2022年3月21-22日に、E-Spo(静岡県東部地域スポーツ産業振興協議会)のプレスツアーとして、伊豆修善寺にあるITJ BASE ShuzenjiをベースとするeMTBのガイドツアーが行われた。静岡県伊豆市修善寺周辺の自然とMTBの楽しさとを気軽に味わえる、eMTBの可能性を見ることができた。
伊豆市修善寺温泉の周辺トレイルをeMTBでめぐる
東京2020オリンピックも終わって、これからがレガシーとスポーツ自転車への熱が熱い伊豆地域。マウンテンバイク競技の激闘が行われた伊豆市修善寺地域を、電動アシスト付きのeMTBで走るガイドツアーの試みが始まっている。上り坂とグラベルをeMTBの登坂力で楽しもうというコンセプトだ。そのプレス体験ツアーに参加した。
ツアーの集合場所は静岡県伊豆市にある修善寺温泉。この中心地の修禅寺脇にある『ITJ BASE Shuzenji』がスタートだ。ここは周囲トレイルや伊豆スカイライン周辺までを楽しむ人々のベースとなる、昨年12月オープンのカフェ&ゲストハウス。立ち寄ってのカフェ休憩はもちろん、泊まってトレイルランやハイキング遊びの起点・終点にできる。
今日、ツアーをガイドしてくれるのは倉原卓也さん。伊豆の南地域にある河津を拠点にしたキャニオニング・ボルダリングを中心に、山での安全確保に長い経験を持つ。倉原さんの温かな笑顔と先導で、修善寺の観光地然とした箇所を通り、上り坂を走っていく。
修善寺は昔の感じと今の流行の混じった温泉街だ。クルマがすれ違うのは難しいほどの細い路地が入り組んでいるので、観光はそぞろ歩きがメインとなる。eMTBは人が走るのと同じぐらいのスピードで走れるので、歩行者にもあまり驚かれない。小道を走り、裏の路地に移って、クルマは通れず歩きでは疲れる道を通っていく。
修善寺の温泉は807年に弘法大師が開いたと言われている。薬草を探していた弘法大師が、河原で病気の父親の体を洗う少年を想って、岩を杖で砕いたところお湯が吹き出した、という伝説がある。修善寺に来るなら弘法大師は知っておきたいワードだ。なお弘法大師とは空海上人のこと、真言宗の開祖。中国から真言密教をもたらして、高野山を開いた。
厳しい上りも軽いギヤ比とアシストで楽々支えるeMTB
修善寺を流れる美しい湯舟川沿いを上っていく。優雅な名前に相応しい美しい川だが、岩が多く船は浮かべられないだろう。
そんな無駄なことを考えられるぐらい、eMTBは上りが楽ちんな乗り物だ。特にここのように、なだらかな地形を上っていくのにちょうどいい。おしゃべりできるぐらいのスピード上っていくと、畑は少しずつ簡易舗装の林道へと変わり、農村だった周りはだんだんと林になる。
そして斜度も少しずつきつくなってくる。しかしこちらはe MTB。太いタイヤとサスペンションが荒い舗装路もしっかりと掴み、ペダルを回せばぐいっと前に出る。
アシストを『ハイ』にしておけば、軽いギヤでクルクルと回していけば、辛さをほとんど感じることなく上っていく。
eMTBはギヤ設定が幅広い。とても軽いギヤからすごく重く速いギヤまで、右手のレバーだけで選べる。だから直感的で操作も簡単。修善寺の山道のようなクルマの少ないルートなら、さらに楽しい。目で見る坂のすごさと実際に体感する楽ちんさのギャップを感じられるのは、まずそれだけで気持ちいい。
フルサスeMTBで初めてのグラベルも楽々走行
林に入っていって程なく、バイクを降りる。ここから10分程歩いて桂大師と呼ばれる巨木の桂に向かうのだ。シングルトラックを歩いていき、たどり着いたのは、とても神秘的な場所だった。
弘法大師がここらで薬草を杖で探しているとき、刺した桂の杖がこの大きな樹に育ったという伝説のある場所。まるでアニメや漫画に出てくる神聖な場所のような開け方だ。光の差し方次第で、さらに神々しく映るに違いない。この光景は、それこそ数百年前から同じ景色だ。観光的な名所ではないが、一見の価値はある。
その後またバイクに戻って上っていき、最終的には簡易舗装からも一本外れて、ついにグラベルが始まった。マウンテンバイクは太いタイヤを履いてサスペンションがついているから、とても走りやすい。ダブルトラックと呼ばれる広めの道をどんどん下っていく。あまり大きく厳しいコーナーもなく、細かいコーナーもないので走りやすい。
路面は簡易舗装とグラベルとが適度に繰り返して行く感じである。今回のツアーには2人の女性もいたが、軽いギヤでクルクルと回していく、というeMTBの走りのコツを覚えてしまえばあとは問題なかった。またフルサスeMTBに乗っていた、という機材の良さもあっただろう。
eMTBは、路面の凸凹を本当によく吸収して走っていく自転車である。フルサスである方が圧倒的に安全で楽しい。女性の2人の乗ったフルサスマウンテンバイクは、下りでも懐深く、2人を守りながら走っていた。
途中からシングルトラックのような様相となり、路面は少しずつ土の路面となってくる。まさにマウンテンバイクの楽しさをここで体感だ。下の町へと降ってきて、起点ともなったITJベースに戻ってくる。
ITJ BASE Shuzenjiの使い方
ITJベースはトレイルランの一大イベント、『伊豆トレイルジャーニー』と運営を同じくする、修善寺とトレイルを楽しむ人に向けたベースだ。宿泊料金は1泊4000円〜で、ドミトリー方式でのベッド、共同シャワー、そしてくつろげるスペースがある。1階にはカフェがあり、2階はダイニングスペースとなっている。
カフェエリアでは、修善寺で醸造される有名な地ビール、『ベアードビール』の生ビールが飲める。通常はビンで出回ることの多いベアードビールだが、ここでならブリュワリーと同じ殺菌をしていないそのままの味が飲める。その種類も8種類で季節限定ものもある。どれも美味しいので、ぜひ宿泊して、オリンピック参加自転車選手にも話題になったベアードビールを楽しんでもらいたい。
旧天城峠トンネルの前後にあるグラベルは楽しい
そして2日目はあいにくの雨。結構本格的な雨となったので、また冬がぶり返した寒い日だったので全部乗るのはやめにして、大まかなルートをクルマとeMTBでたどることにした。
今日予定していたグラベルは2本。旧天城トンネルを中心とした前後のグラベルロード、そしてそこから大鍋越峠へと向かう全行程24kmほどのルートだ。それぞれのグラベルまでのアプローチはeMTBと参加者を車で運ぶというツアーならではの走り方だ。
走り始めの旧天城トンネルへと続くグラベルは、道幅も広く走りやすい。路面も未舗装とはいえ滑らかで、オフロード初心者でも怖がることも少なく走っていける。気をつけたいのは、ここは廃道ではなくいまも国道であること。これが国道かあと思いを馳せるのもいいが、対向に車が来ることもあるので気を引き締めて走りたい。
ゆるゆるとした坂をくるくるとペダルを回して上っていくと、ほどなく旧天城トンネルが見えてくる。とても風情のある見た目なので写真をつい撮りたくな る。この辺りまで来ると、川端康成による小説『伊豆の踊り子』の話題であたりは持ちきりだ。
『伊豆の踊り子』は文豪川端がその実体験を元に書いた不朽の名作、明治の恋愛物語。昔はたもとの茶屋で灯りを貸すサービスもあったという暗い旧トンネルの中は、今は電気のライトで照らされている。ライトをつけてくるのを忘れてしまった人でも大丈夫だ。
厳しい大鍋越えを、eMTBで楽々走破
天城トンネルからさらにグラベルを下っていき、そこから大鍋越峠に向かう。この大鍋越えは車一台が走れるほどの幅のグラベルで、路面は少し荒れている。太いタイヤの安定性と、路面をしっかりつかむグリップ力を、アシストでぐいぐいと使い切っていくeMTBならうまいこと走っていける。
また今日に限ったことかもしれないが、eMTBだと雨の中でも走りやすい。もちろん雨具や温かいグローブというそれなりの装備はあった上での話だが、モーターがあって太いタイヤで、特にリアサス付きだと、路面もラインも気にせずグイグイと走っていくのが力強くて気持ちいい。eMTBは、特に舗装路を降りた時の走りやすさをグンと上げる自転車だ。アシストが上りを楽にする、という以上に、テクニック的な部分もアシストのパワーがカバーするから、自分が上手くなった気にもなれる。
ここからの下りもなかなか走りごたえのあるグラベルなのだが、この日は雨だったため、大鍋越峠を超えたところで車でピックアップ。松崎の町へと下っていく。ここでおすすめなのが松崎のちょっと手前にある大沢温泉。この『山の家』という橋を渡って入るここは、ガイドお勧めの秘湯。冷えた体を温めて、ITJベースに戻るというルートだった。
2日目の全24kmほどの行程では、グラベルは10kmほど。オフロードの楽しさを味わうのには十分な距離、そしてロケーションだった。この修善寺でのITJベースを基盤としたガイドツアーが、今後実際に始まる日を心待ちにしたい。