東京サイクルデザイン専門学校ワーキングバイクプロジェクト

東京サイクルデザイン専門学校ワーキングバイクプロジェクト

いつもとは違う秋。幕張メッセで毎年行われるサイクルモードも2021年4月に延期となった。東京・渋谷にある東京サイクルデザイン専門学校の「ワーキングバイクプロジェクト」は、サイクルモードの常連展示として、毎回、独創的なデザインやコンセプト、技術力の高さで注目を集めてきた。今年の出展は叶わなかったが、自転車クリエーションコース3年生たちのものづくりの情熱は、しっかりと作品として結実していた。その自転車の発表会が、11月27日(金)に東京サイクルデザイン専門学校で業界関係者を招いて行われた。

今年のテーマは、女性をターゲットにした、安全・安心・こわくない自転車である。さらに今回は特別な試みとして、大手メーカーにも採用されている、電動アシストシステムの製造をしている太陽誘電株式会社とのコラボレーションが実現した。つまり、太陽誘電が提供する回生電動アシストシステムを活用した、「女性に向けた電動アシスト自転車」を作るのである。これまで多くのフレームを制作してきた学生も、電動アシスト自転車の制作は初めて。それでも指導にあたる講師陣による、時に厳しく、時に柔軟な指導と、グループの仲間同士でぶつかり合いながらも協力したことで、素晴らしく出来の良い6台が完成した。

綿密なリサーチから生み出される課題と、それに対する思いもよらない解決策が形となった作品が、パワーポイントを使ったプレゼンによって発表された。社会人顔負けのプレゼン力を見せつけるグループもあり、幕張メッセでの展示とは一味違う楽しさで、集まった業界関係者を驚かせいた。それでは6つのグループによって生み出された「ワーキングバイク」たちを紹介しよう。

▽Aグループ

作品名:HOULE(ウール)

ターゲット:デザイン系オフィスに勤務する20〜30代女性用の通勤SUV系自転車

コロナ禍で高まりを見せる自転車通勤を詳細なアンケートにより分析。その結果、興味はあるが、実際に自転車通勤に切り替えた人の少なさを指摘したAグループ。なぜ、自転車通勤が増えないのか?という疑問から生まれたのは、「ファッション性」「身長を問わない」「操作しやすい」という3つの要素を盛り込んだ自転車だった。フランス語で「波、うねり」を意味する「HOULE」の最大の特徴は、チェーンステーがないこと。当然、剛性を出すことには苦労したそうだが、コンセプトモデルの試みとしてはユニークである。横からみると、ターコイズブルーのフレームが波を打っているように見える。Aグループの学生が、「電動アシスト自転車は、ワイヤーハーネスがどうしても目立つので、フレームに内装しました。その取り回しも大変でしたが、ハンドル周りがすっきりしました」と話してくれた。デザイン性の高さを思わせる1台である。

高級スポーツバイクのようにケーブル類をハンドルから内蔵する設計
チェーンステーがなく、すっきりとしている
ハンドルが切れすぎないようにストッパーが備わる
独特なフレームワーク

▽Bグループ

作品名:μ saf(ミュセフ)

ターゲット:ひとり暮らしをする20〜30代女性用の防犯自転車

Bグループは、ターゲットを極めて詳細に設定。年利や勤務先、住んでいる街の様子から日々の暮らしまで、物語の主人公並みのペルソナ設定をした。そこから導き出したターゲット女性が抱く課題感は「防犯」。とりわけ彼らが注目したのは、自宅マンションのエレベーター内での犯罪だった。エレベーター内に自転車を持ち込むことで、仮に不審者と乗り合わせたとしても自転車が不審者との間の壁となり、意識的にも物理的にも犯罪抑止効果が高いという発想である。狭いエレベーターに自転車を持ち込む仕組みがユニークで、折り畳みの機構を採用せずに前輪の位置を前後にずらせるようになっている。仕組みとしては、ヘッドチューブがダウンチューブを伝ってサドル方向へ最大280mm動くようになっている。また、ダウンチューブの前方部分は、3Dプリンタで出力したU字のアクリルパーツになっており、内蔵された高輝度のLEDで夜道でも明るく安心感がある。細部の作り込みに工夫が見える1台となっている。

大型ヘッドライト
ツインフレームで耐久性を向上
前輪の位置を前後にずらすことができる機構

▽Cグループ

作品名:Carnation(カーネーション)

ターゲット:Uber Eatsで働く40代女性向け自転車

外出が制限される中で利用が増えているウーバーイーツ。Cグループが目をつけたのは、1日のなかで空き時間にウーバーイーツの配達員として働いている、子どものいる40代女性という実に詳細なターゲットである。事実、Cグループの調査によれば、コロナ禍で40代の配達員は増えているという。さらに、グループ内には、自らウーバーイーツの配達員をしている学生もおり、配達の際の切実な悩みを元に制作が進められた。現実的な問題点として、「バッグが大きすぎて前カゴに入らない」「バックを背負うと背中が蒸れて暑い」「後方の車を目視確認しづらい」といったことが挙げられた。そこで考え出されたのは、通常は前カゴがある部分にウーバーイーツのバッグを引っ掛ける“触角”と名付けられたフックがあり、振動も少なく料理を運べるようになっている。フックはハンドルではなく、フレームとの一体設計なのでハンドル操作に不安はない。フックの曲線は、そのままトップチューブ、シートステーへと流れるようにつながっており、日常使いとしてのデザイン性にも優れた自転車となっている。

ウーバーイーツの大きなバッグをひっかけるフック。ハンドルではなくフレームに直接取り付けられている。操作性への影響を最小限にするのが狙い
モデル名があしらわれたヘッドプレート
優雅な曲線が車体全体にわたる

▽Dグループ

作品名:mocha(モカ)

ターゲット:アオハルライド—高校生〜卒業して二十歳ぐらいまでの女性向け自転車

Dグループによれば、ターゲットとした青春真っ盛りの世代は、電動アシスト自転車に乗っている割合が少ない世代だという。確かに、電動アシスト自転車は、子育て世代や中高年に人気だ。そこで、高校生から新社会人の女性が乗りたくなる自転車を目指したという。若い女性をターゲットとした場合、フレームは流行に左右されないよう、あくまでシンプルに、カラーもカフェモカをイメージした白と茶と黒の落ち着いた雰囲気でまとめられている。着眼点と作りの工夫が見られるのは、サドルの後ろにあるリアキャリアのようなパーツ。前カゴにも入らない重く大きなバックパックを背負って乗車した際、リュックがちょうどこのキャリア部分に載るように設計されている。フレームは、ダウンチューブが低床化されており乗り降りがしやすい。また、前カゴはパイプを曲げた自作で、溶接も非常に美しく仕上げてある。前カゴのサイズは革製のスクールバッグを縦に入れるとちょうどいいサイズに設計されている。すぐにでも量産化できそうな、実用性の高さが光る1台となった。

サドル後方に取り付けられているのは、通学に使う大きなバックパックを置く台
綺麗な曲線を描くダウンチューブは丸チューブ2本を束にして隙間をパテで埋めている
ケーブル類は、スポーツバイクのようにフレームに内蔵
前かごも細いパイプを曲げ、溶接して作られたワンオフもの

▽Eグループ

作品名:gazelle(ガゼル)

ターゲット:小柄なお母さん自転車—小柄でもスポーティなママへ

働きながら楽しく子育てする女性をターゲットとしたEグループ。実際にターゲットとなる女性たちにリサーチを行い、子供乗せ電動アシスト自転車の課題を浮き彫りにした。具体的には、「どれも似ている」「もっと目立つものに乗りたい」「チャイルドシートの位置が高く子どもを乗せづらい」「クロスバイクのようなスポーティーさが欲しい」といった課題が挙がった。これらの課題に答えを出すべく設計されたのが「gazelle」だ。コンセプトは、スポーティでアクティブな雰囲気で、身長150cm以下の女性にも乗りやすく、後ろに設置するチャイルドシートに子供を乗せやすくした自転車である。デザインは、BMXやMTBをベースとして、タイヤの大きさも前輪24インチ、後輪20インチと低身長でも扱いやすいアッセンブルにしている。クランク長も140mmと短く設定しており、後方チャイルドシートの座面は地上高65cmと低く抑えられ、子どもが成長しても乗り降りの抱っこが苦にならない高さとなっている。切実な子育て世代の女性のニーズにしっかりと答えを出した1台だ。

フレーム強度をあげるツインチューブ
フォークがストレートでスポーティーな印象。ブレーキも制動力が高いVブレーキだ
ハンドルは持ちやすさを考え、手前にセットバックしたものを採用
チャイルドシートを設置するためのラック
こちらのグループもケーブル類をフレームに内蔵
タイヤもスポーティーな印象を与えるブロックパターンを採用

▽Fグループ

作品名:Street Lady(ストリートレディ)

ターゲット:20〜30代前半ぐらいまでの活動的で活発な女性の通勤用自転車

イエローのフレームカラーとスポーティなフレームデザインが、ひときわ目を引くFグループの「Street Lady」は、アクティブな女性に向けた1台。Fグループでは、市販されている電動アシスト自転車を改めて見直すことから行った。明らかになったのは、女性向けモデルでは、曲線を多様したいわゆる“かわいい”デザインが多く、通勤・通学向けのモデルではシティサイクルに寄せたものが目立つということ。電動クロスバイクはあるものの、明確に女性向けを打ち出したモデルが少ないのが現状だった。そこからFグループが打ち出したコンセプトは、小柄な女性でも乗りやすいスポーティな自転車。デザイン面では、軽快さを感じさせる直線的なシルエットを強調し、実用面では停車時にも安心してサドルから降りられるような工夫が求められる。そんなデザイン面と実用面を兼ね備えるのが、トップチューブの形状だ。途中までダウンチューブに沿わせ、途中から角を強調してパイプを曲げることで直線的で、ホリゾンタルなトップチューブを実現している。通勤のみならず、休日もアクティブに遊べそうな1台に仕上がった。

上側のフレーム位置をなるべく低くするために屈曲したデザインを採用
内装変速機を採用し、見た目もスマートに

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