還暦を超えた夫婦がeバイクで行く日本一周の旅。昨年の夏、約3か月かけて東日本を一周。今年4月から西日本の旅がスタートした。自宅のある神奈川から太平洋沿いを西へ西へ、東海、関西、中国と進み岡山からフェリーで香川県高松へ。そして徳島県阿南までやってきた。
DAY130
四国最東端にあたる徳島県阿南市、ここから四国東部の南端、室戸岬を目指すのだが、あいにく明日と明後日の天気予報は雨。雨天走行はできれば避けたいところなので40km先の美波にあるHOSTELで連泊して、様子を見ることにした。
何はともあれ国道55号で美波方面へ向かった。しかし、昨日は目の痒みと鼻水がひどかった。原因はアレルギーなのかよくわからないが、きつかった。念の為、今日は目を覆うスポーツサングラスをかけおく、効果があるといいんだけど……
しばらく走ると国道沿いに廃墟のような建物が現れ、気になり足を止めた。駐車場らしきところに人がいたので尋ねると「カフェらしいですよ。実は自分達もネットで見つけて、今日が初めてなんです」と笑った。崩れかけたレンガ積みの建物に絡まる植物……。なんとも不思議なカフェだ。今日はホテルの朝食を食べていた後だったのでパスしたが、興味をそそられるお店だった。
途中から国道55号を離れ、県道へ入ってゆく。交通量はガクッと減り、緑に囲まれていい雰囲気になった。天気もいいし、ふたりとも上機嫌、自然と鼻歌が溢れる。海が見える田井ノ浜に出ると、昨日伊達さんからもらった竹輪とカツ天でお昼にごはんする。ベンチに座り海を眺めながらおしゃべり。「こんな風に景色をのんびり眺めながら食べるのって、久しぶりだね」「何だかいいなぁ……」ヒロコが嬉しそうに微笑む。
四国に入ってから白衣のお遍路さんを時々見かけるようになった。走り出すと少し前に見かけた女の子のお遍路さんがいた。声をかけると高知の歩き遍路さんだった。宿が中心だが野宿もするハードな旅だという。苦労が多いと思うが、ぜひ頑張って最後までやり遂げて欲しい。
木々が鬱蒼と生い茂る、山の道を進んでゆく。峠を越えると再び海が見える場所に出た。しかし、ほとんど車が通らないので、まるでプライベートロードのよう。景色の良いところを見つけては自転車を止めて写真撮影。マイペースで進んでいく。
午後3時過ぎ。予約していた美波町の宿『ICHI THE HOSTEL』に到着した。若い女性オーナーがルールや部屋などを丁寧に案内してくれた。キッチンや居間、シャワートイレなどの共有スペース。部屋は2段ベッドが3つあるドミトリールーム。ざっと見ただけで、少し狭いが居心地が良さそうなことはすぐにわかった。ゲストが次々に来るが全て外国人。飛び交う会話は英語、日本を旅していたはずなのに、不思議な感覚に襲われた。
宿泊地:徳島県美波町
走行距離:40.7km
総走行距離:6066.2km
DAY131
予報の通り朝から雨。連泊にして正解だった。今日は宿にこもって原稿書きの日とする。食事も宿のキッチンで自炊をして節約する。ただ、ヒロコが虫に刺されたのか? 身体中のあちこちが赤く腫れ上がっているのが心配だ。おそらく普通の虫刺されだと思うが、疲れなどで免疫力が下がり炎症したのだろう。宿の人に相談すると薬局で塗り薬を買ってきてくれた。全身に十カ所以上に塗る、これで治るといいが……
宿泊地:徳島県美波町
走行距離:0km
総走行距離:6066.2km
DAY132
昨日からの雨が続いている。外に出られないのでほとんど宿の中で過ごす。午後3時過ぎ、ようやく雨が上がったので外出。ドラッグストアでビタミン剤や食料を購入、その後は四国霊場八十八ヶ所の第23番札所となる薬王寺を訪ねた。高台にある寺で階段を登ると拝殿があり、振り返ると美波の町と海が見える。歩いているだけでも気持ちの良いお寺だった。
美波町には古い建物がいくつか残っていて、通りの一角に建つ趣のある建物が目に留まった。古い銭湯をオフィス場所があると聞いていたので、ここかもしれない。中を覗くと働いている女性が2人いて、建物や仕事のことを話してくれた。昔のロッカーが収納として使われていたり、湯船の段差を使ってテーブルにしていたり、各所に銭湯の面影を残しながらもオフィスとして活用されている。素晴らしいアイデアだと思った。
宿泊地:徳島県美波町
走行距離:0km
総走行距離:6066.2km
DAY133
2日間滞在した甲斐あって、今日は朝から青空が広がっている。オーストラリアから自転車旅にきた同年代のおじさん3人組を見送ると、僕たちも準備を整え出発した。少し遠回りになるが、国道を離れて海側を走る『南阿波サンライン』へ入ってゆく。
道幅の広い道で、緩やかなアップダウンとカーブを繰り返しながら南下する。第一展望台に登ると、視界いっぱいに青く壮大な海がドーンと広がった。素晴らしい景色を眺めていると旅に出てよかったと心から思う。
『南阿波サンライン』を19kmほど走り、国道へ戻ってきた。道沿いの中華屋でお昼を食べ、再び走り始めると渋滞ができていた。少し前にパトカーが猛スピードで走っていった、もしかして?と思ったらやはり事故だった。1台はフロントが大破、もう1台もかなりひどい状態。あらためて事故には気をつけよう、と思った。
午後3時、海岸線にある『海の駅東洋町』に到着した。隣接するキャンプ場に泊まるため、タブレット記入で受付。1泊2日、1980円を支払ってから、受付の人に電動アシスト付き自転車で旅をしているので、数時間だけ電源を貸してもらえないか相談をした。すると「充電禁止です」と断られてしまった。これまでいくつものキャンプ場に泊まってきたが、断られたのは初めて。思わぬ事態が起きてしまった。
隣にホテルがあったので、藁をもすがる気持ちで行ってみる。受付で状況を説明すると「それは大変ですね、いいですよ、遠慮なくうちの電源を使ってください」と親切に言ってくれた。よかった。ほっと胸を撫で下ろす。代金はいらないというが申し訳ないので、売店にあるお菓子や飲みものなどを買わせてもらった。
今夜のキャンプ場の宿泊客は僕たちのほかオートバイが1台、自転車旅行の外国人カップル、計3組らしい。今夜は風もなく、気温もちょうどいい、虫もいないし、とても快適なキャンプとなった。
宿泊地:高知県東洋町
走行距離:42.9km
総走行距離:6109.1km
DAY134
キャンプ場の朝。荷物を東屋に移動させて出発の準備をしていると、ポツポツ雨が落ちてきた。すると外国人旅行者も東屋へ避難してきた。話をするとベルギーからきたカップルで3か月の予定で日本の四国と北海道を旅するという。四国に来てから自転車で旅しようと思い立ち、自転車屋で探したが、どれもサドルが低過ぎ、体に合うサイズの自転車を見つけるのに苦労したという。短足の僕には体験できない、何て羨ましい悩みなのだろう(笑)。話の中で好きな日本食を聞くと「ビビンバ!」と答えたので笑った。「あれは韓国料理だ」と言うと「えっ、そうなのか〜」両手を広げておどけた。
走り始めると別の外国人自転車と遭遇した。追いついたり、追い抜いたり。走りながら声をかけると73歳のドイツ人旅行者で、日本を旅するのはこれが2度目、前回は日本を縦断したと言った。「タフですね」と褒めると「ガハハハ……」と豪快に笑った。
その後は別々になったが、しばらくしてドイツ人と再会した。ガードレールの下を見ながら何かをしている。「どうしたんだ?」自転車を止めて声をかけると「トラブル!」と叫んだ。ガードレールの崖下を指差したので見ると、約2m下にコンパクトカメラがあった。どうやらバックを開けたはずみでカメラが飛び出し、落ちてしまったたらしい。
カメラがひっかかっている、その先は断崖絶壁。僕ならなんとか自力で取って来れらそうだったので、僕がピックアップすると行って、ゆっくり崖を降りた。滑り落ちないよう慎重に動いていると「おい、おい、大丈夫か? 無理するなよ」とドイツ人が心配そうに言う。ヒロコも「怖いわ、絶対に落ちないでね」と心配顔。その後、無事カメラを救出。ドイツ人は何度も「サンキュー、サンキュー」と喜んでくれた。よかった♪
その後、しばらくすると再び雨がひどくなった。軒下でしばらく雨宿り、小降りになったタイミングを見計らって再び走り出す。室戸岬に着く頃には雨も上がっていたた。岬から坂道を上り、今夜の宿泊地『夕陽ヶ丘キャンプ場』を目指す。すぐかと思ったら意外と遠く、着いた時には疲れてヘロヘロになっていた。
売店どころか自動販売機もない山奥のキャンプ場、充電はできるか?心配していたが、管理人さんが「それならそこの電源使って」と気軽に許可してくれた。さらに「今夜は雨が降りそうだから、屋根のある炊事場にテントを張っていいよ」と親切に言ってくれた。
宿泊地:高知県室戸市
走行距離:43.5km
総走行距離:6152.6km
DAY135
夜、かなり強い雨が降った。屋根の下にテントを張ったので濡れずに済んだ。管理人さんに感謝。今日はいい天気だが、走り出すとめちゃくちゃ風が強かった。土佐で最初の札所となる24番『最御崎寺』を参拝、灯台を見学してから山を降る。国道55号に出ると高知方面へ向かった。
運悪く今日は向かい風。それもかなりの強風で、アシスト効いてるの?と疑いたくなるほどペダルが重い。特に遮るものがない海岸線に出ると、時速10km以下にダウン。いまに止まりそうな速度でノロノロ進む。
途中から風を避けるために旧道へ入って行く。しばらく走ると、古い町並みの通りに出た。ちょうど良いサイズの食堂があったので、そこでお昼にする。おばちゃんが一人で切り盛りするお店で、中華丼とかた焼きそばを食べた。休めた体を再び奮い立たせると、再び向かい風に突入した。
疲れたので道の駅『田野駅屋』で休憩。鉄道駅と道の駅が一つになった施設で、一角に『ゆずジュース100円』と書かれたのぼりがあった。売店が気さくな人で「どこまで行くんですか?」「63歳で?すごいですね」などなどおしゃべり。「自分も自転車に乗っているので、いつかそんな風に日本一周をしてみたい」と少年のように目を輝かせた。
午後5時半。ヘトヘトになってホテルに到着。町から5km以上、コンビニから2km以上離れた宿だったので今日は手前のコンビニで買っておいたカップ麺とおにぎりで簡単に済ませた。久しぶりの布団は気持ちがよく、あっという間に爆睡。過酷な1日はようやく終わった。
宿泊地:高知県芸西村
走行距離:62.9km
総走行距離:6215.5km
DAY136
たっぷり睡眠を取ったので体力も回復。高知市目指して出発だ。国道を避けて裏通りや自転車道など車の少ない道を選んで進んでゆく。海沿いの道を走っていると通行止めの文字、よく見ると可動橋が壊れて通行止めになっているようだった。橋の奥は手結港なのだがとても風情があり、アニメの舞台になりそう。
『ごめん・なはり線』と並行した道を進んでゆくと、各駅に独自のキャラクターが置かれていることに気がついた。ネットで調べるとアンパンマンの作者、高知出身のやなせたかし氏が考案したキャラクターが、全21駅に存在している、ユニークなローカル線だった。
あかおか駅を過ぎると鉄道ともお別れとなる。海に近い県道14号を西へ西へと包んでいくと、高知有数の観光スポット『桂浜』に到着した。駐車場から歩いて坂本龍馬の像へ。10年前に来た時は“ザ昭和”という感じで寂れた施設だったが、ガラッと新しい施設に生まれ変わっていた。
さらに坂本龍馬の像へ行くと、すぐ横に間近で見られる展望台まで登場していた(期間限定らしいが……)大きな変化に戸惑いながらも、初めて来たヒロコと共に浜辺を散歩したり、龍王宮に登ったり、桂浜を楽しんだ。
宿泊地:高知県高知市
走行距離:47.1km
総走行距離:6262.6km