続くと「街」がたんに住宅が並ぶだけのものとなり、そこに商店などがない未来になる恐れもある。そこで外出を便利にして出かける機会を増やすため、地域公共交通の一部として電動サイクルを導入するということだった。

以上が新たに始まるHELLO CYCLINGの電動サイクルシェアリングサービス発表会の内容。特定小型原付の電動サイクルはeバイクではないが、便利な交通インフラとして成長する動向はeバイク界にとって参考になる面も多い。それだけに今後もこうした情報はお伝えしていきたいと思う。