60歳を越える夫婦がeバイクで日本一周する旅に出た。今年6月、神奈川県の自宅をスタート、関東と東北を走り秋田からフェリーで北海道へ。苫小牧から最北端、その後旭川、網走、弟子屈、知床半島、根室、釧路と時計回りで走り、帯広までやって来た。
DAY58
今日から数日雨予報なので帯広からどのルートで日高山脈を越えるか悩んでいた。普通に考えれば国道274号なのだが、途中に日勝峠がある。雨の中、標高1000mの峠を越えるのはキツイし怖いということで、ヒロコからNGが出た。同じ理由で国道38号(狩勝峠)も×。そうなると襟裳岬経由になるのだが、かなり遠回りなる上、雨の黄金道路を走るのも大変そう。そこで野塚峠を越える国道236号が急浮上。峠も高くないし交通量も少ない、加えて大樹町に住む旧友に会えるということで国道236号ルートに落ち着いた。
帯広を出る朝、天気予報はよい方に裏切られ曇り空、わずかに青空まで見えている。それでも急激に変わる可能性もあるので、予定通り南へ向かった。最初に向かうのは『愛国駅』。50年前に“愛国駅から幸福駅行き”の切符が大ブームになった駅で、いまは廃線になっているが、改築された駅舎などが観光スポットとして人気になっている。
最初に訪れた愛国駅は人もいなくてシーンとしていたが、幸福駅は国内外の観光客で大賑わい。観光バスまでいる。駅の周辺は公園になっていて、ディーゼルカーやプラットホーム、駅舎などの前で楽しそうに記念写真を撮っている。小さな駅舎の壁には幸せを願うメッセージが壁から天井までびっしり。その数に圧倒される。
午後1時ごろ、大樹町に住む旅の旧友“シン”の家に到着。10年ぶりの再会を果たした。自転車で世界一周をしていたシンと出会ったのは1987年のオーストラリア。そのとき僕は原付バイクで旅をしていたのだが、同じ歳ということもあり大いに刺激を受けた。一緒にブッシュキャンプをしたり、出会った人の家に一緒に泊めてもらったこともあった。シンは大阪から数年前に北海道へ移住、現在はゲストハウスを自力で建設中。相変わらずの自由人。10年ぶりの再会、話題は尽きることがなかった。
宿泊地:北海道大樹町
走行距離:60.0km
総走行距離:2992.6km
DAY59
シンと彼女に見送られて出発。今日は天気予報の通り、朝から冷たい雨が降っている。大樹町の中心に入ると、セイコーマートでパンやチョコレート、ドリンクなど買い込む。町を出たら、山を越えた60km先にある浦河までお店がないので、多めにストック。食べ物は大切なエネルギー源だからね~
国道236号はしばらく畑や牧場が点在、視界も開けていたが、徐々に森が多くなり、上り坂も険しくなってくる。加えて雨足が激しくなってきた。峠道で雨は、まさに“泣きっ面にハチ”状態だが、嘆いても仕方がない。「大丈夫か?」「頑張れ~!」「疲れたら休憩するよ」「遅い方がアシストが使えるから、ゆっくりゆっくり……」「あと3キロで峠だぞ」とヘルメットのインカムで励まし合い、進んで行く。
峠が近づくにつれてコンクリートで覆われた隧道やトンネルが多くなる。トンネル内は雨に当たらないのが嬉しい。ひたすらペダルをこぎ続ける。重たい雲に覆われていて周りの景色はほとんど見えない。いくつかのトンネルを抜けると、ついに『野塚トンネル(ここが峠)』が現れた。このトンネルを抜ければ日高山脈越え。下り坂だぞ~。
4kmの長いトンネルを抜けると、光が差し込み、下り坂が見えた。やった、峠越えだ。そのまま数百メートル下ると聡明橋公園なる案内標識が現れた。トイレと休憩所があるので、ここで休憩にする。ベンチに座って休んでいると「自転車で日本一周しているんですか!?」と車の旅行者が声をかけてきた。話をするとレンタカーで北海道旅行中の親子で、父親は僕たちと同年代だった。eバイクをおすすめすると「いやぁ、ムリムリ」と笑いながら激しく首を横に振った。一度試乗したら絶対に楽しいんだけどなぁ。
山を下ると青空が多くなり、さらに花畑が広がっていたり、景色が明るくなった。海岸線の国道336号に出ると右折、苫小牧方面へ向かう。浦河の町に入るとを車の人が「すみません、藤原さんですかー!?」と声をかけてきたのでビックリ。タケダさんという人で、バイク雑誌連載などで昔から僕のことを知っていたという。eバイク旅のことも知っていたが、まさか自分の町で会えると思わなかったと驚いている。折り畳み小径自転車を持っているので明日一緒に走りませんか? と盛り上がる。明日、再会する約束をして別れた。
夕方5時過ぎ、予約していた浦河にある『ゲストハウスまさご』に到着した。ベッドに荷物を降ろすと、隣の銭湯『まさご湯』へ行き、汗を洗い流した。しばらくするとシンと彼女が遊びにやってき来た。シンのキャンピングカーで一緒に夕ごはん、お互いの人生論や世界一周の話などに花が咲く。40km先の新ひだか町に魚がおいしい居酒屋さんがあるので、明日はそこで一緒に昼めしを食おう! ということで、今夜は解散となった。
宿泊地:北海道浦河町
走行距離:84.7km
総走行距離:3077.3km
DAY60
宿を出て10分ほどで小径自転車に乗ったタケダさんが現れた。「おはようございます」「よろしくお願いします♪」荷物満載のeバイクと空身の小径自転車。一体どんなペースで走ればいいのか?さっぱりわからないが、とりあえず後方のふたりのペースを見ながら、探り探り進んで行く。車がいないときは速度を緩めて、走りながらおしゃべり。なかなか楽しい。残念ながら8km走ったところでタケダさんは時間切れ。小さな自転車でeバイクのペースで走るのは大変だったと思うが、タケダさんのお陰でいつもとは違う楽しい時間になった。ありがとうございます!
海沿いの気持ちのいい道が続く。所々に花が咲いていて夏を感じる。新ひだか町にある『居酒屋漁』に到着。国道から少し入ったところにあるので、シンが教えてくれなかったら来ることはなかっただろう。地元の漁師から仕入れた旬の魚が食べられる店で、ヒロコは煮魚定食、僕はほっけ焼き定食を注文した。さらに女将さんが特別にアブラボウズ(なめわら)という深海魚の刺身を出してくれた。市場にほとんど出回らない貴重な魚で、全身が大トロと言われるほど脂がのっているらしい、初めて食べたがほっぺたが落ちそうなほどおいしかった。
シンとはここでお別れ。30年以上間に出会った旅の旧友が、まさか3日も付き合ってくれるとは思わなかった。嬉しい限りだ。「気を付けて」「また会おう!」がっちり握手をして別れた。今日は雨の予報だったが、結局降られることなく静内にある『ホテルローレル』に着いた。自転車を見ると、受付の女性がすぐに「屋内に保管しましょう」と申し出てくれた。細やかな心遣いが嬉しい。明るい女性でその後も「自転車で日本一周なんて、すごいですね」「夫婦喧嘩とかしませんか?(笑)」などなど、いろんな話で盛り上がった。
宿泊地:北海道静内町
走行距離:41.1km
総走行距離:3118.4km
DAY61
『ホテルローレル』には何と100円朝食というものがあり、朝から納豆や焼魚、玉子など、お腹いっぱい食べる、現金なふたり(笑)。苫小牧を目指して国道235号をひた走る。新冠はサラブレットの町として知られている。『道の駅サラブレッドロード新冠』に立ち寄ると、ハイセイコーの銅像があったり、活躍した歴代のサラブレットたちモニュメントが並んでいたり、サラブレットのぬいぐるみが売られていたり、サラブレット一色だった。僕は競馬をしないが、好きな人にはたまらない場所だろう。
お昼ごはんの時間になると、ローカルな食堂を探して日高町の町中へ入っていった。どこにでもありそうな普通の町で見つけた、ローカルな『いこい食堂』。店内に入ると地元の人で賑わっていた。メニューを見るとラーメン、うどん、そば、丼、定食……何でもある。久しぶりにラーメンを食べようということになり、ヒロコは塩ラーメン、僕は味噌ラーメンを注文した。どちらも650円の安さ。特別なことはしていない、素朴でおいしいラーメンだった。
3時過ぎ、秋田からフェリーで上陸した苫小牧東港の入口が見えてくる。僅か1か月半前のことなのに懐かしく感じる。これで一筆書きの北海道一周は完結となるが、北海道の旅はこの先もまだ続く。
4時過ぎに苫小牧市内に到着する。マクドナルドでコーヒーを飲みながら作戦会議。北海道の先、東北の日程を考えるようになり、旅が進んでいることを実感する。夕食を終えると北海道で最初に泊まったネットカフェへ行く。見覚えのある店内、これから始まる北海道の旅にワクワクしていたことを思い出す。さあ、いっぱい寝て、明日もいっぱい走るぞ~
宿泊地:北海道苫小牧市
走行距離:86.2km
総走行距離:3204.6km
取材協力:
ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/ypj/
セナブルートゥースジャパン
https://senabluetooth.jp/
ステムデザイン
https://www.stem-design.net
武田レッグウェアー
https://www.rxl.jp