eバイク旅ノート Vol.71 eバイク日本一周11「雨の日高山脈を越えて再び苫小牧へ」

60歳を越える夫婦がeバイクで日本一周する旅に出た。今年6月、神奈川県の自宅をスタート、関東と東北を走り秋田からフェリーで北海道へ。苫小牧から最北端、その後旭川、網走、弟子屈、知床半島、根室、釧路と時計回りで走り、帯広までやって来た。

DAY58

今日から数日雨予報なので帯広からどのルートで日高山脈を越えるか悩んでいた。普通に考えれば国道274号なのだが、途中に日勝峠がある。雨の中、標高1000mの峠を越えるのはキツイし怖いということで、ヒロコからNGが出た。同じ理由で国道38号(狩勝峠)も×。そうなると襟裳岬経由になるのだが、かなり遠回りなる上、雨の黄金道路を走るのも大変そう。そこで野塚峠を越える国道236号が急浮上。峠も高くないし交通量も少ない、加えて大樹町に住む旧友に会えるということで国道236号ルートに落ち着いた。

帯広を出る朝、天気予報はよい方に裏切られ曇り空、わずかに青空まで見えている。それでも急激に変わる可能性もあるので、予定通り南へ向かった。最初に向かうのは『愛国駅』。50年前に“愛国駅から幸福駅行き”の切符が大ブームになった駅で、いまは廃線になっているが、改築された駅舎などが観光スポットとして人気になっている。

最初に訪れた愛国駅は人もいなくてシーンとしていたが、幸福駅は国内外の観光客で大賑わい。観光バスまでいる。駅の周辺は公園になっていて、ディーゼルカーやプラットホーム、駅舎などの前で楽しそうに記念写真を撮っている。小さな駅舎の壁には幸せを願うメッセージが壁から天井までびっしり。その数に圧倒される。

午後1時ごろ、大樹町に住む旅の旧友“シン”の家に到着。10年ぶりの再会を果たした。自転車で世界一周をしていたシンと出会ったのは1987年のオーストラリア。そのとき僕は原付バイクで旅をしていたのだが、同じ歳ということもあり大いに刺激を受けた。一緒にブッシュキャンプをしたり、出会った人の家に一緒に泊めてもらったこともあった。シンは大阪から数年前に北海道へ移住、現在はゲストハウスを自力で建設中。相変わらずの自由人。10年ぶりの再会、話題は尽きることがなかった。

宿泊地:北海道大樹町
走行距離:60.0km
総走行距離:2992.6km

ライダーハウスPit
帯広では今泉さんが提供する宿『ライダーハウスPit』にお世話になった。管理維持などいろいろ大変だと思いますが、旅人のために続けてください
愛国駅
1987年に廃線、廃駅となった『愛国駅』。現在は交通記念館になっていて、当時使用されていた通標、備品、乗車券、駅スタンプ、写真パネルなどが展示されている
「愛国から幸福ゆき」の乗車券をモチーフにした石碑
大ブームとなった「愛国から幸福ゆき」の乗車券をモチーフにした石碑。同切符の販売1000万枚を記念した石碑も設置されている
愛国ふれあい広場ひまわり畑
愛国駅の近くにある『愛国ふれあい広場ひまわり畑』。青空に映える黄色のひまわり。北海道は各地にひまわり畑があって夏を感じることができる
幸福駅の駅舎
幸福駅の駅舎の中はこんな感じになっている。壁と天井、全てを埋め尽くす無数の幸福駅切符には、幸せを願うメッセージが書きこまれている
幸福駅
昔の面影を残すレトロな木造駅舎は廃線になる前は待合室として使われていたもの。近くに鳴らすと幸せが舞い込むと言われる『幸福の鐘』がある
シンさんの家
大樹町に住んでいる旅の友人シンの家に到着。シンは恥ずかしいので顔出しはNG(笑)。家の周りには広大な畑がどこまでも広がっていた
土管風呂
ドラム缶風呂に入ったことがあるけど『土管風呂』に入ったのはたぶん初めて(笑)。大きな空に下で温かいお湯につかる、極上のお風呂タイムでした~
シンさんの家
36年にオーストラリアで初めて会った自転車旅人のシン。10年ぶりに再会が北海道になるとは夢にも思わなかった。次に会うのはいつになるのか……

DAY59

シンと彼女に見送られて出発。今日は天気予報の通り、朝から冷たい雨が降っている。大樹町の中心に入ると、セイコーマートでパンやチョコレート、ドリンクなど買い込む。町を出たら、山を越えた60km先にある浦河までお店がないので、多めにストック。食べ物は大切なエネルギー源だからね~

国道236号はしばらく畑や牧場が点在、視界も開けていたが、徐々に森が多くなり、上り坂も険しくなってくる。加えて雨足が激しくなってきた。峠道で雨は、まさに“泣きっ面にハチ”状態だが、嘆いても仕方がない。「大丈夫か?」「頑張れ~!」「疲れたら休憩するよ」「遅い方がアシストが使えるから、ゆっくりゆっくり……」「あと3キロで峠だぞ」とヘルメットのインカムで励まし合い、進んで行く。

峠が近づくにつれてコンクリートで覆われた隧道やトンネルが多くなる。トンネル内は雨に当たらないのが嬉しい。ひたすらペダルをこぎ続ける。重たい雲に覆われていて周りの景色はほとんど見えない。いくつかのトンネルを抜けると、ついに『野塚トンネル(ここが峠)』が現れた。このトンネルを抜ければ日高山脈越え。下り坂だぞ~。

4kmの長いトンネルを抜けると、光が差し込み、下り坂が見えた。やった、峠越えだ。そのまま数百メートル下ると聡明橋公園なる案内標識が現れた。トイレと休憩所があるので、ここで休憩にする。ベンチに座って休んでいると「自転車で日本一周しているんですか!?」と車の旅行者が声をかけてきた。話をするとレンタカーで北海道旅行中の親子で、父親は僕たちと同年代だった。eバイクをおすすめすると「いやぁ、ムリムリ」と笑いながら激しく首を横に振った。一度試乗したら絶対に楽しいんだけどなぁ。

山を下ると青空が多くなり、さらに花畑が広がっていたり、景色が明るくなった。海岸線の国道336号に出ると右折、苫小牧方面へ向かう。浦河の町に入るとを車の人が「すみません、藤原さんですかー!?」と声をかけてきたのでビックリ。タケダさんという人で、バイク雑誌連載などで昔から僕のことを知っていたという。eバイク旅のことも知っていたが、まさか自分の町で会えると思わなかったと驚いている。折り畳み小径自転車を持っているので明日一緒に走りませんか? と盛り上がる。明日、再会する約束をして別れた。

夕方5時過ぎ、予約していた浦河にある『ゲストハウスまさご』に到着した。ベッドに荷物を降ろすと、隣の銭湯『まさご湯』へ行き、汗を洗い流した。しばらくするとシンと彼女が遊びにやってき来た。シンのキャンピングカーで一緒に夕ごはん、お互いの人生論や世界一周の話などに花が咲く。40km先の新ひだか町に魚がおいしい居酒屋さんがあるので、明日はそこで一緒に昼めしを食おう! ということで、今夜は解散となった。

宿泊地:北海道浦河町
走行距離:84.7km
総走行距離:3077.3km

野塚峠へ向かう途中
野塚峠へ向かう途中。雨足が激しくなってきたので隧道内の歩道に自転車を停めてしばし雨宿り。あるものは何でも有効活用する、それが旅人なのだ(笑)
野塚峠を越えて山を下る
ひどかった天気も野塚峠を越えて山を下ると徐々に雲が切れきて、青空まで見えるようになってきた。ペダルを踏む足も自然と軽やかになる
玄米おにぎり
雨が上がったので、ようやくシンが持たせてくれた玄米おにぎりが食べられる。これを食べてお腹いっぱいになったら、一気に浦河まで走るぞ~
排水溝の鮭
浦河の町で見つけた排水溝の鮭。これってちょっとオシャレじゃない? スロースピードの旅をしていると小さな発見がたくさんある
ゲストハウスまさご
『ゲストハウスまさご』はサウナや家族風呂だった建物をリフォームして誕生した宿。共有スペースは各所に地域の廃材や古材が使われている

DAY60

宿を出て10分ほどで小径自転車に乗ったタケダさんが現れた。「おはようございます」「よろしくお願いします♪」荷物満載のeバイクと空身の小径自転車。一体どんなペースで走ればいいのか?さっぱりわからないが、とりあえず後方のふたりのペースを見ながら、探り探り進んで行く。車がいないときは速度を緩めて、走りながらおしゃべり。なかなか楽しい。残念ながら8km走ったところでタケダさんは時間切れ。小さな自転車でeバイクのペースで走るのは大変だったと思うが、タケダさんのお陰でいつもとは違う楽しい時間になった。ありがとうございます!

海沿いの気持ちのいい道が続く。所々に花が咲いていて夏を感じる。新ひだか町にある『居酒屋漁』に到着。国道から少し入ったところにあるので、シンが教えてくれなかったら来ることはなかっただろう。地元の漁師から仕入れた旬の魚が食べられる店で、ヒロコは煮魚定食、僕はほっけ焼き定食を注文した。さらに女将さんが特別にアブラボウズ(なめわら)という深海魚の刺身を出してくれた。市場にほとんど出回らない貴重な魚で、全身が大トロと言われるほど脂がのっているらしい、初めて食べたがほっぺたが落ちそうなほどおいしかった。

シンとはここでお別れ。30年以上間に出会った旅の旧友が、まさか3日も付き合ってくれるとは思わなかった。嬉しい限りだ。「気を付けて」「また会おう!」がっちり握手をして別れた。今日は雨の予報だったが、結局降られることなく静内にある『ホテルローレル』に着いた。自転車を見ると、受付の女性がすぐに「屋内に保管しましょう」と申し出てくれた。細やかな心遣いが嬉しい。明るい女性でその後も「自転車で日本一周なんて、すごいですね」「夫婦喧嘩とかしませんか?(笑)」などなど、いろんな話で盛り上がった。

宿泊地:北海道静内町
走行距離:41.1km
総走行距離:3118.4km

タケダさんと
前日に偶然出会ったタケダさんが、小径自転車で僕たちの旅に参加してくれました。3人で走るのは楽しかったです♪ ありがとうございました
カレイの煮付け定食
新ひだか町三石本町にある『居酒屋漁』で食べた、ボリューム満点のカレイの煮つけ定食。サラダに漬物、和え物などの小鉢も付いている
居酒屋漁の女将さんと
明るい笑顔で気持ちよく出迎えてくれた『居酒屋漁』の女将さん。おいしい定食、ありがとう。記念写真をお願いすると照れながら出てきてくれました
ホテルローレル
静内では『ホテルローレル』に宿泊。eバイクを安全な屋内に置かせてくれた上、バッテリー充電のための電源まで貸してくれました、感謝!

DAY61

『ホテルローレル』には何と100円朝食というものがあり、朝から納豆や焼魚、玉子など、お腹いっぱい食べる、現金なふたり(笑)。苫小牧を目指して国道235号をひた走る。新冠はサラブレットの町として知られている。『道の駅サラブレッドロード新冠』に立ち寄ると、ハイセイコーの銅像があったり、活躍した歴代のサラブレットたちモニュメントが並んでいたり、サラブレットのぬいぐるみが売られていたり、サラブレット一色だった。僕は競馬をしないが、好きな人にはたまらない場所だろう。

お昼ごはんの時間になると、ローカルな食堂を探して日高町の町中へ入っていった。どこにでもありそうな普通の町で見つけた、ローカルな『いこい食堂』。店内に入ると地元の人で賑わっていた。メニューを見るとラーメン、うどん、そば、丼、定食……何でもある。久しぶりにラーメンを食べようということになり、ヒロコは塩ラーメン、僕は味噌ラーメンを注文した。どちらも650円の安さ。特別なことはしていない、素朴でおいしいラーメンだった。

3時過ぎ、秋田からフェリーで上陸した苫小牧東港の入口が見えてくる。僅か1か月半前のことなのに懐かしく感じる。これで一筆書きの北海道一周は完結となるが、北海道の旅はこの先もまだ続く。

4時過ぎに苫小牧市内に到着する。マクドナルドでコーヒーを飲みながら作戦会議。北海道の先、東北の日程を考えるようになり、旅が進んでいることを実感する。夕食を終えると北海道で最初に泊まったネットカフェへ行く。見覚えのある店内、これから始まる北海道の旅にワクワクしていたことを思い出す。さあ、いっぱい寝て、明日もいっぱい走るぞ~

宿泊地:北海道苫小牧市
走行距離:86.2km
総走行距離:3204.6km

道の駅サラブレッドロード新冠
数多くのサラブレットを生み出した新冠町にある『道の駅サラブレッドロード新冠』。壁には巨大ポスター、名馬ハイセイコー号の記念像もある
蹄型のモニュメント
道の駅の敷地内には、活躍したサラブレッドの名と写真、誕生年、写真、血統、成績、生産牧場などが刻まれた蹄型のモニュメントがズラッと並んでいた
サラブレッド
国道235号沿いにはたくさんの牧場があり、サラブレッドの姿を間近に見ることができる。バイクを停めてスマホを向けると好奇心旺盛な馬が近づいてきた
いこい食堂
国道から外れた通りで見つけた『いこい食堂』。年配のご夫婦が切り盛りする食堂で、周りは常連さんばかり。初めてきたのにどこか懐かしい、そんな食堂だった
オニユリ
国道235号の道端に咲いていたオニユリ。北海道ではいろんな花に出会った。花の名前はあまり知らないけれど、見ているだけで幸せな気持ちになる
マッサージチェアー
1か月半走って再び苫小牧へ戻って。今日は節約のためネットカフェに宿泊。ファミリールームのマッサージチェアーで体をリカバリーするヒロコ

取材協力:
ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/ypj/
セナブルートゥースジャパン
https://senabluetooth.jp/
ステムデザイン
https://www.stem-design.net
武田レッグウェアー
https://www.rxl.jp

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